第73話 思い返しとハロウィンのいたずら
「ハロウィンの時期ですね、龍海さん♪」
学園の校庭で走りながらアイリーンが龍海に語り掛ける。
「そうだな、財団Uも最近は動きがないし平和に過ごしたいな」
アイリーンと並走しながら、去年のハロウィンは祖母の襲来などで面倒くさかったなと思い返す龍海。
ゲームメーカーとの戦い以降、財団Uはなりを潜めていた。
「その分、普通に既存の悪の組織やヴィランが悪事を働いてはヒーローが火消しに
向かうといういつもの日常が帰って来ましたね」
アイリーンの言葉通り、特撮番組で言う所の映画の後の本放送の如く悪が事件を起こせばヒーローが立ち向かうと言うヒーローにとっての日常が戻っていた。
龍海とアイリーンも実戦経験を積んではいるが、学生としての勉強や訓練を疎かにはできずこうして二人で放課後の補習で走り込みをしていた。
二人共、ただ走っているのではなくそれぞれ青とピンクのジャージ姿で腰にロープを巻き付けてタイヤを引きながらの走り込みであった。
タイヤはニュータントの攻撃にもある程度は耐えると言う特注品だ。
「ジープで追い回されるよりは楽しいな」
「ひ~! ひ~! ふ~~~っ!」
「いや、その呼吸は子供産む時の奴!」
嫁の呼吸にツッコミを入れつつ走る龍海。
事件がひと段落したことで、龍海達も他の学生ヒーロー達のように学業に訓練に青春の謳歌にと落ち着いた日々を送っていた。
こうした落ち着いた時だからこそ、二人はおざなりになりかけていた体作りなどのトレーニングに励んでいた。
「魔界パトロールも、いつものように地球に来たはぐれ悪魔を退治したり送り返したりと今の所は大事件が起きていないのがありがたいぜ」
龍海が自分達のメイン業務である魔界パトロールについて語る。
「友好国の方達を留学生で受け入れる話も進んでいませんよね?」
「魔界も地球もどちらもガイドラインやらが纏まっていないから家の学校があっても今はまだ願望の段階だよ、魔界と地球の夜明けは遠いぜ」
「私達の子供の代には、魔界と地球の友好関係を進めたいです」
「そうだなあ、ひいお祖父ちゃんが扉をこじ開けて父さん達が基礎を作りと来て
俺らの代でも何か成果を出したい所だぜ」
二人で魔界と地球の未来を語る龍海達、ある程度走った所で走り込みを終える。
「伝説のニュータント・グリモワールでもあればもしや?」
タイヤトレーニングに移ろうと龍海が動いた時にアイリーンが呟く。
「伝説の本だよな、どうだろう? 父さんが学生時代に出くわしたらしいその一冊は未来を見せられたって聞いたけど、不確定要素過ぎる」
龍海は父親から聞いた話を思い出して疑問に思う。
「そう言われるとそうですよね、やっぱり堅実に行くのがベストでしょうか?」
アイリーンが残念そうにうなだれる。
「ああ、俺達ニュータントは色んな力が使えるからこそその手のスーパーパワーな話には眉に唾つけた方が良いよ力に振り回されるのは厄介だしな」
これまでの戦いや出かけた先での事を思い出して語る龍海。
「力は使い方次第ですからね、私達の力も財団Uの兵器も」
アイリーンも思い出して呟く。
「ああ、力におごらず振り回されずと心掛けないとな」
龍海がその言葉に頷き、二人はタイヤの上げ下ろしやスクワットと言った全身の筋肉を鍛えるタイヤトレーニングに励んでその日は帰宅して終わった。
そして、世界はハロウィンを迎える。
龍海達が暮らす屋敷も所在地である桃ノ島も例外なくハロウィン一色だ。
「龍海さん、ハッピーハロウィンですよ♪」
そんなアイリーンの言葉に龍海は絶句した。
豊満な胸と鍛えられた肉体を白い包帯で包んだマミーアイリーンが佇み笑顔で龍海を見下ろしていた。
「……まだ夢か、二度寝しよう」
現実逃避をするべく二度寝をしようとしていた龍海の布団を、アイリーンは思念の力で掌から包帯を伸ばして触手のように操って剥ぎ取った。
「ハロウィンだからってミイラ姿の嫁に起こされるのはシュールだ」
「全力で悪戯させていただきますね♪」
「やめて! ハロウィンはそういう日じゃないから!」
「……龍海さん♪ あなたがトリートになるんですよ♪」
逃げようとする龍海をアイリーンの包帯が拘束しようと襲い掛かる!
