第79話解放へのお告げ
ーーーー城塞都市 アスペル南部
ガラゴロ…ガラガラ…
アスペルを出発して馬車に揺られるアイアンメイデン幹部一行、もとい、いつものメンバー達
色々…そう。
ちょー色々あっての謹慎明け、今があるのを分かってもらえただろうか…
なんせ、帝国を強襲してアスナを救い出しシュウトと同盟を結んで、ガリフォンを倒してアスペルに帰った俺達を待ってたのは…
超絶笑顔のアールヴ爺さんだった。
謹慎の意味わかるかの?
気にし過ぎ無いようにとは言ったけど、さすがに脳みそ空っぽなのかのぉ?
…って、肩揺すられて頭ガシガシ振られるし
一応、帝国からは「たった一組織に攻められたなんて事実は無い!」と、帝国が国家の面子を守る方向に動いてくれたので、王国としてもわざわざ騒ぎ立てて、帝国と無駄に戦争するのは避ける方向で落ち着いたらしい。
お陰で俺へのお咎めも無しで済んだ訳だが、個人としてアールヴ爺さんが派遣されて来たんだそうな。
大げさに揺すられるとレベル差があるから結構痛いんだが、コントのように見えてるのか、俺が爺さんに襲われてるのに皆は苦笑いだったり、生暖かい目で見守るだけで、最近は誰も助けてくれなってしまった…
皆からは、まるで弟子と老師や爺ちゃんと孫のように思われてるんじゃなかろうか?
姉妹達も最近は爺さんに対してアレコレ言わなくてなって来ててガードが薄い
…たしかに何だか変な安心感があるから憎めないし、昔からからの知り合いって訳でもないのに変な感じがするんだよなぁ
「おにーちゃん、心配事?」
「ん?今日の晩飯は何を作ってくれるのかなーって考えてただけだよ」
俺は心配そうに見上げてくるルサリィに軽口を叩くと、肩よりも少し長くなった彼女の赤毛を撫でやる。
すると安心してくれたのか、笑顔で「美味しい物作るから楽しみにしててね!!」と張り切ってる姿が可愛くて癒された。
…もちろんコッソリとケモ耳も堪能したけどな!
アスペルから大森林までは割と近くて、馬車で二日程度しかかからない。
人数も最小限の六人パーティなので、何かあっても直ぐに対処できるだろうし、大森林は獣族や妖精族のパラダイスらしいからな。
じ〜っくり、ケモっ子達を愛でて羽根っ子達の宴に参加させてもらうつもりだっ。
トプの大森林に着いたら帝国で助けて恩をうった女王様とチワワ…ではなく戦士長チチワを頼ろうと思っている。
急ぐ旅では無いので、色んな部族を回って交流を深めながら名前を売って行く予定だ。
「ユウト様、この辺りでテントを張りませんか?森の入り口よりも平地の方が視界が広く取りやすいので」
「そうだな。それじゃあ皆、各自キャンプの準備に取り掛かってくれ!」
「「了解!!」
ティファの提案を受けて本格的に森に入る前にキャンプを始めた。
用意は手馴れたものでティファはテントの設営に薪集め、メリーは近隣の探索に行きレアは食材探し、シャルはルサリィの料理アシスタントだ。
…俺?俺は……皆の邪魔にならないよう砂場で「の」の字を描いて行く係さっ!
