第35話初めての王都
「その者達を捕らえよ!!」
国王ガイゼフ・ベイオール・フォン・アダドは、王座の間にて開口一番、俺達にそう言い放った。
…
……
「ほっ…ほんまに、かんにんな?」
「許せる訳あるかよ、ボケ」
…俺達は今、王城の地下に作られた牢獄に居る。
檻の外で、両手を合わせて謝ってくるレンに俺は悪態で返す。
……
こんな事態になった経緯はこうだ…
王国に着いた俺達は、シャルの顔パスで検問を通り抜け、城下町で宿を押さえた後、王城へと入った。
偉い人に会うと言うのは、いつでも緊張するもので、多少の不安を持ちながら、国王との謁見に臨んだ。
ただ、今回はアスペルの防衛に始まり、シルクットでも牙狼蜘の支部を壊滅させたり、ラヴァーナ教の暴走を止める手助けもしたりして、正直な所、感謝されるイメージしか湧かないのも事実だ。
俺達を取り込みたい、って話もあるんだし…
褒美に「望む物何でもやろう!」的な話があっても、可笑しくは無い展開で進むとは思ってるんだが、
…シャルを見るなり、早々に王座の間へ向かうよう促してくる衛兵に、少し嫌な予感を感じだが、今回のはさすがに、俺の思い違いだろうと案内に従った。
…結果がこれだった。
……
国王からの、突然の逮捕発言で襲いかかろうとする兵士達を、当然ウチの三姉妹が迎撃…いや、皆殺しにしようと身構える。
俺は突然の展開に、仕組まれたのか?と、シャルを見たが…唖然と口を開けてフリーズしている。
…そんな顔も可愛い。
いや、そんな場合じゃない。
次に、犯人だと思われる、関西弁の煩い奴を探すが…やはりこの場には見当たらない。
取り敢えずこのままでは、この場にいる人間全てを殺しかね無かったので、姉妹達に絶対に手を出さないように厳命し、
…大人しく捕まった。
まずは、話を聞かないと行動を起こせ無いので、牢屋でその時を待っていると、シャルは連れずにレンだけがやってきた事で、今の状態へと戻る。
「いや~、そ、そう言わんと!なっ??ほんま堪忍やて…」
「訳を話しなさい。檻を破壊して、貴方を拷問しても良いのですよっ!?」
ティファがチラリとメリーを見て、「何が待ってるから分かるよな?」とレンを見つめる。
「いやいやいや、いやや…てゆうか、訳はちゃと話すし、解放もすぐにするから!なっ?なっ?」
…その視線に慌てふためくレン。
今回レンが先に王都に戻ったのは、俺達の事とシャルが奴隷落ちしたので、怒らず冷静に対処するように皆へ訴える為だったらしい
しかし経緯を話し、自分達の落ち度を説明した上で、国王を始めとした国の重役達に理解を求めたレンだったのだが…
重役、特に筆頭大臣は俺達の功績も、奴隷事件の事もブチギレして、絶対に処刑すべきだと訴えてきたそうだ。
これには、周りの取り巻き達も大いに賛同して、その場はアイアンメイデン討つべし!となってしまったそうな…
焦ったレンは、俺達が持つ戦力の強大さを必死に説明したんだが、そんなの冗談だろう?と一蹴され、話し合いにならないと感じてしまい、
…レンもキレたらしい。
いや、もっと頑張れよ!
そこは、レンしか訴えれる人間いないし、シャルだったら、もっと絶対上手くやってるって!!
「まぁ、俺も元々は結構な嫌われもんやったからなぁ~…はっはっはぁ~」
「はっはっはぁ~、じゃねえよっ!…そんな事なら、この牢屋ぶっ壊してでも出て行くからなっ!?」
斜め上を向きながら、ふざけた事を言うレンに、俺も切れてやると「だから、すぐ出したるさかい、勘弁したってや…」と情けない表情で言ってくる。
それを見たルサリィが、俺の膝の上で「レンが可哀想だ」と上目遣いで言ってくるので、…可愛さに免じて渋々待ってやる事にした。
レンに文句を言いつつ、ティファとメリーを宥め、レアにマジックバックから取り出したオヤツをあげてご機嫌をとる俺
…おかしい。何故、俺が苦労してるんだ?
しばらくすると、ティファがオリバーと言う偉そうな騎士を従えて、俺達の元にやってきた。
「…ユウト様、皆様、どうか…この度の無礼を許して下さい。皆も父も私の為にと、暴挙に及んだのです。」
ティファの横で、オリバーが唾を飲んでる。
俺の横で、ティファとメリーが、ど偉い睨んでますよ…
こっ、こ、こわっ…
シャルの表情も良くは無いんだが、今までの付き合いで、さすがに耐性がついたのか、
はたまた王女としての威厳か…レベル差と眼力に、真っ青な顔色の騎士長よりは、いくらか余裕がありそうに見える。
「…レ、レン殿が言っていたのは誠であったか…」
「せやから、言うやろが⁉︎」
「し、しかし、私が意見を変えた所で…」
二人が言い合うのを制して、シャルが早く牢屋の鍵を開けるように牢番に伝える。
王女の命令に牢番が慌てて、鍵を開ける。
そしてようやく、俺達は解放された。
言いたい事が山程あるのは、重々承知しているが、取り敢えず自分に付いてきて欲しいと言うので、レンをしばくのは後回しにして、シャルに付いて上階へ行く。
王座の間の横にある階段前には衛兵が立っているが、オリバーは騎士長らしく、彼が手を上げると、衛兵は直ぐに道を開けていた。
…あれは中々、カッコイイ。
ウチのアジトに採用するべきかもな…
そう思いながら階段を登ると、その階にあったのは豪華な扉が一つだけだ。
下にある王座の間は、高級で重々しい感じだったけど、ここの扉も中々の物だな。
シャーロットがノックをすると、中から「…入りなさい」と、渋い声が聞こえてきた。
中に入ると…大方の予想通り、そこに居たのは、俺達を捕まえるように命令した張本人。
国王ガイゼフだった。
「…まぁ、まずは掛けてもらえるかな?」
「……」
俺達が無言で答えていると、シャルが、どうぞこちらにと、高そうなソファーに案内してくる。
俺達が座ると、国王はテーブルを挟んだ向かいの、一人掛けの大きなソファーに座った。
オリバーは国王の横に立ち、シャルはお誕生日席に座り、その斜め後ろにはレンが立っている。
全員が定位置に着いたのを見計らって、二人のメイドが部屋に入って来た。
一人は綺麗な若い子で、もう一人は落ち着いた40代位のメイド長って感じの人だった。
着席している人数分のお茶を用意すると、丁寧にお辞儀をして退室して行く。
…あの振る舞い、シアンとは大違いだな。
失礼な事を考えていると、国王は話し出した。
「…君達には申し訳ない事をした。」
そう言って、国王は軽く頭を下げる。
「へっ、陛下!?」
「おっ、お父様!」
オリバーとシャルが慌てた様子を見せる。
ガイゼフはそれを手で制すと、「ここは王座の間では無く、私の私室だから問題無い」などと言いだした。
…これは、やまさか陛下が頭を下げるなんてっ!?」的なコントを見せられているのだろうか。
それなら、実益重視の俺(現代人)には、全く無用な心遣いだ。
「……」
尚も無言で答える俺に、国王は朗らかに笑うと、「なので…ここでは、普通に話をさせてもらうぞ?」と言い、こうなった事の顛末を語りだした。
……
「…なるほど、周りの意見を収める為に、敢えて怒れる王様を演じたと?」
「いや?シャルを奴隷になどと…心底腹が立ったのは事実だ。」
しかし、レンが言う俺達の力を考えると、敵対しての全面対決は、自らの首を絞める事にしかならないのでは?とも思ったらしい。
「だから、まずは牢屋にぶち込んだ…と」
「シャルの報告を聞いた限りでは、いきなり戦闘になるような短絡者では無い、と思ったのでな。」
…いやいや、爺さん、あんたかなり危なかったんだぞ?
俺が抑えなかったら、全員殺されて、国を乗っ取られてるか、俺達が国際的なお尋ね者になってるか、の瀬戸際だったよ。
「…もちろん、ユウト様は思慮深きお方ですから、貴方の考えを見抜き、わたくし達を抑えられましたわ。」
「…しかし、それが無ければ、あの場に居た者達は全て殺されていましたよ?」
メリーとティファが俺の気持ちを代弁してくれる。
一応、暴れられた時の為に、手は打っていたそうだが、事前に話が通せず申し訳ない、と再度謝られた。
「はぁ…まぁいいや。どうせ、レンの伝え方が悪かったんでしょうし。」
レンが横で「俺は悪ないって!」とかほざいているが、華麗にスルーしておこう。
ただ、このままなら俺達は当然、国と対立する形になってしまうし、国の為政者達にも良い顔するのは無理だ、と伝える。
「もちろん、このままでは事は収まらん。なので、其の者が認められた時と同じ方法を考えておる。」
レンを指差した国王が手を鳴らすと、オリバーの横に黒い空間が生まれる。
「あれは、空間転移魔法かっ!?」
俺の声に、ティファとメリーが俺を守ろうと前に出る。
「…ふぉっほぉっほっほ。そう身構えんでくれて大丈夫じゃよ?ただのジジイじゃ。」
…転移魔法が使えるのは、魔法士の中でも特殊な、召喚魔法士のみの筈だ。
正直、アイテムで代用が出来るスキルや魔法が多かったから、このジョブを選択するプレイヤーは少なかった。
けど…
この世界なら、かなりのアドバンテージを持てそうなジョブではあるよな。
…
ティファが名を名乗れと言い、メリーが爺さんはLV82ある、と耳打ちして来た。
「その爺さんは、この国の魔法使いのトップで、アールヴって召喚士や。…結構強いで?」
俺ほどちゃうけどな、とか勝手に喋ってるレンは放置して、爺さんの方を見る。
年齢は60~70歳ってところだろうか?
国王は60前位だろうから、爺さんは70位ってところかな。
見事な白髭に、目元は垂れてる…優しそうなお爺ちゃん、って感じの印象を受ける。
「この者が、我が国で最強の魔法士であり、ドラゴンスレイヤーなのだ。」
自慢げに二つ名を呼ぶ国王を、爺さんは困った顔で見る。
「陛下…いささかその呼び名は恥ずかしいですなぁ。」
アールヴ爺さんは、王宮の魔法士を束ねる魔法士長だそうで、俺達に何をやらせるか伝えに来ただけだ、と言った。
わざわざ空間転移が使える人間を、何かを伝える為だけに使うなんてあるか?
…おそらくは嘘だろう。
俺達が暴れた時の備えって部分と、こんな戦力を持ってるんだぞ!って所を見せて来た感じかな?
「…悪いけど、ウチのメリーなら、魔法士長さんが転移する前に殺せると思うけど?」
「おっほっほっほ~、違いない、違いない。じゃが、儂が来たのは本当に、お主らにやってもらうクエストの説明の為じゃよ?」
爺さんの様子に嘘は無さそうだけど…
いや、俺の感なんて当てにならないか。
それに、脅しも程々にしとかないと。
ケンカしに来た訳じゃないし、俺が調子に乗ると、ロクな事が起こらないもんなぁ…
「あのさ、俺達は別に王国に認めてもらう為に、事を起こした訳じゃないんだ。帝国や神国に行ったって良い、って事は忘れないで欲しい。」
これで最後と言い放った、俺のこの発言には、さすがの国王や騎士長が顔を歪めてた。
なのに…魔法士長だけはニコニコしてる。
「喰えない爺さんだな…」
「…これは、あくまでも五月蝿い貴族達を黙らせる為じゃよ。それに本当に困ってもいるしのぉ。」
「それで、私達に何をしろと?」
俺と爺さんの長々とした話に、ティファが痺れを切らして尋ねる。
シャルやレンは何も聞かされてないのか、口を挟んでこないな…
「王国の北にある、龍の爪と呼ばれる山があってのぉ、そこに古代遺跡があるんじゃ。」
「……」
「そこに、最近何か…が住み着いたようで、元々住処にしていた、レッドドラゴン達が場所を追われるようになってしまってのぉ…」
確かに、龍の爪って高レベルマップの中には、ドラゴンの巣窟があったな…
ソロ判定で適正レベルが90~92って位だったと思う。
「お主らには、その何かを討伐してきて欲しいのじゃ。」
最後に国王が付け足す。
「褒美も期待できるようじゃし、遺跡までは、儂の転移で送ってやれるからのぉ」
長い白髭を、わしゃわしゃしながら俺を見て、お得だろ感を出してくるけど…
すでに、褒美貰っててもおかしくないぞ…
爺さんが、わざわざ伝えに来たのは、難易度が高い場所だと知らせるのと、転移で送迎してくれる事を教える為か…
「本当に期待して良いんだよな?」
「もちろんだとも。」
俺は、国王の返答に頷くと、姉妹達を見る。
「せっかく来たんだしな…ささっと終わらせて、褒美を貰って帰ろうか?」
「「はいっ。」」
古代遺跡か…
生身でダンジョンに潜るのは初めてだから、しっかり準備して行かないとな。
俺達は、明日の出発に備える為、各自に割り当てられた部屋へと散って行った。
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