第67話力と力のぶつかり合い
「アレス様っ!この場はお引きください!!」
「我々が相手だ…この魔女めっ!」
部下からの人望が厚い【天撃】アレスは、敗北が濃厚となった状況を悟った兵士達によって、撤退するべきだと背後に匿われていく。
「あらあら、先程まで震えていたゴミ虫が威勢の良いことですわ。…あなた、人望があるのですわね?」
されるがままに後ろに隠されたアレスは苦い顔をしながら、皮肉を言うメリーと自分を守ろうとする兵士達の顔を見る。
…皆、良い顔をしている、「死」を受け入れた上で俺を逃がそうと、想いに満ち溢れたものだ
「…分かった。お前たちの気持ちに応えよう!この【天撃】アレス・テレストル、ここで朽ち果てようと本望よっ!!」
「「アレス様っ!?」」
アレスは部下を犠牲に逃げる事を選ばず、回復薬を飲み干すと身体能力向上のスキルを発動していく。
そんな大将の姿を見た兵士達は先程までとは違った熱い表情を見せ、ここで全滅するとしても、メリーに一矢報いるのだと強い結束を築く。
…パチパチパチッ
「中々、良い男ではありませんかぁ〜」
アレスの決意を嘲るかのような軽い拍手を鳴らしながら、場違いに緊張感の無い台詞を吐く女が、アレス達とメリーの間に割り込んでくる…
「あなた…一体何者ですの?邪魔をするなら殺して差し上げますわよ」
不機嫌そうな顔でメリーが突如現れた乱入者に警告を発した。
そんなメリーの殺気に動じる様子も無く、黒の帽子に黒のローブを纏った、まさしく『魔女』と言う格好をした、プロポーション抜群の美女は軽く手を上げて応える。
「そんなに怒るとシワが出来ちゃいますよ〜?それに〜わたしぃ…このお兄さんが気に入ったので助けてあげようと思ってぇ〜」
先程までよりも一層険しい表情で極寒の殺気を向けるメリーに、女は気怠そうな態度を崩さず、プルプルした魅惑的な唇に指を当てて笑う。
「…分かりましたわ。死にたければまとめて殺して差し上げましょう!」
これ以上の会話は不要だと空気を読まない女諸共、帝国軍を消し去るための魔法を詠唱しようと魔力を練るメリー
しかし…この状況下でさえ不敵な笑みを崩さない女は、呑気に自己紹介をしながら待機させていた魔法を発動させた。
「わたしわぁ〜【逢魔の森の魔女】プリステラと言います〜またお会いしましょうね?お姉さん…オーバーディメンション」
名前を言い終えると一転して冷たい表情を浮かべ、手をかざすとメリーに魔法を浴びせる。
すると、突如メリーの姿が掻き消えて目の前には誰もいなくなってしまう…
アレスは一体なにが起きたのか分からず、呆然としながらもプリステラに尋ねる
「あ、あの女…メリッサ・アルフォートは死んだのかっ!?お前は何者なのだ…」
「ふふふっ…さっきとは違い可愛い顔をするのね?今のは少しの間だけ〜別の次元に飛ばしたの。だからぁ〜時間が経つと戻ってきちゃうわよ?」
ビクリと体を震わせるアレスは困惑しながらも頭の中を整理する。
…なんだか良く分からんが、この魔女と名乗る女は敵…では無いのか?なら、この機を逃さず即撤退するべきだ。
でも、本当にコイツは敵じゃないのか?あのメリッサを相手にするような化け物だぞ…
「ごくりっ…た、助かったよ。礼をしたいのは山々だが、すぐに撤退を始めたいのだ…申し訳ないが、失礼しても良いだろうか?」
プリステラを刺激しないよう、丁寧に言葉を選んでアレスは精一杯の作り笑いで質問する。
「構わないわよぉ〜でもぉ〜」
笑顔を浮かべていたプリステラは何かを思い出したように、テクテクとアレスに近寄ると…彼の頬にキスをした…
「なっ!?い、一体何をっ!」
「あらあら〜ほっぺにチューくらいで大袈裟ねぇ〜これは貴方への貸しね?」
助けた貸しの事かキスの恩着せなのか…何の事かさっぱり分からないアレスだが、ここで魔女の機嫌を損なうわけにはいかず、とにかく礼を言いこの場を立ち去る。
