幕間 最後の村

第192話 最後の村01



「ほら ちゃんと食べなさい」


「ママこそ 何も食べてないでしょ」


「私はいいのよ この草は苦くて苦手なのよ」


「もう 私もよ」




毎日平等に配給される食事


今日は苦い草だった


・・・


きっと明日も 明後日も


・・・


この村は限界に来ていた


それでも平等に配給される食事


・・・


いい人ばかりなのに


・・・


村の入り口には 冒険者様歓迎の大きな垂れ幕が


しかし


この村を訪れる冒険者はいない


・・・


この村の男達は強かった


なぜなら 村の周りの魔物が強いから


しかし 魔王軍が南の国に攻めて来た時に徴兵されて 強い男達は戦争へ


そして


誰も帰って来なかった


パパも


・・・


村の外に出ることは出来ない


外には恐ろしい魔物しかいないのだ


強い魔物しかいないのだ


レベル100以上の冒険者でなければ この村には辿り着くことも出来ない


・・・


助けは誰も来ない


村の中で飼っていた家畜は 既に食べてしまった


もう食べる物が何も残っていないのだ


・・・


パパが 男達が帰ってくるのを信じて待っていたのに


既に5年も経つ


その間に訪れた冒険者は誰もいない


・・・


いや


いたらしい


パパ達が出かけて すぐの頃に1組のパーティーが来たと


・・・


その時 私は0歳 覚えているはずがない


ママは笑いながら話してくれた


口説かれたのよ って


パパがいること 子供がいることが分かると


絶望したように落ち込んでいたのよ っと


笑いながら話してくれた


・・・


こんな村にも冒険者が来る可能性がある


1組でも冒険者達が来てくれたら助かるのに


・・・


この村は限界


ママは何も食べていない


毎日 水のみ


食べ物は全て私に


っと言っても 最近は草しか配られないのだけど


このまま 冒険者が来るのを祈るしかないの


・・・


この村には もう 草もほとんど残ってないのに


・・・


村の外に


・・・


森の中には果物が実っている場所があるらしいのに


・・・


このままだと 私は ママは


・・・


もう 待てない


・・・


私は


・・・


村の外に


・・・


ほら 大丈夫


魔物が強いと言っても 見つからなければ問題ないのよ


果実が実っているのは森の中と言っても すぐって言っていた


・・・


見つからなければ


・・・


私は高鳴る胸の音を抑えるように左手を胸に


森の中を覗き込む


ほら やっぱり 魔物なんていない


大人達は大げさなのよ


初めての村の外 話でしか聞いたことがなかった村の外 そして森の中


大丈夫 必ず 果実を


・・・


私は森の中をゆっくりと進んで行く


大丈夫 大丈夫


何もいない


・・・


100メートルくらい進むと


真っ赤な色


これが


たしか これはリンゴと言う名前の果実


2つ いや 平等に分けるから 沢山取らないと


赤いリンゴ


その奥に赤い2つの


えっ


黒豹の魔物 赤い目の魔物


見つかると逃げることなど出来ない魔物


・・・


黒豹の魔物は私に向かって ジャンプ


ママ ゴメンなさい


ゴメンなさい


{ママはね 口説かれたのよ 大晦日の日に 14歳の男の子 ふっふっ 英雄様にね}


{英雄様}


{そうよ それも最強の英雄様なのよ ふっふっふっ 可愛い子を絶対に助けてくれる英雄様なのよ}


{可愛い子}


{パティが大きくなったら ふっふっふっ きっと 口説かれると思うわよ}


助けて


「助けて 助けて 英雄様~」


黒豹の魔物は私に向かって


あれっ


パティに飛び掛った黒豹の魔物は ジャンプ力が足りずに 少し手前に着地


黒豹の魔物は困惑しながらも 再び 私に向かって


・・・


小さくジャンプした


えっ


私まで 届かない


しかし 目の前に


私は後ずさる


黒豹の魔物はなぜか困惑しているように見える


狙いを外したのだろうか


分からないけど とにかく怖い 逃げないと


でも絶対に逃げることの出来ない魔物だって


えっ


逃げようとすると 私の足に絡み付いて来た


小さな狐が


甘えるように


可愛いが 今はそれどころではない


黒豹の魔物の目線が私から 可愛い子狐に


今なら逃げられるかも


可哀想だけど 私の代わりに


・・・


私はゆっくりと後ずさる


黒豹の魔物は可愛い子狐に向かって ジャンプ


小さくジャンプした


えっ また狙いを外したの


子狐まで届いていない なぜか小さくジャンプ


黒豹の魔物は恐ろしい魔物なのに


私の気のせいだろうか


何だか 怯えているように見える


黒豹の魔物は後ずさり


えっ えっ


森の奥へと消えていった


どうして


可愛い子狐は私の足に絡みつく


そうだ チャンスよ


私は10個のリンゴを服で包み 走って森の外へ 村へ


私は全力で走って村へ


可愛い子狐は追いかけてくる


村まで あと少し


あと少し


そして


・・・




助かった


私は門を閉め 座り込む


震える私の顔を 子狐がぺろぺろと舐めてくる


「パティ パティ 無事なのね」


ママが走ってきた


「ママ」


私は泣きながら ママに抱きついた


「あれほど 外には出たらダメって言ったでしょ 本当に馬鹿なんだから」


「ごめんなさい ごめんなさい ママにも食べて欲しかったの」


「パティの命の方が大事なのよ」


「ゴメンなさい」


ママは私を優しく抱きしめてくれる


・・・


そうだ


「ママ リンゴを取ったの 10個もあるのよ」


「もう 無理はダメなんだからね 皆で分けてもいいわね」


「うん そうだね」


皆で平等に分けないと


私が振り返り 服に包んでいたリンゴを見ると


・・・


ない


・・・


足元で甘えている子狐


・・・


犯人はお前だ


可愛いからって


「もう 皆のリンゴだったのよ 食べたらダメだったの」


子狐は首を傾げる


「パティが無事なら問題ないわよ」


「でも ママにも食べさせてあげたかったのに 私も食べてないのに」


「大丈夫よ 大丈夫」


「馬鹿狐 許さないんだからね」


子狐は悲しそうな顔を


「そんな顔をしてもダメなのよ 私達は食べ物がないの どうしてくれるのよ」


子狐はコクリと頷き


えっ 


村の外壁をジャンプして飛び越えた 


「ふっふっ パティを守ってくれたんじゃないの」


「えっ そんなことない ・・・ えっ 守ってくれていたの」


そんなはずは でも


・・・


私を探してくれていた村の人達に謝り


家に


・・・


1つくらい食べたかったなぁ


すぐに その場で食べていれば


・・・


「ドスン」


えっ 何


「パティは下がって 下がりなさい」


ママがそっと家の外を覗く 音のした家の外を


「きゃっ」


「ママ 大丈夫」


「魔物」


えっ 追って来たの 私のせい


なぜか 母親は家の外に


「ママ」


「パティ 来て 魔物よ」


えっ えっ


恐る恐る外を覗くと 大きな魔物が


そして ママの足元にじゃれつく 子狐がいた

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