第47話恩恵と情報収集の為に

 ーーーーバノペア 酒場

 …ガヤガヤ…ワイワイ…

「「かんぱ~い!」」


「おい、聞いたか?」

「おうよ!何でも、街中で人攫いがあったらしいな!」


「いやいや、魔獣が出たって話だ!」

「バーロー!両方だっちゅうてたぞっ!?」


 …観光都市バノペアの夜は明るい。

 あちこちに永久の灯(エターナルライト)が設置されて、光に浮かび上がる街並みは、昼間とは違った活気で街を包んでいる。


 観光客目当ての酒場や露店、煌びやかな光を灯すオシャレな店や妖しい雰囲気の大人のお店など…

 そして、旅の開放感から、続々とそれらの店へと消えていく人々。


 そんな中でも一番盛り上がっているのは、やはり酒場で、もっぱら飛び交うのは情報交換や街での噂話などだろう。


 特に今日は、名前だけは聞いた事があった、王国に彗星の如く現れたと言う新侯爵の存在だ。

 …その侯爵は、このバノペアの街で、自らの危険を顧みず従者と共に人攫いを捕まえ、冒険者ですら逃げ出しそうな魔獣を容易く倒してしまった!と言う話で持ちきりだ。


 そんな嘘見たいな英雄譚は、酒に合う格好のアテであり、おもしろおかしく盛り上がるには丁度良い話のネタなのだろう。


 笑い声や喧騒と共に話は尽きる事無く、人から人へと噂は広まっていくのであった。



 …そして、そんな話題の中心にいる人物達は、昼間の誘拐事件を解決した功績で、市長会館のホールへと招かれていた。



 …

 ……

「いやー!さすがは侯爵になられるお方だ、こんなに素晴らしい時に喜びを分かち合えるなんて!」


「ほんとうに素敵な方達だわ…もっと色々な英雄譚をお聞かせ願えないかしらっ?」


「はははっ。いやー、ありがとうございます…」


 俺達アイアンメイデンは、色んな貴族や商人、はたまた色気全開のお姉さん達に揉みくちゃにされていた…


 ホランド都市長に歓待したいと呼び出され、料理や酒を振舞ってくれたのは良いんだけど、覚えきれ無い人に挨拶され、褒め称えられるのは、コミュ力不足の俺にとって、もはや拷問の域だよ…



「ユウト侯爵…楽しんでもらっていますかな?」

「…え、えぇ…もちろん…ねっ」

 俺は、げっそりした顔で答える。


 ホランド都市長は、つるんとした頭をかきながら申し訳無さそうに笑う。


 …どうやら、ここまでの人数を呼ぶつもりは無かったが、我も我もと言われるがままに参加者が膨れ上がってしまったらしい。

 まぁ、悪気は無いんだし、仕方ないか…


「…実は、侯爵に紹介したい人がいましてな。」

 そんな俺の気持ちを察してか、周りにとりつく人達を下がらせて、一人の親子を紹介してくれる。


「…この度は、本当にありがとうございました!この子も、私も命が助かったのは…あなた様方のお陰でございます!」

 そう言うと、その女性は胸に抱いた小さな男の子ごと、深く頭を下げてくる。


「いや、そんなに大袈裟な事じゃ無いので頭を上げて!…無事で良かったですね。」

 俺は親子を立たせて、笑顔で応じる。


 この会場に来てから、これも何度かあった光景で、俺達に助けられた人達も参加しているから、涙ながらに感謝を伝えにくる人も結構いる。

 …こう言われると、助けて良かったと本気で思えるよな。



「そして…もう一人いるのですが。」

 ホランド都市長が自分の後ろから、背の高い青年を前に押し出す。


 …観光商会代表、ピーレ・グレイル……



「…この度は、我が妻と息子の命を救って頂き、誠に感謝しております!そして…昼間の無礼をお許し頂きたい!!」


 その場に土下座して謝るピーレに、妻も倣おうとしゃがみ出す

「いやいや、何もそんなに…ほんと大袈裟だって!」

 俺は慌てて全員を落ち着かせて、勘弁してくれと逆にお願いする。



 …

 その後、落ち着いたピーレ夫妻と座って話をした。

 息子のモークレー君は、ティファが目をギラつかせて相手をすると言い出したので、ルサリィをフォローにつけておいた。

 …可愛いモノ好きの血が騒ぐのかティファよ。


 ピーレは嫁と息子を溺愛しているらしく、二人が事件に巻き込まれ俺達に助けられたと聞いて、協力を断った自分をめちゃくちゃ責めたらしい。

 そして、都市長にお願いして、謝る機会と俺達に全面的な協力を約束をする為、家族で来たそうだ。


「本当に…いいのか?」


「えぇ!もちろんですとも、街の英雄に力を貸さないなど…私が街を追い出されてしまいますよ?」


 俺の確認に、冗談交じり答えるピーレの横で、都市長が頷いてるけど…そんな事は起きないよね?


