GOLDな男
とある冬の日、マイソンシティ内にあるアーチボルト邸に一台のヘリが着陸した。広い裏庭でそこだけ異質な雰囲気となったヘリポートに降り立ったヘリから、素敵なまでに肥太った男性が出てきた。
「ここも、変わらないなぁ」
肥満男性は何処か遠い目をしながら、沈みかけの日から差し込む光を手で遮った。
彼こそはアーチボルト家の次期当主であり、現当主マークス・アーチボルトの一人息子ことエヴァン・アーチボルトである。
「おそれながら申し上げますと、エヴァン様が最後にこの家を出たのは先週ですのでそこまで変わらないかと」
「レイノルドよ、そこは空気読めよ」
付き人のレイノルドに冷めた視線を送ってからエヴァンは屋敷へと向かう。途中で出会う執事やメイドやらが作業の手を止めて頭を下げてくるのを横目で見ながらマークスの書斎へ行く。
ノックもせず無遠慮に入室する。ズラリと並んだ書棚の森をくぐり抜けながら奥の禁書室へ、同じく書棚の森の奥へ行く。エヴァンはこの時なるべく本を見ないようにしていた。ここにある禁書の中には表紙を見るだけで精神汚染するようなのがあるからだ。
「父さん帰ったぞ」
禁書室の奥にある机にて、エヴァンの父親であるマークスが読書を行っている。
足を悪くしてからはほとんどこの書斎にいるらしく、流石にたまには日光に当たった方がいいのではとエヴァンですら心配してしまう。
マークスは読んでた本を閉じ、エヴァンの方へ向いた。
「エヴァンか、少しみない間にまた太ったか?」
「やかましい! デブなめんな!」
「冗談だ。ニューヨークはどうだった?」
「どうって……割と悲惨だぞ。ニュースになってないだけで毎晩何処かでデーモンが現れてる。正直デーモンハンターの数が足りないくらいだ」
「そうか……そのデーモンだが倒すとどうなる?」
「砂になって崩れてるよ、最近そんなのばかりだ」
デーモンは基本的に倒せば消える。跡形もなく。しかし砂のデーモンは別だ。倒すと砂になって崩れおちる、普通のデーモンと違って砂が残るのだ。
「よくわかった。なるほど、つまり奴がニューヨークにいるのは間違いないな」
「一人で賢者モードしてんなよ、てかそんなの俺が言わなくてもベルカ研の資料見たら充分だろ」
「資料でみるのと現場の声を聞くのとでは違う」
「へいへい、じゃあ俺は部屋に戻って休む事にするわ」
書庫を出るとレイノルドが廊下で待っていた。親子の語らいを邪魔したくないという計らいだろう。
エヴァンとしてはレイノルドも家族同然なのでいても構わないのだが、やはり主従関係でいる以上はケジメをつけておく必要がある。
レイノルドはエヴァンの少し後ろを歩きながら彼の背中に話しかける。
「エヴァン様、先日頼んでいた物が届きました」
「お、なら早速使ってみるか」
エヴァンは早くも新しい玩具を手に入れた子供のようにはしゃぎ始めた。実際その通りである。
その時アーチボルト邸のエントランスにベルの音が鳴り響いた。玄関の所のインターホンを誰かが押したのだ。
「客か?」
レイノルドに尋ねる。
「いえ、おそらく」
心当たりがあるらしく、レイノルドはポケットから内線用の携帯を取り出して警備員に掛ける。
「やはりか、いつも通り頼む」
それだけ言ってから通話を切って携帯をポケットにしまう。
「なんだったんだ?」
「訪問販売ですよ、エヴァン様はお気になさらなくて大丈夫です」
「そうか……まあそんな事よりアレだアレ。はやく使わないとな!」
こうしてエヴァンは浮き足で部屋へと駆け込むようにはいる。レイノルドにしばらく人払いをさせ、自分は部屋の中央にあるダンボール箱の元へ。
鼻歌まじりに箱を開けて中身を覗き込む。そこにあるのは。
「ひょおお、これこれ。楽しみにしてたんだぜ……オナホ詰め合わせセット」
エヴァンの夜は長い。
――――――――――――――――――――
エヴァン邸を背にして黒人の少年がトボトボと寂しげな肩を落として歩いている。
彼はかれこれ一年近くもこのエヴァン邸に通い続けているのだ。週に二、三回程、夕方のこの時間に。しかしいつも彼は玄関口で追い返されてしまう。
「今日もダメか」
大体わかっていた。ほとんどルーティンになってしまっているからというのもあるが、エヴァンがまだ自分達に心を許してないからというのが大きいのだろう。
それをわかってるからか、追い返す警備の人達は何故かいつも優しく諭してくれる。
「また来るよ」
マシュー・ライスのルーティンはまだ続く。
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