そして、すぐさま部下に撤退を始めるように支持すると、今回の件をどうやって皇帝に報告するべきかと頭を悩ませた…
ーーーーアスペル王国軍 本陣
「はぁぁあっ!!」
「ふんっ!!」
互いの武器を合わせ激しい火花を散らすティファとシュウト
同じレベル100でアタッカージョブである魔剣士のシュウトと、ディフェンサーのパラディンを持つティファだが、その攻防はやはりシュウト優勢で進んでいく…
「おらおら、どうしたっ!?パラディンロードの力はそんなもんかよっ!もっと強いプレイヤーなんて山程いたぞ?」
様々な魔法効果を付与して攻撃できるシュウトは、近・中距離での戦いを得意としており、ティファに攻勢を掛ける隙を与えない。
「くっ…仕方ありません。スキル『限界突破』」
「へぇ、時間限定のドーピングスキルか…おもしれぇ!楽しませてくれよっ!」
全能力を一定時間倍加するチートスキルに驚く事なく、自身も強化スキルを使いティファに向かうシュウト…
乱打戦では優位に立てるようになったティファだが、追い込んでいくとイヤらしいタイミングで魔法が飛んでくるので、あと一歩が押し切れない。
その戦い方から読み取れるのは、シュウトがこの世界に来てからも対人戦を相当数こなしていると言う事実だろう…
「認めましょう…貴方は強い。だけど、ユウト様の従者であり盾としてお前の刃を通す訳にはいかないっ!!」
ティファの身体が光を放つと、それに呼応するように周りに光球が現れる。
それは、パラディンのジョブを極めた者だけが使える奥義『ホーリーランス』と言うスキルだ。
「ならば、俺も見せてやるよ…イグニッションヘルファイア、フルバースト!」
本気でのぶつかり合いを楽しむようにシュウトは、相手が放つ最強のスキルに対抗すべく、複数の魔炎を周囲に展開し握る魔剣にも炎を纏わせ構える。
ティファの周りに浮いていた光球は少しずつ形を変えていき、やがて十本の光り輝く槍と化す…
「これで決めます!覚悟っ!!」
そう言い放つと同時に強化した両脚に力を込め、地面を蹴り上げるとシュウトに向かって突撃を敢行した。
…
「ティファ…押されてるな」
「誰の心配をしているのです?あなたは、先に自分の命を心配すべきでしょう。」
睨み合ったまま二人の様子を伺っていた俺達は、痺れを切らしたコハルによって戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
…正直な所、まったく勝てる気はしていない。
だって、相手は元NPCでAIと人間の知性を兼ね備えているし、俺とのレベル差は実に80もあるからだ…
いくら相手が手負いだとしても、こんな戦いを挑むなんて狂気の沙汰と言えるだろうな
「殺されないと高を括っているなら…瀕死の状態にして抵抗できないようにしてから、捕らえてあげましょう。」
さらっと涼しい顔で恐ろしい事を言うコハルは、本当に弱体化しているのだろうか…
そんな様子を見せない彼女は俺の事を視線に捉えながら、チャクラムと言われる円状の武器を構えた。
…やり辛い
いくら敵とは言え美女相手はいやだな
「逆に俺がお前を捕まえて身体中を取り調べしてやるからなっ!」
俺は強がりを言いながらアイテムを使用していく。
まずは壁役として『ゴーレムの心』をばら撒いて、小さめのアースゴーレムを召喚する。
耐久力は期待出来ないけど、五体いれば妨害程度には役立つだろう…
それからリフレクションシールドと火龍の牙を握りしめた。
「悪あがきにしてもその程度とはわらえませんね。地面に這いつくばって後悔なさいっ!」
「美女にされるのは興味あるけど、今はごめんこうむるよ!」
隙を見せず突撃してくるコハルのスピードは早い。
ゴーレム達が俺の前に立ち、攻撃から守ろうと動き出すが、「邪魔っ!」とコハルに薙ぎ払われ崩れ落ちて行く…
的確にコアを狙ってくるあたり、かなりの技量なんだろうけど、その程度は織り込み済みだと俺はトラップを発動させる。
