第34話王都へ

…ヒヒーン!…ブルルッ…

 馬が嘶き、早く行くぞとレンを急かしている。


 昨日、これからの方針を決定した事を受けて、レンが今朝早くから出発する事になったのだ。


 俺達と一緒にゆっくり向かえばいいのに、何故そんなに急ぐんだろうか?


馬を諌めていたレンが俺達を見る。

「ほな、お先やで!…シャーロットの事、くれぐれも頼むな。」


「おう!任された。」


「大事に扱えよ?」と念押しするレンに苦笑いして、大丈夫だとそのまま送り出す。


 シャルの表情が、一人で留守番する子供のような顔になっていて…少し寂しく感じるな。


「よし、じゃあ俺達も行こうか?」


「「はい。」」


 ティファとシャルが答える。


 見送りに出ていた三人で、これから都市長会館と衛兵の詰所に向かう予定だ。

 シャルが話を通して預かってもらってる、餓狼蜘の残党と、ラヴァーナ教の信者の処理を終わらせる為に行くんだけど…


「…あのさ、信者達は何かされてたのかな?」


「保護した時に聞いた話では、何かによる洗脳のような状態にあるかも…とのお話をされていましたが、詳しくは聞けておりません」


「そうなのかぁ。」

 俺の質問にシャルが答えて、ティファが渋い表情を浮かべている。


……

 まずは人出の確保で、詰所に向かってるんだが、今回の一件があってか、なかなか会話が弾まない…


 やはり、少し割り切った…奴隷とか言っても、結局は今まで通りの対応をしよう。

と、思ってるとは言え…

 シャルが俺と一緒に行動する、って緊張が無くなる訳じゃ無いし…

チラリと彼女を見る。


 服装だって、いつもの旅装に戻ったとは言え、シャルの美少女っぷりは収まる事を知らないからなぁ。

緊張するなって方が無理だな。



「シャーロット、詰所には、あなたの知り合いは居るの?」


「いえ、ティファおね…様。王家の紋章があるので、それを使って責任者と話をしていました。」


「…あなたは、私の奴隷では無いのだから、今まで通りの対応で問題無いわよ?」

「あっ…は、はい。」


 ティファの激怒を見てから、シャルは暫く怯えていたけど、やっぱり嫌いになった訳じゃ無いんだろうな。

 確かに、あの時は怖かったけど、その後は普通にしていたし、落とし所を探ってたんだろう、多分…


 今だって、少しだけど、シャルの表情が明るくなってる。

ティファと普通に話せるのは、彼女にとっても大事な部分だろうし、ティファが嫌がったら、俺からお願いしてただろうしな。




 …そんなやり取りの後、詰所で30人程、兵を借りる事ができた。


 どうやらシルクットでは、常時詰めている兵は300弱しかいないそうなので、1割借りるのが限界だったんだ。


 都市の防衛って以外と少ないものなんだな。


 ちなみに、この世界の兵士は3日に1日勤務だ。


 つまり、常駐人数の3倍が都市の保有兵力になる計算だけど…


 例外もあって、アスペルは国境線にある、防衛都市だから、常駐は1000人位で、保有は5000人程度だと聞いてる。



 そのまま、真っ直ぐ目的地に向かった、俺達を先頭にした集団は、都市長会館を包囲した!


 いや、包囲はしてないか…



 一旦、俺とシャルで中に入る。

一階は事務所的な事も兼ねてるようで、受付のお姉さんが、アベイル都市長に取り次いでくれた。



「…お待たせしました。三階の応接室へご案内致します。」


 お姉さんに案内されて階段を上がる途中、二階のホール入り口に、警備の人間が立っているのがみえた。

 …ここに、信者達が押し込められてるんだろうな。



「…ユウト様達をお連れしました。」


「入ってもらいなさい。」


 今回はお姉さんが、ドアを開けてから、中に招いてくれる。

 また、一人で入れ!とか言われたら、ティファに泣きつくしかないからな…

 まぁ、シャル…自国の姫がアポ取ってるのに、いきなり襲うような事は無いと思いたいけど。


 レンがいないんだから、俺が注意して守っていかないとな!



 俺達が入ると、アベイル都市長は、見ていた書類とかけていた眼鏡を外し、立ち上がる。


 スラッとしてて、ナイスミドルな感じだな…

 モテ男はお呼びじゃないけど、俺が話をしない訳にはいかないので、代表して挨拶を交わそうと手を出す準備をする。


 アベイルはスマートに歩いてくると…



 俺をスルーしてシャルの前に跪いた。

 …俺の手は虚しく、空気を掴んでいた。



「シャーロット皇女殿下におかれましては、ご健勝のご様子、喜ばしい限りでございます。」


 洒落た挨拶をすると、差し出されたシャルの左手にキスをするアベイル…


「貴方も変わられませんね。お元気そうで何よりですわ。アベイル辺境伯」


 ちょ…ちょーっと!

 な、何、ちゃっかり、シャルたんのお手手ペロペロしてやがんだよっ!!

 くそっ、俺だって、俺だってした事ないのに…こんちくしょうっ…



 アベイルは笑顔で答え立ち上がると、俺の前にやってきて、手を差し出す。

「……」

 腹は立つが無言で握り返してしまう、小心者な俺…くそっ…


「貴方のお噂は、メリッサ殿から良く聞いておりますよ?大変素晴らしい方だと聞いているので、私の協力できる事なら、何なりとおっしゃって下さい。」

 そう言いながら、俺達にソファーに座るよう、手を向ける。


 いちいちカッコイイ動作をするアベイルに嫉妬しながら…も、座る。


「本題に入る前に…そちらの可憐なご婦人は?」


 ティファに視線をやり、俺に聞いてくるアベイル。

「私は、ユウト様の従者で、ティファと申します。」


 手を出そうとするアベイルを制しながら、ティファが挨拶を返してる。

 けっ…ざまぁ!


「流石はユウト殿。メリッサ殿やティファ殿に、シャーロット皇女までお知り合いとは、羨ましい限りですなぁ…」


 …こいつ、絶対女好きだな。

 ティファを見る目がエロイ、俺には分かるんだからなっ!?


「…そうですね。素晴らしい限りですよ。」


 俺の拗ねた答えに、苦笑いすると、アベイルは今日の要件は、階下の事かと聞いてくる。


「…そうなのです。あれから、信者の方々はどんなご様子で?」


「そうですね…」


 アベイルが、どう伝えるか悩んでいると、メイドさんが俺達にお茶を出してくれる。

 …ここには、メイドもいるのか、しかも美人だ


「…捕まえた時とは違い、今は反抗する事も無く。逆に虚脱感に苛まれている者が多いように見られますね。」


「虚脱感?」

 アベイルの発言に、思わず質問する。


「そうです。どうやら、ウチの鑑定士曰く、魔法による洗脳に近い行為を受けていたのでは…との事ようですな。」


「洗脳……か。それは、無意識で人を殺せるようなものなのかな?」


「話を聞ける状態だった者でも、当時の状況は虚にしか覚えていない様子でした。恐らく、あまり意識がハッキリしていたとは言えないでしょう。」


「…そう、なのか。」


 俺は、ルサリィの母親を殺した奴だけは、殺すべきだと思っていたが…

 もし、強制的にやらされたなら…話は変わってきてしまうな


「賊の残りは?」


「彼等は確信犯ですな。洗脳も何もありませんよ。何度か脱走も試みていましたので。」


「…そうか。では、賊は情報を取ったら殺し、信者の方は害が無さそうな状態になったら、解放するようにしてもらえないか?」


 俺は思った事をストレートに伝える。


 すると、少し間をおいて、アベイルが俺に話してくれた。


 …そもそも、この街は産業が盛んで、比較的安全な場所に街がある為、大きな不安事が起こるような事も無く、邪教に入り込まれるような街では無かったそうだ。



 だが…3年前、街にデーモンが現れ、暴虐を尽くし、結構な数の死者が出たらしい。

 その当時、街に居た希代の発明家が退けてくれたらしいが、残った爪痕は大きくて、その隙を邪教につけ込まれたそうだ。

…これが今の状況になった原因らしい。



「一応、我々も手は打っているのですが…彼等のやり方が酷くて困っておったのです。」


「洗脳が原因なら、信者を全員捕まえて洗脳を解けばいいんじゃ?」


「…それは厳しいですな。何せ今の信者数は10万に迫ろうかと…もちろん老若男女問わずですが。」


 たった一都市の中で人口の2割なんて、国教クラスの浸透度だ。


 もし、信者全てが発起したら…

 餓狼蜘の存在も考えると、シルクットの実質支配権は、アベイルとラクシャスが二分していると言っても過言じゃない。


「…じゃあ、ラヴァーナの頭…ラクシャスを殺れば、ひっくり返せるんじゃないのか?」


「…あの者は。ラクシャス・ヴィンセント・アッダムは、【始まりの貴族】ですから…」


「始まりの貴族って?」


 俺が言い出した発言に、初めて聞く言葉で返して来たアベイル。

 そのままシャルに、一体なんなのか聞いてみた。



「始まりの貴族とは…」


 彼女が語ってくれたのは、俺がゲームとして知っている、この世界の話とは、途中からまったく異って行く物語だった。



 …そもそも、この世界には創造主【グランドアース】と言われる神がいました。

 神は初めに、全ての祖となる生物を創造されるのです。

 それが、魔族、精霊族、獣族…そして人族です。

 神がそれぞれの種族にお与えになった名は、

 魔族…ティアマト

 精霊族…オオナムチ

 獣族…セト

 人族…アッダム

 そして、それら代表の者を模した存在を、それぞれに与えられたと言われ、全ての種はそこから広まったと言われています。



