第90話風の妖精

「妾に謁見する事を許可しようっっ!!」


「…王女様、落ち着いて下さい。皆様も良くおいで下さいました!」


 いつもの発作を抑えるかのように慣れた対応で妖精王女を宥め、笑顔でユウト達を迎えてくれるチワワ。

 精霊王への報告を済ませた俺たちは、当初の目的であった風妖精の王女様に会いに来ていて、出会うなり開口一番これだった。


「王女様も元気そうで何よりだよ。チワワのおっちゃんは相変わらず大変そうだな」


「はははっ…まぁ、慣れていますからな。それで…本日はどんな御用向きで?まさか、遥々我らが王女様に会うためだけに来られたと?」

 まさか違うだろ?ウチの主人はそんなに褒められたもんじゃないしな。

 そんな気配をチワワの言葉からはビンビン感じるのだが、言われてる当の本人は気にする様子もなく踏ん反り返っている…


「して、妾に願いとは何じゃ?まさか…精霊の祖である妾に欲情したのか?」


「…ユウトさん、見境なさ過ぎます。」

「趣味が悪いですわ。」


「いやっ、俺まだ何にも言って無いから!?」


 勝手に見当違いな事を喋り出す王女を黙らせながら、悪ノリしてくる二人に突っ込んでおく。

 まさかメリーまで乗っかるとはタチが悪いぜ…


 俺は仕切り直して森に来た理由である知名度の向上と、森で起きた悪魔騒動を掻い摘んで説明した。


「ほぅ。それを精霊王が許したと……ふむ、なるほどな合点がいったわ」

 少し目を瞑り誰かと話をするように数度頷くと、何かに納得したような表情をする。

 しかし、横ではチワワが納得いかんと表情を曇らせていた。


 やっぱり妖精族と獣族では考え方とか、感じ方が違うのだろうか。


 とりあえず悪さをしていた悪魔とアキラ…みたいな悪魔も退治したとチワワを安心させる。

「ほぅ…」

 チワワは感心したように頷いていたが、王女はそんな事は知っていると反応が薄い。

 まったく、帝国で助けた時と変わらずチグハグな二人だな。


 そんな感想を抱いていると、王女は「それだけではなかろう?」と精霊王みたいな発言をしだす。


 まさか、こいつも人の心を読むのか。

 と、警戒していたが、どうやら微精霊達から情報を得られるらしい。

 焦って損したぜ…でも、アキラの事はバレてそうだな。


 たしか、嘘を隠すネタアイテムがあった気がするけど…まぁ、今更隠しようも無いか。

 俺は諦めて包み隠さずスタートホールの件を話してみた。


「なるほどのぅ。それで妾に精霊達を貸し出せと頼みに来たのか。」


「…え?なに?どゆこと」

 何を納得したのか、王女がしたり顔で訪ねてくるが、意味がわからん。


「なるほど、たしかに他の策を弄するよりも確かでございますな。」

 チワワも理解したようで顎に手をあてて納得顔をしている。


「当たり前です。我々の主であるユウト様は完璧ですから!」

 絶対に理解していないだろうティファが、無駄に褒めちぎってくるので混沌として来た。


「…ぁあ。そっか、王女様なら精霊を創り出す事ができるから、その子を送り出すって事ですか?」

 シャルが、ようやく気付いたと少し不安げに尋ねると、王女が不思議そうな顔で応える。

「なんじゃ?そう言う意図では無かったのか?」

 答えながらこちらに視線を向ける王女。

「へっ…あ、あぁ…そ、そうでし。」


 普段は若干天然気味なシャルが賢者スキルを発動してくれたおかげで、俺の理解もようやく追いついた。

 かしかに妖精達を生み出せるのは王女だけだ、とか言ってたような気がする。


 しどろもどろで返事をしながら、そんな事は可能なのかと確認してる。

 戻って来れなければどうなるのか、とかも聞いておかないと後味が悪くなるしな。


「何の問題も無いぞ。風の精霊達は、そこに世界があれば何処にでも存在するのだ。妾が生み出した精霊であれば、世界を隔てようとも意思を通わせる事もできよう。」


「そんな凄いことが…ほ、本当にやってくれるのか?」

 思わぬところで出てきた助け舟に縋り付くように聞いてみる。

 次元を超えて意思疎通ができるとか、凄すぎだからな。

 分身を作るアイテムはあっても、さすがにそこまでの事は出来ないし、本当にやってくれるなら色々と解決するんだが…


「本来であれば人の子の願いを叶える義理は無い……が、そなたらには借りがある。特別に妾の眷属を貸し与えよう。」

 言い終わるや否や、王女は両手に白い光を集め自分の前に突き出す。


 手の光は中心に新たな光を創る。

 辺りの風がそこに吸い込まれていくように渦を巻いていた。

「…すごいっ」

 誰かの呟く声と同じように、俺もその光景に吸い込まれていく。

 集まっていく風と光は、やがてぼんやりとした人型を形作る。


「…おうじょ……さま。あり…とうご…います。」

「妾の半身にして眷属よ、この者達の力となってやるのだ。」

 小さく王女に頷くと、生まれたばかりの妖精は俺たちに向かって振り向いた。


 …俺に似てる。