まぁ、冗談はさておき、この時間は大体アイテム整理をしている。
最近アクティブに動いているから、ダメージ無効なんかの防禦系アイテム残数が深刻だ。
守るべき仲間が増えて、流石にストックが厳しい…やっぱり、最低でも自分の身は自分で守れるようになるのは急務か…
「…味見……うま…毒味……おいし…もっと」
「こらぁぁっ!皆の分が無くなっちゃうよぉ!」
狩ってきた食材達をオーバーして味見しようとするレアをルサリィとシャルが抑え
減った分を俺のアイテムボックスから携行食料で補っておく。
全員で食卓を囲み明日の日程と、その日の見張り順を決め眠りに就いた。
ーーーー翌朝
「うあっ!?…はぁはぁ」
「どうしましたユウトさん?悪い夢でも見ましたか?」
「あっ…あぁ」
シャルに何とかこたえると乱れた息を整える。
俺が騒がしく起きたせいで皆を起こしてしまったようだ。
何があったのかと口々に尋ねられる。
「くぅーくぅー……へった…」
いや、レアだけは気にせず就寝中のようだ。
その姿に和んだおかげで少し冷静さを取り戻せた俺は皆に夢の話をした。
「ドラゴン爺…グランドドラゴンが夢に現れたんだ。最初は爺さんの姿で俺の知名度が世界で二番目になったって。」
「二番!?」
「流石ですユウト様!」
皆が感慨深げに褒めて祝ってくれる。
「あっ、ちなみに一位はジグムンドって勇者だって言われたけど、それってお伽話の奴だよな?空想の人物とかありなのかよ…」
「あらっ?ユウトさんは知らないんですか?勇者ジグムンドは実在の人物で数百年の時を生きる伝説の存在なんですよ!」
「…まさかあと一つ上の存在が伝説の勇者とかふざけ過ぎだろっ!」
ドラゴン爺さんの無理ゲー設定に改めて心の中で唾を吐いておく
「まぁ、それは置いといてさ。何故か力試しでもしてみるかって言われて、俺の夢に皆が現れたんだ」
少し声が上擦ってしまうけど、皆は真剣に話しを聞いてくれている。
「…それから少しやり合って、それで、俺の目の前で…み、みんながブレスで焼かれて行くんだっ」
あまりに夢がリアルだったので、思い出しても恐ろしい。
考えたく無いけど説明すると蘇ってしまう。
「俺は…俺は、それが怖くて。皆を失うのが恐ろしくて」
「大丈夫、わたくし達は簡単に倒されたりしませんわ。大丈夫…大丈夫」
情けなく震えていた俺をメリーが正面から抱きしめて、心配無いと頭を撫でてくれる。
その体温が心地良くて安心できて…年甲斐もなく撫でられる頭が心地良くて、体の震えを拭い去ってくれた。
しばらくすると震えも収まり恥ずかしさだけが残った。
「…あ、あのーメリーさん?もう、大丈夫なんだけど」
「いけませんわ!弱っているうちに依存させきっ…ごほん。そ、それなら、仕方ございませんわね」
周りの視線に負けたのか、簡単に離すまいと逆に顔が胸に埋まるくらいキツく抱きしめられた後に解放された。
「ぁ、あぁ〜その、なんかゴメンな?変に取り乱して。かなりリアルだったから、つい…」
「大丈夫です。ユウト様も皆も私が守りますので、安心してください。」
ティファが最後に力強くそう言うと、周りの皆もウンウンと頷いた。
俺も心配掛けた事をもう一度謝って、この件はそれ以上の話しを控えた。
…あの時は「皆」と伝えたけど、本当は少し違ったんだよな
これだけ周りで騒いでも、図太く眠り寝続けているレアを優しく起こしてやり、皆で朝食を摂ると大森林の女王の元へと向かった。
ーーーー剣神流 道場
…スンスンッ
「こ、この匂いはっ!?」
神国の東南にそびえるホリシア連邦の一つである三ツ山
万年雪をたたえるその山の山頂にあって、剣の祖と呼ばれる道場の門前を雪掻き始めて早半年…
人の形をした豚…いや、豚の顔を持つ獣人族の青年ウーバルは自身のチャームポイントである、巨大な豚鼻を駆使し滅多に来ない来訪者を感じ取っていた。
…ザクッザク
「おぉ、ウーバル!息災そうだなっ」
「ベアーレ兄貴!!」
数多くの門下生を抱える道場でも五本の指に数えられる、序列二位を与えられた熊人族のベアーレは笑顔で手を挙げた。
「おかえりなさいっ!…兄貴もお師匠様の事を?」
「あぁっ。突然すぎて急いで帰ってきたんだが、師匠はまだおられるのか?」
旅に出ていたベアーレが急遽道場に戻ることになった原因を訪ねる
「それが……」
しかし、予想通りの反応をするウーバルを見て溜息を吐いた。
「で、ジゼールは?」
「奥の間におられます。新しく師範になられてからは、毎日ずーっと道場に出られてるみたいです。」
自分の弟弟子であり、同じ序列二位を冠していた人物像を思い出し納得のいかない表情を見せるベアーレ
何故ならジゼールと言う青年は「いかに楽して強くなるか」に拘り、むしろそれに生甲斐を持っていたはずだからだ。
「何がなんだかな…」
自分の想像している人物がする行動とは理解出来ないが、ここで話していてもラチがあかないと、道場でも序列上位者が稽古する奥の間へと足を運ぶのであった…
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