一花カナウ・ただふみ

第1話

 嫌な夢を見た朝は決まって雨で、その日の朝もやっぱり雨だった。



 ぼくはまだ夢の中にいるような妙な心持ちで目が覚めた。



 遠くで耳鳴りのように響く雨音。



 憂鬱な気分だった。



 顔を洗い着替えると、トーストを1枚焼き、バターを塗って朝食とした。今日は別段やることもない。午後の授業は休講だったから、もう学校へ行く必要はない。誰かが訪ねてくることもないだろう。



 部屋の小さな窓から見える切り取られた世界は、曇天をやっとの思いで支えている細いビルの群をかたどっている。冷たい霧雨が辛うじて確認できる。風はなさそうだ。



 ぼんやりと景色を見つめていたぼくは、外に出てみようと思いついた。何も期待できそうにないが、同じ退屈なら家に籠もっているよりも少し身体を動かす方がよい。



 そこに考えが辿り着いたときには、既に玄関に立っていた。

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