 俺はせっかくのチャンスなので、良いのであればと、そそくさと握手を交わして契約を取り付ける。

 …宿屋商会にはピーレから話をつけておいてくれるらしいし、やっぱり人助けはしてみるもんだな!


 その後も、レアやシャルが美しき勇者と褒め称えられていたり、現場で情報伝達やら被害に遭った人達のケアにと、テキパキと役目をこなしていたルサリィが、名誉市民として表彰されていた。

 …獣人とのハーフをコンプレックスに持っているのに、困っている人は放っておけない、ルサリィの真っ直ぐな性格には頭が下がる思いだよ。



 …結局、最後まで付き合わされた俺達が宿に戻れたのは、夜遅くになってからだった。


「…ふぁ~ぁ。ねむ……」

「うん…私も眠いよぉ」


「二人共、今日はもう寝なさい。」

「そうですね、だいぶ遅くなってしまいましたし。」


「皆のお陰で、全部丸く収まったよ。ありがとな!…ゆっくりお休み。」

 全員が笑顔で頷き返してくれて、それぞれの部屋へと別れていった。



 …

 俺は満たされた気分で、自分の部屋へと戻っていきドアを開ける。



「よっ!カザマ、ユウト。」



 …見知らぬ男がそこに居た。









 ーーーーーーメリッサ 視点


「はぁ…あなた、何故付いて来ますの?」


 神国の東部教会で悪魔(デーモン)に襲われているレンを、偶然助けた所…何故か一緒に行くと言い出し、メリーの意見をガン無視で勝手についてくるレン。


「ん?なんでって、お姉ちゃんもユウトの噂を探っとるんやろ?効率ええやん!」


「……」


 メリーはゴミ虫を見る目でレンを見ると、ため息を漏らす。


 …効率が良いのは自分だけで、わたくしには何のメリットもありませんわ!


 そんな風に思っても口には出さない。

 どーせ伝えた所で、自分にしか理解出来ない理論で返してくるからだ。

 このバカ二号に比べれば、ちゃんと話しが伝わる、アスペルに居るバカ一号の方が数段マシだと頭を悩ませる。


 …かわいそうなヘッケラン。


 いっその事、逃げて撒いてしまうか?とも考えるが、それはそれで負けたような気がするのでプライドが許さない。


 叩きのめして、縛って放置しても良いが、ユウトの手前それも出来ないか…と、結局、放置するしかないと諦めるに至ったのだ。



 …

 ……

「なぁなぁ、ユウト達はどないしてるんや?シャルは元気なんか?」


「…自分で聞けば良いでしょう?」


「なんか、過保護な親みたいで恥ずいやん?」


「……」


 移動中はもっぱら、こんな会話が繰り返されていて、さすがのメリーも逃げる事を本気で考え出した頃…

「ようやく着きましたわ。」


「おぉ~相変わらず立派な城やなぁ」


 神聖国家アルテマロの首都であり、世界一美しい城と称される、大神殿セイクリッドパレス…

 夕日を映す白亜の大神殿は、確かに神秘的にすら思える。


「…ユウト様と一緒であれば、感動できますのに」

「…ん?なんやなんや?」

 呟きに反応するレンは放置して、メリーは考える。


 …この城に仕える、重臣達であれば間違い無く情報を得られるだろう。

 そして、任務が完了すればユウト達の元に戻れるはずと。


 そう安堵するメリーだが…

「誰に聞けば良いのかしら…」


「おぉ~それなら俺に当てがあるさかい、連れてったるわ!」


「……」


 正直な所、レンの情報網を大して信用はしていないが、神国について詳しい情報を持っていないのも事実だ。

 なので、怪しみながらも任せてみるか?と頭を悩ませるメリー。


「まぁ、その前に宿と飯やな。腹が減ってはなんとやら~やで!」


 呑気に勝手知ったる感じで歩き出すレンに、メリーは微妙な表情で仕方なくついて行く。


 並んで歩けば、美男美女のモデルカップルに見えるだろうが、微妙な距離感とメリーの拒否感が、それを台無しにしている。


 だが、特に気にする様子もなく、レンは宿に着くと部屋を押さえる。


「お兄さん!憎いねぇ、あんな美女とお泊りなんて…」

「へっ?いやいや、ちゃうねん、二人部屋を二つ借りたいねん。」


 宿屋の親父は目を点にすると、何を思ったのか可愛そうな目でレンを見ると「まぁ、そんな時もあるってもんよ!」と、若干嬉しそうに鍵を二つ渡してくる。


 …なんや?このおっちゃん…


 レンは訝しむが、特に害意は無いようなので、何も言わずに鍵を受けとり、メリーに一つ投げ渡す。


「仕事の準備終わったら、ここで集合な?飯食うてからヤルから、しっかり頼むで!」


 言い終わると、レンは部屋に向かって行ってしまう。

 メリーは目元を押さえると、もう少しの我慢だと自分に言い聞かせて部屋に向かった。



 …部屋に入り、中を見回す。

 あの男が選んだ割にはマシな部屋のようだ…そう思いながら準備をしていると、見鏡の水晶が反応する。


「…はい、ユウト様!どうされましたか?」


「あぁ、実は観光商会の長が結構厄介そうでさ…一回トライはするけど、失敗したら、そん時はフォローお願いしてもいいか?」


「もちろんですわ!…と言いたいのですが、まだ調査が終わっておりませんので、戻れるまで3日くらい掛かりそうなのですわ。」


「…そっか。でも、相談は大事だからな!アドバイスとかある…?」


「…わたくしへの気配りもできる、今のユウト様なら、きっと上手くいきますわ。」


「…ありがとな!なんか、やれる気してきたよ。」


「ふふふっ、それは良かったですわ。…早くわたくしに会いたいですか?」


「えっ!?あっ、いやー、そ、そのぉー、まぁなんだ、あっ!で、電波が…」


 メリーとのラブコールは、情け無い男側が逃げた事で終了してしまう…が、メリーは優しい表情で水晶を抱きしめた。

 まるで、会話していた相手を愛おしく抱きしめるように…


 そして、顔を引き締めると、愛しい主人の為にも、必ず情報の真意を確かめようと心に誓い部屋を出た。




 …

 ……

「で、結局どこに向かっていますの?」


「あぁ、ヴァイゼル枢機卿っちゅうオッサンの所やで?」


 レンの向かう先に驚いてメリーは詳しく説明させる。

 …どうやら、放浪時代に少し縁があったらしく、素直に話せば良し…無理なら少し脅すだけとの事だった。


 レンの意外な交友関係に驚きながらも、神国の神官長である枢機卿ならば、情報が確たるものであろうとメリーは喜び、レンの評価を少しだけ上げてやる。


 …そんな事は知る由もないレンは、ヴァイゼル枢機卿の邸宅に向かって歩く。



 ……

「ここからは潜入やねんけど、サイレントとか使える?」

「…我に力を、サイレント。」


 レンとメリーを魔法の膜が覆い、二人の出す音は周囲に伝わらなくなる。

 サンキューと言いながら、手慣れた手つきで鍵をピッキングで開けるレン。

 …良い子は真似しないように。



 都市長会館並みの大きさがある三階建の建物の裏口から侵入するが、レンは上階へ行かず、キッチンの横にある物置部屋へ向かった。


 …

「スキル、罠探知」

 レンがスキルを使うと、床のカーペットに隠された隠し扉が青く光る。


「…いくで。」

 メリーは頷き、扉を開いて下への階段を降りていく。



 階段を下りたメリー達の目に広がる光景は…高級そうな絵画や彫刻、その彫刻に飾り付けられた金銀財宝。

 さらには、所狭しと並べられたアーティフェクトアイテム…

 いくら国のNo.2と言えども、ここまで来ると国の宝物庫だ、と言われた方がしっくり来るレベルだろう。


「…これは、どうなっていますの?」

「ん~、昔はこんなに無かったんやけどな」

 答えになっていないレンの呟きを聞きながら通路を進む。


 通路左右にも部屋はあるが、迷いなく進むレンは最奥の扉を目指しているようだ。



 …はっはっは

 だろ?…おまえさん…


 扉の奥から声が聞こえる。

 どうやら、中にいるのは間違いないようだ…


「…開けるで?」

 コクリと頷くメリーを確認して、ノブを掴むと、レンは扉をゆっくりと開いていく。



 …

「…な、なんだキサマら!?」


「おっ…お前は!!」




 …レンは、ヴァイゼル枢機卿と話をしていた相手を見ると、無言で腰に差した刀に手を添えた。

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