「ユ、ユウトさんっ!?」

「ユウト様…こ、これは……なんて素敵な!」

「私も一つ欲しいですわ。」


 女性陣が無責任な発言を横でしている。

 サイズ的には俺の一割くらいしかないが、中性的な感じと小ささで、本家(俺)を上回る可愛さがあった。

 …まぁ、俺に可愛さはないけどな。


 妖精には男女と言う概念が無いそうなので、少年ぽい感じの裸体をしっかり観察した上で身体に自動フィットするケープを掛けてやる。

「ちょっと大変な事をお願いするけど、宜しくな?俺はユウトで、こっちの皆は俺の仲間達なんだ。」

「は…い。よろ…く、おねが…ます。」


「もう少しすれば、しっかり言葉を話せるようになる。教える必要など無いぞ?他の者から知識は共有されるのでな。」


 なんと便利なことだろうか、相変わらず反り返っている王女は教育不要と驚きの発言をする。

 俺達はお礼を言い、いくつか注意事項を伝えられる。

 最後にチワワへ連絡アイテムを渡し王女の元を離れた。




 ……

「こいつに名前をつけてやらないとだなぁ」

 俺は右腕で子供抱きする小さな妖精を見て、歩きながら呟いた。

「ユウト様に因んだ名前がよろしいかと。」

「そうですわねぇ。ん〜、ユートリアなんて言うのは如何かしら?」


「はい。ありがとう…ざいます。わたしのなまえ…は、ユートリアです。」

 王女の元を離れてまだ少ししか経っていないのに、だいぶ流暢に受け答えをしている。


 メリーが提案した俺の名前に因んだとか、そんな決め方で良いのか?とも思ったが…

 本人が良いと言うのだから、まぁいいか。


 臨時ではあるが、俺達の仲間に加わった小さな妖精ユートリアは、アキラ達の所に着く頃には普通に会話をし、羽根を使ってパタパタと飛び回れるようになっていた。

 …親の介助なしで大きくなるとは、父さん寂しいぞ。

 まぁ、俺が生んだ訳じゃないけど顔似てるしね。



 ……

「…何そのオモチャ?ボクにくれるの?」

 戻って来た俺達を見るなり、ユートリアを見て目を輝かせるアキラ。


 おい、アキラ。

 …目が怖えよ!

 あれは絶対、解剖したり改造しようとしてやがる目だ!この人でなしっっ


「これは玩具ではありません。そして、誰にも渡しはしないっ!」

「あっ、ズルイですティファさん!私もユートリアちゃんは渡しませんから!」


 アキラの視線にたじろぐ俺に任せていられないと思ったのか、ここまでの道中でユートリアを抱っこしたりハグしまくって、仲良くなっていた可愛い物好きなティファとシャルが鉄壁の守りを見せくれる。


「…あっそ。じゃあいいや」

 自分の物にならないと分かるや否や、即興味を無くし作業に戻るアキラは間違いなくマッドサイエンティストの才能ががあるな。


 取り敢えず一旦全員集合させると、会議を行う事にした。

「あ、あの〜わ、私達は…その、もう帰っても大丈夫でしょうか?」

 ビクビクとしながら低姿勢で尋ねてくる犬人族の冒険者

「あっ、忘れてた…」

 アキラを襲った冒険者達は妖精達からの依頼だったようだし、こっちの依頼もきっちりこなしてくれたので、すぐに解放してやる。


 もちろん、俺達の悪評は立てないように…と、念を押して。

 何処かで変な噂を聞いたら、どこに居ても遊びに行くからな?

 って約束しておいたら、地べたに這いつくばって理解を示してくれた。



 彼等を解放…彼等と解散した後でアキラにユートリアと一緒にいる経緯を説明する。

  妖精の力を聞いたアキラは、しきりに「便利だ、使える」や「王女に挨拶に行くか」とか、何やら穏やかじゃない顔で呟いていた。

 今度、悪魔認定されても助けないからな、と忠告してはおいたが、あまり効き目はなさそうだ。

 …後で、チワワに黒い巨人を見かけたら注意するよう伝えておこう。


 俺達もアキラからスタートホールの稼働具合について話を聞いた。

 どうやら、一定以上の魔力を安定供給すれば動かせるみたいで、魔力路と呼ばれる操作パネルのような物も発見済みらしい。


「ご…しゅじ…ま、おなか…った。」

 バサリッと音を立てて倒れ込むレア

 余程こき使われたのか、腹の虫が大音量で鳴っている。

 ルサリィに食事の管理をしてもらっていたのに、こんなになってしまうとはアキラ恐るべし。


 その日は全員でキャンプを張り、転移実験は明日行うことにした。

 現実世界に戻れる…

 俺は頼まれても戻りたく無いけど、レンは喜ぶだろう。

 レンの願いが叶うのは、俺も純粋に嬉しい。

 だけど、シャルはどうなんだろうか。

 最近は俺にもフランクに接してくれているとは思うんだけど…

 幼いシャルを救ってくれたヒーローであり、愛しい人への想いってのは、どうなんだろうか。


 恋愛はゲームでしか経験の無い俺には、どんなに考えても答えは分からず、悶々とした夜を過ごすのであった…

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