満員電車のドラゴン
夏川 大空
第1話 サラリーマンのドラゴン?
わたしはしがないおじさんだ、頭もバーコードだし、くたびれた灰色のスーツを着て、妻に『いってらっしゃい』一つ言わないでただゴミ袋を持ってバス停に行き、満員電車に乗って、事務という名目でただ定年まで会社にしがみつくだけのどこにでもいるサラリーマンだ。
それでもまともに就職できただけマシなんだろう、娘を見るたびに思う。
わたしの娘は高校の時にできた友達とやらの影響で水商売に足を突っ込んでそれからはまぁ。
女の子に色々言うのはあれだけれど、せめて真面目に働いて欲しい。
わたしはいつも満員電車に揺られ、改札口の人ごみに流されて、AIにとられるという噂がある帳簿の入力なんかの仕事をするだけの存在。だから娘にも何も言えない、言えるわけない、こんなダサくて地味なクサイおじさん。
その日は、わたしは毎日のように満員電車に乗って、会社に行くところだったんだ。
満員電車の風景はいつ見ても変わらず、わたしもその中の一人なんだなぁとしみじみ思った。
皆スマホに夢中で人なんか見ていない、当たり前だ。
俺もスマホで落語を聞いていた。志ん生はいいよねぇ。
男の子がぽつりとこんなことを言った。
「これだけひとがいっぱいいたら、ドラゴンいても気付かないかもね」
まったくだから子供は、母親は誰にともなく謝っていた。
子供が降りて、誰も周りを見るやつなんかいない。
あぁまたあの駅か、沢山人が乗るなぁ……。
その時。
ありゃなんだ?と一瞬思った。撮影?カメラはどこだ、逃げないと。
でもそんな話聞いていないぞ。
でっかいワニだと最初思った。
いや、それはワニではなかった。
たしかに体は鱗でびっしりで、大きな口には牙が見える。
そしてあの背中の大きな翼はどうだ、恐竜のプテラノドン……いやあれはもう滅んだはずだ。
二本の頭の角の立派なところなど、誰かに見せびらかしたそうに油までつけている。
そもそも翼のほかにきちんと両手両足があり。
そして、それはそれは上等そうなスーツを着ている。
指には指輪と、爪が見えた。
背丈はちょうど180㎝ぐらい。
あれは……サラリーマンなのか?
いやまて、まず人間ではないだろう。
わたしは疲れているのか?
その日はとにかく定時で上がり、誰に言うわけでもなくただいまをして帰った。
次の日も同じ便。
果たしてドラゴンは疲れたわたしの見間違いではなかったようだ。
いやまて、あのOLっぽい娘さん、なんか耳が長くないか。
あのスポーツ新聞を持った肉体労働者のような男性はオークとか言うんじゃないだろか?
わたしは焦った、ファンタジー等若い世代に置いて行かれないようにかじっただけでわたしがその世界に行くことなど考えていなかった。
その時、ドラゴンの青年がこちらを見て笑ったのだ。
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