さよなら僕の抱き枕カバー先輩
藤原マキシ
第1話 変身
「ねえ、
生徒会室で、みゆ先輩が窓の外を見ながらそう言ったとき、僕は、先輩に対してもう少し真剣に向き合うべきだったんだ。
「圭介君、ぼくが抱き枕カバーになっても、君は、ぼくのこと先輩って呼んでくれるかな?」
みゆ先輩はそう言って、少し
窓際に
制服の紺のブレザーに
「ええ、先輩が抱き枕カバーになろうと、悪魔に魂を売ろうと、全世界を敵に回そうとも、僕は先輩を先輩って呼び続けますよ」
二人だけの生徒会室で、僕は文化祭のスポンサーにお礼状を書きながら答えた。
みゆ先輩は生徒会長で、僕はその書記を務めている。
不純な理由だけど、僕はみゆ先輩に
「そうか、良かった。それならぼくも安心して抱き枕カバーになれるよ」
みゆ先輩がそう言って僕に微笑みかける。
大体、二週間くらい前、先輩が一人称を「ぼく」って言い始めた頃から、予感はあったんだ。
でも、普段の先輩のエキセントリックな言動から、そんなことは取るに足らないことだってスルーした。
いつも通り、二週間くらいでそれも収まるだろうって、その時はそう考えた。
生徒会で一緒に過ごす時間が多くなって、みゆ先輩が、ただ
けれども、今回は「抱き枕カバーになる」とか言いだして、症状が悪化してるのかもしれない。
「どうして、抱き枕カバーになりたいんですか?」
僕は、先輩に対して探るように訊いた。
「圭介君、良い質問だね。だって、抱き枕カバーになれば、一日中ベッドの上で寝ていられるし、寝ていても誰にも何も言われない。
みゆ先輩は、両手を広げて、芝居じみた仕草をした。
「でも、抱き枕カバーになったら、もう、先輩が愛して止まない『げんこつハンバーグ』が食べられませんよ」
知らない人はいないと思うけれど一応説明しておくと、「げんこつハンバーグ」とは、「炭火焼きレストランさわやか」のげんこつハンバーグのことだ。
「ああ、もちろんぼくもそれは考えた。熟考した。けれども、抱き枕カバーになるってことは、それを
先輩がそう言って目を
「まあ、先輩がそこまで覚悟してるなら、止めませんけど」
早くこの退屈な仕事を終わらせて、みゆ先輩と一緒に校内の見回りに出たかったから。
でも、それがいけなかったんだ。
「うん、分かった」
先輩が言うなり、ふわっと室内に一陣の風が流れたと思ったら、窓際からみゆ先輩の姿が消えた。
代わりに、床に一枚の布切れが落ちている。
一枚の布きれ、いや、抱き枕カバーになったみゆ先輩が落ちていた。
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