…ゴボッ…ズルズルッ
「つっ!?」
ゴーレム達を破壊する為に減速していたコハルの足元から、植物モンスター「グラチェス」の蔦が飛び出ていく。
ゴーレムの心をばら撒いた時に混ぜておいたお陰で、気付かれること無くコハルの油断に滑り込んでいき、手足や体を拘束していった…
傷つけずに上手く捉えれたと喜びかけたが、レベルの高いコハルは抑えきれず蔦が引きちぎられる
「はぁぁっ!!」
身体中を覆っていた蔦を破られた事で、俺は覚悟を決め攻撃に移る。
「火龍の牙!」
蔦で視界が遮られていたコハルは、俺の手から放たれる炎の追撃に目を丸くし、腕をクロスさせ火に巻かれて後ろに吹き飛ぶ
「なっ、コハルっ!?」
圧倒的なレベル差がある相棒が吹き飛ぶ姿を見てうろたえるシュウト
そして、そんな相手をティファが見逃す筈は無く、腰の入った一撃をお見舞いした。
「ぐぅあっつ!!」
なんとか剣を差し入れ真っ二つになる事は回避したシュウトだが、大地に生える巨岩まで吹き飛び激突する…
「…くそがっ、ムカついて殺したくなるぜ」
「油断しました…ですが、次はありません。お返しに腕の一本でも頂戴しましょう。」
さすがに倒すほどのダメージは与えられなかったようで、怒りに満ちた表情で俺たちを睨む。
…罠はまだあるけど、本気を出した相手にどの位持つか微妙だ、殺す気ならやりようはあんだけどなぁ
…ブォーブォー
「はっ!?…撤退の笛だと?まさかアレスの奴…早過ぎるだろ」
「これで俺達の勝利だな?大人しくしてれば殺さないでやるぞ…お前の話しは女将さんに聞いたからな」
唖然と本陣を遠く見つめていたシュウトに、降伏するように進めてみたが…
「あ゛ぁ!?」っと不機嫌そうに言うと、コハルに合図を送り武器を構えて、魔法の詠唱を始めるシュウト
…やっぱり降参は無いよな
右手に構えた剣に黒炎が湧き上がっていき、銀色だった刀身は深い闇色へと変化していく…
魔剣士の持つ最大級の技を放つ為にだ。
「ティファ!メガフレアバーストだ、これ使って防御全開で頼むっ!」
「はっ!」
ティファは俺からリフレクションシールドを受け取ると防御スキルを発動して、俺を守るためにシュウトの前に立ちはだかる。
盾で周囲に展開されてる魔法は弾けるだろうけど、付与効果とスキルでの威力増強分は厳しいだろうな…
妨害なしで受ければ城壁に風穴さえ開けてしまう大技に俺は一抹の不安を抱く。
なぜなら魔法を弾く大楯も、ダメージを肩代わりするネックレスもアイテムの効果書きの中の話だからで
あれほどの大技を前に、本当に威力を殺しきれるかは未知数だし、15あるジョブでも最高峰の防御力を誇るパラディンのティファが、一撃でやられでもしたら…最早、簡単に止める事は出来ないって事だ。
…だけと、今の俺にできる事はティファを信じる事だけだ!
準備が整ったシュウトはニヤリと口元を歪め、真っ直ぐ俺たちを見つめ
「止めれるもんなら止めてみろ…勝負だっ!」
地面を抉るほどの踏み込みを持って突進して来るシュウト
対するティファは大楯を地面に突き刺し衝撃に備えると、能力向上スキルを掛け直し防御系のジョブスキル『聖なる守護』と『エンペラーガード』を発動する。
「「はぁぁぁあっ!!」」
二つの巨大なエネルギーの衝突が、大気を歪め衝撃波が辺りに突風を巻き起こす。
その風とシールドに激突した魔法炎の熱気は、数十メートル先で前線の指揮を執っていたヘッケラン達の元まで届いているようで、驚きでこちらを振り向いている…
「ぅぉぉおおっ!」
「ぐっ…ぎぎ」
支援系のアイテムを使う事ぐらいしか出来ない俺は、ひたすらティファの背中を見つめるだけだった。
しばらくせめぎ合った結果、激しい爆音と共に吹き飛ばされた来たティファを受け止めようと手を広げたが…
支え切ることが出来ず一緒に吹き飛ばされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます