第24話モンスターとケモノ

 

ーーーーゴビス砂漠南西


 馬車を囲んでいた、賊の男はポケットからクリスタルのような物を一つ取り出してレンに見せつける。

 そのクリスタルの中には、何かが閉じ込められているようで、

 生き物…モンスターのような形をした物が見える。



 レンはそれを見て叫んだ、

「お前、それは魔封石やないかっ!?」


「テメェーの相手は、コイツがしてくれるってよぉ!」


 相手が手にしたアイテムを見て、レンが焦りながら忠告をしようとするが遅い。


 頭に刺青をした坊主頭の賊は、一人囲みから離れスペースを確保すると、目の前にクリスタルを掲げ、中に封じられたモンスターを召喚してしまう。



 クリスタルは光を放つと砕け散る…

 あまりの眩しさに、その場に居た者は目を抑えてしまう。



 そして光が収まり、皆の目の前に現れたモンスターは

 "グーロ"と呼ばれる生き物で、かなりデカイ。

 体長は3~4mあり、様々な生き物を掛け合わせたキメラのような気味の悪い外見をしている。



 さらにグーロは死霊属性持ちだ。

 そのせいで、体の所々は常に腐り落ちている。

 が、落ちた側から再生しているようで、

 その体は崩壊と再生を繰り返しているのだ。


 上位ゾンビ種であるグーロの持つ種族特性として、

 自己再生能力、悪臭や毒などの状態異常攻撃に加え、

 首に据えたモンスターの特殊攻撃も模倣可能と言う、

 かなり厄介な相手で、適正は80~85LVの四人パーティー以上

 が、攻略サイト上は推奨になっているような相手だ。



「…お前ら、こんなもん呼び出して、俺が死んだらどないする気や!その後、誰がコイツを処理できるって言うんや!?」


 召喚笛と違い、一定時間経過で消滅等しない事が魔封石の特徴なので、

 敵を倒しても当然消えない。

 呼び出したモンスターを召喚者の指示に従わせる力も弱い為、

 それを知っているレンはモンスターの正体を見てさらに焦る。



 …恐らくコイツらではグーロに敵わん。

 俺がやられたら、たぶん王国もヤバイな。



 モンスターを使役できないせいで、

 ゲーム時代は呼び出したモンスターに召喚者が殺されて、

 通常では存在しない低レベルマップに、高レベルモンスターが放置されている…

 なんて事がよく起こっていたものだ。



 中には嫌がらせで、モンスターを放置して行くプレイイヤーなんかも居たからな…



 さらに、都合が悪い事に、今回奴らが召喚したモンスターは、

 パーティー狩りが基本とされるボスモンスターと呼ばれる強力な敵だ。


 レベルが80を超えると、1LV毎の力の開きが顕著になる

 AAO(アースアートオンライン)の世界であれ、

 適正80のボスモンスターを88LVのソロプレイヤーが狩り切ろうとするのは、

 かなりの準備と覚悟が必要だ。


 それに、転移の影響か、魔法アイテムや課金アイテムは、

 現状の世界ではほとんど存在していない。

 さらに、転移してきた元プレイヤーである、

 レンのアイテムボックスは空になっており、

 唯一持ち越せたのは、携帯用のイベントリバッグ (上限50個)だけ。

 その為、大したアイテムは残っていない状態なのだ。



 一部のダンジョンや遺跡ではゲーム当時のアイテム達が発掘されているが、

 それらはアーティフェクトと呼ばれ、かなり高額で取引されており、

 高い物は一国の国家予算にも匹敵する…

 と言われているくらい破格の扱いを受けている。



 そんな状況から、レンのイベントリバッグにもアイテムの残りは殆ど無いのだ。

 グーロを倒す為には、属性耐性や状態異常回復などの、

 様々なアイテムを組み合わせればソロでもボスは倒せるかもしれない…

 が、現状ではかなり望み薄だ。



「はっはー!…知らねぇのかぁ?コイツは俺(召喚者)の言うことは何でも聞くんだよ!バーカ!」

 …とバカそうに言い切る刺青の男は、恐らく全てのモンスターが制御可能だと勘違いしているのだろう。



「お前こそアホか!気に入らん事を命令したら、オドレなんか速攻で殺されてまうんやぞ!?」

 レンがアイテムの効果について突っ込むと、刺青男は焦りだす。


「…………えっ、まっ、マジ?…でも親分が…」

 辺りにいる仲間を見回すが、彼に満足行く答えを提示できる者は当然いない。


「…まぁ、アホやわな」

 その姿を見て肩を落とす。



「…………ええい!グーロ、その男をやってしまえぇ!!」

 考える事を放棄した刺青の男は、それを誤魔化すかのようにレンを指差して叫んだ。




 ……グゥゥオオォォ!!

