ゴメンネ、アリガトウ
『精一杯勇気を振り絞って彼女は空を飛んだ』
私が大好きなアーティストの歌詞がふと頭をよぎる。
彼女は何を思ってこの詩を書いたのだろう。
今の私なら、この言葉の意味を誰よりも理解できる気がした。
その瞬間、棒のようだった足に力が入った。
私は精一杯地面を蹴っていた。
正面には雲ひとつない、青空が広がっている。
それは、私がこれまで見てきた空の中で一番美しい空だった。
しかしその映像は視界からすぐに消えた。
手足を精一杯伸ばす。
空を自由に駆ける鳥のように飛びたかった。
飛べるかな、そんな微かな期待を抱いていたことに気づく。
しかし私の意思に反するように、頭が先導を切って重力に引っ張られていく。
すると、頭の中にたくさんの映像がシャボン玉に乗ってやってきた。
小さい頃の私、学生の頃の私、働き始めてからの私。
追いつけないスピードでどんどん映像がやってくる。
それらの映像は私の眼の前で止まり、はじけてすぐにいなくなった。
あ、いた。
彼がいた。
彼は私に笑いかけている。
どんな時も私を信じてくれていた。
私が怒っても、冷静に私に向き合ってくれた。
私は大した人間じゃない。
それなのに、誰よりも私のことを大切にしてくれた。
大好きだった、
本当に大好きだったんだ。
自分の全てをかけても守ってあげたいくらい、
大好きだったんだ。
それなのに……
目頭と鼻の奥が熱くなる。
もうすぐ終わる。
もうすぐ彼の元に行ける…
…のかな。
その思いが確信ではないとわかると、また笑えてきた。
私の肌を撫でていた風を逆に私が突っ切っている感覚に変わる。
私を大切に思ってくれた人全員に伝えたい。
本当に、心からありがとう。
生きることって大変なんだね。
生きるってだけで辛いんだね。
それでも生まれてきた以上、生きていかなきゃいけないんだね。
精一杯生きること、それだけで十分なんだよ。
でも、
私はもう嫌になっちゃった。
ごめんね。
ごめんね。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう…
それでも、私はみんなに出会えて幸せだった。
これだけは本当にみんなに伝えたいんだ。
この声が誰にも届かないことはわかっていながら、そう思わずにはいられなかった。
頬を伝う水滴はきっともう乾いてる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます