第5話安堵

「もしかして……ご主人様ですか?」


 再び、騎士は俺に尋ねて来る。


 そして「さぁ!答えよ!」とばかりに俺に着けられていた口の布を外す。



 これは、絶好の機会ではある。

 …だが、しかし、しかしだ!


 俺には、フルプレートアーマを着こなし、ドアをぶち抜いて、幼気な少年を救うヒーローの様な知り合いは、いない…そう、いないのだ。


 …いや、と言うか、俺はこの世界に知り合いなんていねーし!



 …

 ……

 一応、無難に師匠対応してみるか…?

 あーあー…ごほんっ

「あ、あれー?お、お姉さん?ぼくの知り合いなのー?」

「かおが見えないから分からないよー」



 どうだ?謎は全て解けたか⁉︎

 …いや、解けないか。




 俺の対応に、やや首を傾げる事で答えた騎士は、フルフェイスのバイザーを上げた。


 …偉い美女さんの顔がそこにあった。


 …

 ……誰⁈



 いやいや、本当に分かりません!

 ただ、ただ…ここで、ご機嫌を損ねると、俺の未来が、明るい家族計画がが…



 ……なので、正体を考える。

 必死にだ。


 でも無理だ。(早

 だって、ゲームの世界で知り合いとか、クイズにしてもハードル高すぎだって‼︎




 諦めて、いっちょやってみる…


「ぁ、あぁ~おねぇ……」

「ティファです。ティファ・エード・ノートです、ご主人様。」


 俺が適当ぶっこいて乗り切ろうと、口を開いたら、名乗りを上げられた。


 ……ティファ?


 ん~

 ……どっかで聞いた?



 いや、この、俺がイキって付けそうな感じの、

 その名前は…

 君の名は!

 俺がソロで戦う為に作った、

 NPCキャラの名前じゃねーか‼︎




 何、人の黒歴史を暴こうとしてんだよ…

 マジで、どんだけタチの悪い運営様だよ!



 …神に悪態を付いて、騎士の顔を見る。




 PCの画面越しに設定しただけだし、

 そこまで細かく決めれた訳じゃなかったけど、

 初めて作った、俺の仲間だった…

 から確かに見覚えはある…かも。




 意を決して、俺は尋ねた。


「…お前、ほんとに俺が作ったティファか?」

「はい!その通りです。ご主人様に作って頂いた、ティファにございます!」

 騎士から笑顔が溢れる。


 しかし、


 ーーガンゴン!

 ーードカ…ボコっ! うわぁ…

 ーーくそ! ーーゴーン…固え!



 …俺達の感動の名シーンをぶっ壊すべく、

 喋っているティファの後ろから、

 暴漢共が攻撃しているのが見える。


 まったく、ダメージは入っていないようだし、

 ティファも気にせずニコニコしているが…

 絵面が可笑しいだろ⁉︎


 …何か、怖いって。




 ごくり、と唾を飲み込みお願いしてみる。

「ティ、ティファさん?その…後ろの人達を、どうにかしてから、ゆっくり話さないか?」



 後ろの野党達の顔が、一瞬で真っ青になる。

 ……顔芸豊かだな。



「ひっ!ひぃぃー」

 野党の一人が、恐れに耐え切れず、入り口に向かおうと駆け出した。

 が、その瞬間……後ろから追いついたティファに、頭を掴まれ地面に投げつけられた…



 地面に血の花が咲く。



「うぉっ!」

「うわぁあ!」

「ぎぃぃやぁ~」


 等と、雑魚共の悲鳴が聞こえるが、お子様の俺は眼を硬く瞑り、瞑想モードに入る。


 ……

 ものの一瞬で辺りは静まり返り、俺の吐息が掛かる距離で人の気配がしたかと思うと、

 後ろ手に縛られていた拘束を、ティファが解いてくれていたのが薄目に見えた。



「……あっ、ありがとう…ございました。」

「勿体無きお言葉です。」


 畏るティファを見て、心に高揚感が湧き上がる。

 これは、もしかしてお約束の俺が作ったキャラだから、好き勝手に命令出来るってやつか⁉︎



 …だが、同時にゲーム時代みたいに"俺に付き従って行動する"ってのが、本当に当てはまるのか?

 と言う疑問が湧き出す。



「…こんな所では何ですので、私達の家に移動されては如何でしょうか?」


 俺はブンブンと、素直に頷いた。



 ……てくてく …カツカツ

 …通りをティファの家に向かいながら歩く。

 俺は疑問に思っていた事を、言葉を選んで、慎重に聞いてみた。



「あのー、ティファ…さん?何でこんな姿になったのに、俺だと気づけたの?…ですか?」

「……ご主人様、何故、そんな喋り方をされるのでしょうか?」


 若干、ご機嫌が悪そうに見えるんですけど…


「どうぞ、以前のように「おまいら!ポーション買い集めて来い!」と、仰って下さい。」



 拒否を許さぬ威圧感に、おっ、ぉぅ…と、頷いた。

 ……ぐぅぅ~

 そして、腹が盛大になった。


 ティファの眼が輝いている、命令しろって事?

 か…少し怖い気もするが、本人がああ言うのだから大丈夫だよな?


「ティファ、肉串を買って来い!」

「はっ!ユウト様、お幾つ買われますか?」

「み、三つだ…」


 畏まりましたと頷くと、直ぐさま近くの露店へ並ぶ。

「あっ、金が…」と言い掛けて、止める。

 後で請求されたら、泣いて謝ればいいだろう。



 …しかし、フルプレート纏った騎士が、肉串の露店に並ぶ様は、かなりシュールだな。

 屋台のオヤジの顔が引きつっとる…


 タレとか飛んだら、ぶっ飛ばされそうだし、次からは店の人にも気を使ってあげようと、

 天使の心で見ていると、買い終わったティファがダッシュで帰ってくる。


 …自分のパシリ時代を思い出すようで、軽く鬱な気分になるな。


「ユウト様!買ってまいりました!」

 ティファの声のデカさに、周りがギョッとして、こちらを見てくる。


「あ、ありがとうティファ、家に着いたら頂くよ…」

 俺は、小声で言うと、案内を促した。



 そして、途中でさらに質問責めする。

 違う責めもしたい……

 いやいや、しょうもない考えは置いておこう。


 何故、ゲーム内での背格好と違うのに、俺だと気付いたのか!と言う質問には、

 相手をよく見れば、名前とジョブが表情される事、そして希望すればLVも表示出来るらしい事も知った。

 しかし、これらは偽った情報も入力出来るとの事で、信頼し過ぎるのも問題だと教えてくれた。


 成る程、馬鹿正直に実名公開したり、隠しジョブを知られる必要も無いって事か…

 ただ、名前を偽るのは少なからず居るが、ジョブまで隠す者は少ないと補足してくれた。

 ちなみに、ティファは全部正直に公表しているのが、目を凝らして確認済みだ。


【ティファ・エード・ノート / パラディン ロード 】

 と、なっていた。



 レベルについても聞いてみたが、以前のまま、LV100はキープしているとの事。

 LVが高いと、依頼や頼み事が多くなり大変だったので伏せているそうだ。


 俺が趣味で着せていた、露出が高い服(キャラ詳細の画面でしか、あまり意味が無いグラフィックだが)は、恥ずかしいので、鎧に変えているのだとか…残念だ。


 だが、しかし!

 かっ、感情や、それに基づく行動を取れるのか…

 最初から感じてはいたけど、それは、もはや人間…だよな?




 逆にティファからも質問される。

 何故、子供の体で、名前も違うのかと……



 …そんなの俺が聞きたいわ!



 …とは言えず、目覚めるとこうなっていて、名前も悪意のある物に変えられていたと教える。



 後、何故に名前も含めて、俺との共通点が無いこの状態で、俺だと分かったのか?と言うと、名前の横に【主たる者】って、称号が見えるれしい。

 俺には見えないけどな…

 毎日探してくれていたのもあって、

 だから…俺かも、と思ったそうだ。


 何か、簡単に騙されたりしそうな性格だな。



 しかも、ティファがボス討伐後に、入り口に転移させられてから、今までで、およそ一ヶ月経過しているらしく、このレベルでどうやって生き延びて居たのか、と不思議がられた。



 …俺は今日、目覚めたばかりだけどね。


 良く分からないんだよね、と話したところで…




 着いた……




 ……屋敷に。




 ……でかっ!!うそん。



「ティファはこれに一人で済んでるのか?だっ、誰かの従者にでもなったから、ここに住んでいるのか?」

 頭を過ぎる不安に、早口に聞いてしまったが、兜を脱いだ彼女に笑顔で返される。


「ここは、ご主人様をお迎えする為に、我々で購入した物でございます。」



 …ほっ


 ……どうやら、鞍替えならぬ、ご主人様替えをした訳では無かったようで安心する。


 推しメンチェンジは勘弁して欲しい、アイドルの気持ちは、こんな感じなのかな…




 豪勢な庭を抜けて、屋敷の扉を開けてもらい中に入る。

 ……中もスゲーな…


 嫌らしい感じでは無い程度だが、審美眼の無い俺にでも分かる位の調度品が置かれ、この屋敷が、かなりの値が張るであろうことが伝わって来た。


 横を見ると、少し申し訳なさそうにティファが頭を下げて来た。

 …?


「この屋敷を買い取るに当たって、ご主人様からお預かりしていた、資金の殆どを使い切ってしまい……」

 怒られるのでは、と少しオドオドと言い訳っぽく説明している。


 ……そうか、俺が自分で何かを買う事なんて無かったから、パーティーメンバーに渡していたのか。


 だからって自分の所持金0て……アホか俺は。



 ティファに大丈夫、大丈夫と伝えると、目に見えてホッとしているのが分かった。



 …俺はそんなに恐ろしかったのだろうか?

 別にNPC相手に優しくするのも変だから、

 特別優しかった訳じゃ無いけど、

 基本的にはお使いと、バトルのサポートしか…


 そこまで考えた俺は、自分の指示を思い出した。




 …そういや、盾キャラだったティファには、他の必要キャラの為に、

「盾になって攻撃を止めろ!死んでも構わん!」

 とか、偉そうに指示してた気はする…



 で、ても、それは他のプレイヤーもやってるし、違反でも何でも無い…

 無いけど、気分が良いものではないわな……



 そう考えて、黙り込んでしまう。


 俺が無言でいるのを、どう思ったのか分からないが、急ぎリビングへ案内される。

 お茶を用意しますので、少しお待ち下さい。と言われ座らされた。



 …ぐぅー、くぅ


 俺の腹から、可愛い音が鳴る。

 ほんとに昔とは大違いだ。



 自分の出したその音で、そういえば、腹減ったなぁ…

 と思っていると、キッチンから香ばしい匂いが漂って来て、口からヨダレが垂れそうになる。


 じはらくすると、お茶と焼き直した肉串を持ってティファが登場したんだが…




 その姿は、…まさに女神だった‼︎



 鎧を脱いで、洋服に着替えた彼女は、超が付く美人で、ボンキュッボンのナイスバデーで素晴らしいの一言に尽きた。

 洋服も胸元までしか布の部分が無い、貴族の令嬢とかが着そうなやつだ!


 …ティファさん、こんなに素敵女子だったのか。



 鎧姿からでは想像しなかった、嬉しい誤算に、上がるテンションを必死に抑える。

 そして、まずは、持って来てくれた肉串とお茶を頂戴する。



「んぐんぐ…むしゃむしゃ……ごくん。」

 何の肉か分からんが、空腹に支配された俺の胃袋には「そんなの、かんけーねぇ!」と吸い込まれて行く。


 …タレのパンチと、野菜の優しさもしっかり堪能し、ご馳走様。をする…



 …あぁ、うんまかったぁぁ‼︎



 一心不乱に食べていたので、お茶を貰いながら、状況の整理をしようと、向かいに座るティファへ話しかけようとしたところで…



 ーーカタカタ…カチャン

 ーーガチャッ



「ただいまですわぁ~」

「…戻りました…」




 二つの声がリビングにいる俺の耳にも届いて来た。



 …もしかして、

 この二人って……。

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