第7話



 夢の中は雨であることが多かった。



 場面が見知らぬ街であったり懐かしい故郷だったとしても、その全体は雨で霞んでいる。そしてそこの空気は嫌悪感を覚えるもので、そのときはっと目が覚めるのだ。





 夢にストーリーなど存在しない。否、単に覚えていないだけかもしれない。



 夢の中の感情を現実にそのまま引きずってしまうぼくの心と呼応するかのように、夢の中の雨は現実世界でも続いていた。



 商店街を彷徨う自分の中にぼくは戻った。



 どこをどう歩いたのか、もはや思い出せない。商店街の脇にそれて店の終わりのような場所に出ていた。



 見たことのない場所だ。



 中心部の現代的な建物が支配している空間とは違い、数十年前の木造建築の家屋が隙間を埋めて建っている。



 振り向いて来た道を確かめるが、いまいちこの場所がどこなのかわからない。アーケードの屋根すら見えず、いつの間にか髪から滴が落ちていた。



 弱った。



 高いビルは遠くに幾つか群をなして立っているも、どれも無個性でランドマークには適さない。さらに遠いところにある建築物なら場所を少しは絞れたのだが、生憎この雨で視界は悪かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る