「いや、流石にもうその動きは見切った!」
濃厚な交際を続けて来た龍海、今までやられっぱなしだったのはただやられていたわけではなく相手の行動パターンの解析の為でもあった。
自分に向かって来る包帯を、最小限の体の動きで回避し自室から抜け出す龍海。
だが、部屋を出た瞬間に天井から巨大な蜘蛛の下半身を持つアラクネアイリーンが落ちて来る!
「あぶねっ! 今年は俺はそう簡単にキャッチされないぞ!」
アラクネアイリーンの襲撃を辛くも回避した龍海。
パジャマ姿で財布や携帯は自室だと思い出して、詰んだと気づく。
立ち止まった瞬間、アラクネアイリーンの糸が龍海の胴体に巻き付いた!
「……うふふ♪ 捕まえましたよマイダーリン♪」
龍海を捕えた糸を引き寄せて龍海を抱きしめるアラクネアイリーン。
龍海は状況を先延ばしにするべく対話を試みる。
「いや、話し合おうか? 俺はアイリーンと街にハロウィンのデートに行きたい」
「私はお家で龍海さんを美味しくいただきたいです♪」
龍海の会話判定一回目、失敗。
だが、ここで諦めたら試合終了だ。
「ステイ! 俺もアイリーンと愛し合うのはしたい、だが俺は今年はアイリーンの可愛くセクシーな魔女姿が見たいしそんな姿のアイリーンとデートしてスイーツの食べさせ合いとかしたいんだ!」
龍海は自分の欲望を吐き出す事にした。
「……ふむふむ、魔女のコスプレですか? それで龍海さんが私に積極的になっていただけるというのであればこちらにとっても悪くない提案です」
自分の得になる話なのでアイリーンは龍海の提案を受け入れた。
「良かった、じゃあ部屋に戻って着替えとかさせてくれ」
アラクネアイリーンに拘束されたまま自室へと連行される龍海。
「お帰りなさい龍海さん♪ さあ、トリックですよ~♪」
龍海が部屋に入ると、待ち受けていたマミーアイリーンと自分を拘束するアラクネアイリーンの二体のモンスター嫁に龍海は午前中一杯いたずらされたのであった。
そして昼過ぎ、少しやつれた龍海はアイリーンとデートに出かけていた。
紫のとんがり帽子を被りハロウィンのカボチャを模した胸当てが付いたオレンジ色の魔女とサキュバスが混ざった衣装を着たアイリーンに腕を絡め取られて引きずられているという状態で。
「……いや、出かける前にドレインされるとは思わなかった」
「ドレインしないとは言ってませんからね♪」
龍海はアイリーンに今年も勝てなかった。
彼の父親である進太郎も同じように母親達には勝てずにいたのは別のお話。
龍海とアイリーンはカフェに入りテラス席でハロウィンを楽しんでいた。
「大きいですね、このプリン♪」
オレンジ色の大きなカボチャをくり抜いた器の中にデカ盛りのカボチャのプリン。
「これは何か、カボチャの脳みそを食べてるみたいになるな」
ホラー映画のようなシュールさを龍海は感じつつアイリーンと二人でスプーンでプリンを掬って食べさせ合いをする。
「今度お家でも作って見ますね♪」
カボチャの器に入ったカボチャプリンが気に入ったアイリーンは、スマホで龍海とのツーショットを撮りながら自作する事を決意する。
龍海達のこの時の出来事が故事となり、後の世に皇帝プリンと言う名でハロウィンにカボチャのプリンを食べる事がヘルグリム帝国の風習となる事をこの時の二人は思いもしなかった。
龍海とアイリーンの高校二年生の秋は、無事に終わりを迎えたのであった。
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