第2話

そんな自動販売機が撤去されることもなく、何故存在続けていられるのかと言うことだ。


なにせ一日二十四時間、一年三百六十五日、ぞっと稼動し続けているのだから。


電気代やその他を考えれば、完全に赤字である。


それなのにその自動販売機は、設置されてから十年以上も居座り続けているのだ。


オーナーの真中さんは、もともと集落で生まれ育った人だったが、不幸な出来事で奥さんと小学生だった娘さんを亡くした後に集落を離れて、今では関東のどこかにいるという話だ。


その真中さんが集落を去って一ヶ月ほど経ったある日、唐突にその自動販売機が設置されたのだ。


かつて真中さんの家があった場所のすぐ前に。


真中さんと自動販売機について、私は友田さんに聞いたことがあるのだが、友田さんは「何も知らない」と答えた。



そんなある日、ある噂が耳に入った。


友田さんが集落の長老に言ったのだ。


「真夜中、自動販売機の前に女が立っていた」と。


友田さんがそう言ったのは長老ただ一人だが、夜中に自動販売機の前に立つ女の噂はその日のうちに駆け巡り、集落で知らない人は誰一人いなくなった。


田舎のネットワークをなめてはいけない。


その情報伝達のスピードは、インターネットよりも速いのではないかと思われるぐらいなのだから。


夜に小さな公民館で集会が開かれ、私もそれに参加した。


議題はもちろん、自動販売機の前の女である。


長老が質問をし、友田さんがそれに答えるというかたちで集会は進んだ。


「私は聞いたが、他の人は聞いていないのでもう一度聞くが、女を見たと言うのは何時ごろかね?」


「午前三時頃ですね」

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