 それに呼応するかのように三つある首の一つが攻撃を行う。



 …ガァァァ!

…ボォォォオ!!


 脳味噌が半分見えている、火龍の口からは火炎のブレスが吐き出され、御者席と馬車上の賊、そして馬車が一瞬で燃え尽きた…




「シャル!?」

 大丈夫だとは思っているが、心配には勝てない。

 レンは自分が守るべき者の名を呼ぶ。



 …立ち上がる白煙と馬車の木片から覗くいたのは、絶対障壁によって自らを守っているシャーロットだった。




「ほっ、無事やったな…」

「…レン……」

 シャーロットは障壁展開中は移動が出来ない為、

 その場で心配そうに立ち尽くす彼女に、親指を立て、

 そのまま守りを固めておくように指示を出す。




 ……ゴゥアッ?

 シャーロットの無事な姿を見たグーロは不満気な態度を取ると、刺青男を挟んで反対側に居た馬上の賊二人を、2mはある太く長い尻尾で弾き飛ばす。


ーーードーン!!

 「ぐぅあぁあ!」

「…うぉげぇっ!!」


 馬諸共、5m近く吹き飛んだ賊はピクリとも動かない。



 満足そうなグーロと、

 …それを見た残りの賊達が喚き出す。

「あっ、兄貴!これヤバイんじゃ…」

「兄貴!お、俺達は大丈夫なんですか!?」



「……んな事俺が知るか!少なくとも"俺"は大丈夫だろ…」

 お前らの事など知るかと言う刺青男の態度に、二人の賊は馬首を返して戦線を離脱しようと動き出す。



「あっ、おい!テメーら、逃げんな!」



 ……コケーックルゥウ!!

 逃げる姿わ、見たグーロがもう一つの首を動かし、魔法を召喚し始める。



 一刻も早く逃げ出そうと進み出す賊達は、

「あばよ!」とか「知るか!」と刺青男に吐き捨てて行く。


 …しかし、その直後。



 …ドガーン!!

 …プスプス…ドザッ


 頭上から現れた雷に撃たれ、全身から煙を上げ二人の男は倒れる。

 辺りには人の肉が焼ける臭いが充満する…




「ひぃぃっ…お前、何をして……」


 ーーーギロッ…


 グーロに怒鳴ろうとする賊は、お前も同じ目になるか?と、その目で問い掛けてくる、片目の落ちた鳥の顔に口籠る。


 刺青男は首をブルブル振って、まったく問題ありません

 と、直立不動の姿勢を取る。



「…だーから、言わんこっちゃない。」


「レン、大丈夫なの!?」


「シャルは動いたらあかんで、障壁借りる時もあるやろから、力が続く限り展開しといてな?」


「わっ…分かったわ。」

 不安そうに見つめてくるシャーロットを横目に見ながら、レンは深い溜息をついて考える。



 …さて、どうするか……と。










 ーーーーーーシルクット 東地区


「はっ…初めまして、ユウト…お兄ちゃん」


 俺の前で、少し恥ずかしそうに挨拶をしてくれるのは、

 ルサリィ・クストフと言う女の子だ。

 まだ12歳との事で、身長も俺よりだいぶ小さくて150cm無いくらいだな。

 全身を覆える旅装用のローブを着ていて、顔があまり見えないけど、

 結構可愛い感じだし、赤い色の髪の毛がフードから、

 アホ毛っぽいのがチョロチョロと見えてるのがかわウィィネ!


 まさに妹的なルサリィちゃんに、

 ティファ経由で「お兄ちゃん」と、呼んでもらうよう仕込んでおいたのは…内緒だ!



 俺も挨拶を返してから、今回の砂漠用に取り出しておいた、

 砂塵のローブに装備を変更するよう伝え、二人に渡そうとすると、

 …何故かティファが「後にしましょう」

 と、先に馬車に乗るよう促してくる。


 俺は、ティファの様子が少し気になったが、彼女が意味なく指示に従わない訳無いので、大人しく馬車に乗り込む。


 御者はティファがしてくれるので、ルサリィちゃんと馬車に乗り込むんだけど、フードを摘んで俯いてる。


 どうやら、お話が弾む気配はなさそうだ…

 …まぁ、弾むほど軽快なトークは出来ないけどな!



 ーーーヒヒーン…

 一抹の不安を抱きながら、馬の鳴声と共に馬車が動き出す。



 今回、途中まで馬車を引くのは、安定のラビットホース…

 では無くて、通常の馬だ。

 と言うのも、砂漠の四箇所ある入り口には、砂漠に入ってから馬車を引っ張る

 サンドスネークと言うモンスターが飼われていて、

 そこでそいつに馬車を引いてもらう事になっているから、

 そんなにスピードが必要ないので、普通のお馬さんにしてもらっんだ!