 …ここまではAAOの公式HPに載ってた。



 そして、種の祖と言われる、始まりの者達は、自分達の血が埋まる事を嫌います。

 神から与えられ尊き"血"を、薄めないようにと、近親だけで子を為して行くのです。


 神の血を色濃く残した一族は、【始まりの種族】と呼ばれ、崇められてきました。

 時代の流れと共に、多少の変化はありましたが、未だにそれぞれの神名を司る者達は、神の縁者としての絶対的な力を持っている、と言われています。


 それ故に、今この大陸にある、王国、帝国、神国、獣王族、魔国

 これら五大国に【始まりの種族】は、入っていません。

 それぞれが独立し、全てを血縁者のみで構成しているのですが…ラクシャスの様な者が、時折、各国に現れては世を乱すのです。



 …こんな裏設定があったのか。


 てゆうか、俺の6年あった勉強期間では、知識が全然足らんのじゃないかっ!?


 こりゃあ、どっかで勉強し直しかな…


 ちなみに、【始まりの貴族】って呼び名は、人間の国の中だけでの呼び名らしくて、各国に行くと、それぞれ呼び名が違うらしい。



 俺はシャルに礼を言って、アベイルを向く。


「ラクシャスが、その、始まりの種族って事を知ってるのは?」


「ほとんど居ないでしょうな。王族や大貴族の一部程度しか、彼の正体を知る事は許されていないのでね。」



「…それって、俺が聞いても良かったの?」


 若干、不安になってシャルを見る。


「ユウトさまぁ…ん。は、王国にとって重要人物ですから、いつかは聞く事になっていた筈ですよ?」


「そ、そうか…んで、結局、偉いから殺しちゃダメって事なのか?」


 二人は揃って首を振る。


「…それも無いわけではありませんが、一説によると模倣種である我々には、彼等を殺す事ができないとか」

「その強大な神力に、到底敵わないと言われているのです。」


 アベイルとシャルが俺を見てくる…



「…でも、やってみないと分からんだろ?俺達には、このティファや…姉妹達のような強力な力を持った仲間がいるからな。」



 アベイルからは、お勧めはしないが、ラクシャスを止めれるのであれば是非と言われ、

 シャルからは、色々な方面からの横槍が入るから、見送る方が良いと言われる。


 結局、一度そのラクシャスを見に行ってから、戦うのか王都に行くのかを決める事にした。


 アベイルは、捕らえられている者達を、とりあえずは、俺の指示通りに対応する事を約束してくれた。

なのでついでに、これからの対策の中には、こまめな洗脳解除も追加してもらうよう、提案しておいた。




都市長会館を後にした俺達は、

 それから…ラクシャスが居ると思われる場所を聞いて、何箇所か行ってみた。

が、結局見つける事がは出来なかった。


 少し、心残りではあるが…

 王都へ向かう時間も考えると、これ以上に時間をかけるのも厳しい。


 俺達は仕方なく屋敷に戻ると、メリー達に王都行きを伝え、準備を始めた。


 最初、ルサリィは危険かと思ったので、留守番をお願いしようと、説明したんだけど…

「一人は嫌!お願い…連れてって…」

 って、涙目で言われてしまい…


 即OKしちゃった!

 …だって、可愛すぎるからなぁ。

 可愛いは正義だしな!



 …そして翌朝、シアンに留守をお願いすると、俺達六人は王都に向けて出発した。


 シルクットから王都までは、普通の馬車なら3~4日って所なんだけど、アベイルの都市長権力で、エアホースって言う馬を借りる事ができた。

 お陰で、おおよそ半分位の時間で行けるようになるそうで、だいぶ時間短縮できるみたいだ。


 それに、普通の馬と同様、そんなにバカ揺れしない…それが一番助かる!




 …

 ……



「…ユウト様。王都の城壁が見えて参りました。」


 俺はティファの言葉に、幌から顔を出す。

 エアホース達のスピードで、顔が受ける風の勢いが強い。


 ここまでの道中、モンスターと何度か遭遇はしたけど、遠距離はレアが狙い、近距離はティファが両断していて、まったく問題が無かった。


 野党にも遭遇したんだけど…

 メリーが、滅茶苦茶にしてたな。

 あれは忘れよう、うん。



「うわぁ!お兄ちゃん、あれが王都なの?凄いねっ!」

「…危ないから、あまり乗り出さないようにな?」


「うんっ!」


 ルサリィの元気な声を聞きながら、俺はこれから王都で始まる、王様達との話し合いに思いを馳せる。





 …いったい、今度はどんな展開になることやら。

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