準備
「ぐはぁ!」
「はぁ、ホント使えない。これだから無能は嫌なのよ」
屍の玉座に腰掛け、ロストは鞭を苛立たし気に持つ。
ロストの階下には複数人、苦しそうな呻き声と共に倒れている。
全員、アイカを捕らえようとしていた追手達だ。
「おい、そこのお前。準備はどこまで進んでる」
「は、はい。あと一時間程度で整う手筈です」
「三十分で終わらせなさい。悠長にしてる時間なんてないのよ、戦況とタイムセールは」
慌てて去っていく手下に侮蔑の視線を送りながらロストは舌打ちする。
本当なら今すぐにでも単身飛び出し、幻獣種を奪いに行きたいのだが、それは出来ない。
何も現場の指揮を任された責任感から、ではない。そもそもロストにそんな義務感は皆無だ。部隊を指揮する様に言われたからするだけ。
部下ではなく手下。使えと言われたから使うだけのモノに過ぎない。
そんなロストが苛立ちながらも
「──騒々しいな」
ぐ、と空気が重くなる。
まるで突然重石が全身に乗りかかった様な息苦しさと共に、一人の男がロストの背後から姿を表す。
男が歩き出すと、自然と道を空ける様に反乱軍の兵士達が後退る。
退けと言われた訳ではない。
退かなければ殺られる。本能的にそう理解できたから、反射的に距離を取ったという方が正しい。
それだけこの男──漆黒の大剣使い、ジェネリードは異質な存在だった。
「来るなら自前に連絡してほしいんだけど。女にはいろいろ見繕う時間がいるのよ」
「この後の予定は」
「いやん、まるでデートのお誘いみたいでお姉さん火照っちゃう」
「答えろ」
「はぁ、これだから前戯知らずは……。防衛線は瓦解寸前、一時間後に森を抜けて一気に平野を侵攻。最後の搾りかすをぐちゃぐちゃにしたらお終い。日が昇る頃には街を占拠よ」
ジェネリードは暫くジッと佇んでいたが、やがて再び身を翻す。
「あ、ちょっと待ちなさい」
思い出した様に言うロストに、ジェネリードの足が止まる。
「ねぇ知ってた? 何でか分からないんだけどこの戦線に例のお姫様がいたわよ。前に言ってた『神の手綱』はまだ目途が立っていないんでしょ? あの幻獣種事態は計画に関係ないからあたしのモノにしてもいいわよね、ねっ?」
「……」
「悪い話でもないでしょ。幻獣種の力をアンタ等も手元に置ける訳だし」
「……好きにしろ。もし幻獣種を手に入れたら『数字』持ちも考えてやる」
「マジ? 決めた。何が何でも奪ってやるわ!」
やったー! と手足をバタバタさせて喜ぶロストを尻目に、ジェネリードはその姿を薄暗い周囲に眩ませた。
「もう我慢できないわ! 支度を急がせなさい。直ぐにでも幻獣種を奪いに行くわよ!」
屍の玉座に立ち、ロストは鞭を叩いて檄を飛ばす。
松明に照らされたロストの眼が、得物を狩る獣の様に爛々と怪しく光る。
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