 …べ、別に吐くから勘弁してもらった訳じやないよ?


 その中継所に寄ると、馬車の車輪に装着する、

 専用のソリみたいなのも貸してくれるらしい。

 今から、どんな感じになるのか楽しみだ。


 車内に会話は無いが、俺の現世スキルを使えば平気だぜ!


 …あぁ、そう言えば、そのソリは有名な発明家が作った物で、

 その人は他にも今まで無かった便利なアイテムを、色々と創り出している…

 らしい。機会があれば是非会ってみたいな!





 そんな事を考えていると、馬車は都市内を抜けたようだ。


 すると、外からティファがルサリィに声を掛ける。


「…ルサリィ、もう外しても大丈夫ですよ?」

「えっ、でも……」


 何だろう…チラリと俺を見てくるって事は、

 彼女がフードを取らないのは、俺が原因なんだろうか?


 …無理矢理に付いて来た事を怒ってるとか?

 お兄ちゃんと呼ばせてるからとか…?



 俺が悩んでいると…

「ユウト様は大丈夫ですよ、そんな事は気にされません。」

 少し強めにティファが言う。

 むしろ喜ぶ筈…とか呟いてるけど何の事かな?



 こう言う時に、主人公スキルがあれば、

 気持ちを読みとって最適解を答え、

 俺はモテモテ人生を送れるのだろうが…

 あいにく、そんなスキルは持ち合わせて無いんでな!



 俺が原因じゃ無い事を祈っていると…




 意を決したように、ルサリィちゃんがフードを外した!!



 …


 ……おっ


 …………おおっ!





 ケモっ子キタッー!!!!



 トプの大森林で会った、パチもんのオッサンケモのペルでは無く…

 犬猫系の耳を備えた、完璧ケモっ子幼女が俺の前に降臨しましたよー!!






 ……はっ!いかん、歓喜に脳が震えて我を忘れてしまった!


 俺は慌てて、怯えるいるルサリィをフォローする。

 …もちろんイケメン風にだ。




「いんやぁ~すんばらしく、カワゥィネェ!パネェなぁ~コノコノ~」







 ……ドン引きされた。







 その後は必至に謝って、何とか普通に喋ってもらえるまで回復させた…

 ネタアイテムも捨てずに取っておいて良かったと、昔の自分に感謝したよ!



 どうやら、ルサリィは俺も街の人間同様、亜人種への偏見があるのでは

 と、怯えていたそうだった。

 むしろ、区別して優遇したるちゅうねん!


 …ただ、亜人種差別は結構根が深いらしく、

 今までも見た目で結構苦労したのが抜けないらしい。


 父親が冒険者で、母親が狼族らしく、

 ルサリィはハーフとの事だ。

 父親は人族だけど、冒険者だったので、

 獣人族に大した差別は無かったそうだけど、

 人間の土地で生活するのは大変なんだな…




 そんな事を話していたら、いつのまにか砂漠の入り口にある

 乗り継ぎ所に着いたので、仕様チェンジをお願いする。


 俺達も馬車を降り、シルクットでやり損ねた砂漠向けの用意に着替える。


 とは言っても…ローブを着替えて、

 炎熱耐性のあるポーションを飲めば完了だけど。



 馬車の用意はもう少し掛かりそうだったので、

 今の内に予定を確認しておく、

「ここから、サンドクリスタルフラワーがある、デザートイーターの巣までは、馬車…じゃなくて蛇車でも3~4時間はいるな。」


「途中でモンスターに遭遇したりすれば、夕刻に入ってしまいますね。」



 俺はティファの意見に同意しながら、向こうに着いたら野営を優先して、

 明日の朝から花を探し始めると二人に伝えると、了解の返事が帰ってきた。



 何を考える訳ではなく、そのまま地図を見ていると、

 蜥蜴人族…いわゆるリザードマンのお兄さん?

 から、蛇車の用意が出来たと声が掛かった。


 二人には幌に入ってもらい、俺が御者台に座る。

 そして、この時の為に用意した、指揮者のタクトを使う。

 通常は操作の難しいサンドスネークもコレさえあれば、

 進みたい方向や簡単な意識を伝える事ができるのだ。



「…リロードオン」

 二匹のスネーク達は、俺にシャーと鳴くとスルスルと進み始める。

 ソリのお陰で幌の抵抗も少ないし、何より振動が少ない!

 そんな事に感動しながら、何も無い砂漠をひたすら西に向かって滑って行くのであった。

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