午前三時の女

ツヨシ

第1話

私の家の近くに自動販売機がある。


もちろん自動販売機は日本中に数多く存在して、休むことなく自動販売を日々続行しており、近所に自動販売機があるという人は珍しくないだろう。


しかしその自動販売機のある場所は、他のものとは少しばかり異なっていた。


私の家は古い集落の中にある。


そこには人の住んでいる家は十二軒しかない。


そして東に南北に伸びる県道があるのだが、集落で県道に接している家は一軒もない。


県道から西に入る細いわき道がある。


その道は半円を描きながら北上し、再び県道と交わる。


集落の家は全てそのわき道と接しているのだ。


したがってその道を利用する人は集落に住んでいる人か、集落を訪ねて来た人だけと言うことになる。


そんな販売促進上決定的に不利な場所に、自動販売機があるのだ。


おまけに集落の人たちは、お茶やジュースといった飲料類は、県道から少し北に行った所にある大型スーパーでまとめ買いという人が多く、その自動販売機を利用する人はほとんどいない。


地理的条件により、集落に関係がない人が利用することは、皆無と言っていいだろう。


自動販売機から一番近いところにある家に住み、居間から件の自動販売機が見えるという友田さんに言わせれば、


「一年で売れる本数なんて、せいぜいニ、三本じゃないかね」


とのことだ。


ちなみに友田さんも、圧倒的有利な立地条件にもかかわらず、その自動販売機を数年利用していないそうだ。


かく言う私も、五、六年は利用していないような気がする。


となれば、嫌でも一つの疑問がわいてくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る