犬耳ちゃんと首輪と駄犬お姫 2

ひとまずホットミルクを3人分もって、台所から戻ると、駄犬とルーちゃんは、暖炉前のソファに移動していた。駄犬は、いつの間にか手錠を外し、代わりに真っ赤な革の首輪と白い犬の付け耳をしていた。この駄犬はスカウト技能まで持っているのか、とちょっと感心した。


「はい、甘いのだよ」

「わーい、ルー、甘いの大好きなのです」

「ありがとう受付ちゃん」


そういいながら、ホットミルクを受け取るルーちゃんと駄犬お姫。ルーちゃんの耳ピコピコ動いてかわいい。駄犬の耳もなんか動いてる。どうやって動かしているのだろう。


「ほら、ルーちゃんもちゃんとお姉さんに『ありがとう』って言わなきゃだめだよ」

「おねえさんありがとう!」

「よくできました」

「そういう駄犬も、いつもは言わないけどね」

「えー、言ってるよー、伝わるでしょ」

「『んにー』だけで伝わると思ってるあんたは何なのよ」


私が飲み物を入れると、駄犬お姫は大体妙な鳴き声で鳴く。大体が「んにー」である。なんとなくありがとうの意味だろうかとは感じていたが、伝わってはいない。熟年夫婦ではないのだ。


「ちゃんと口に出さないと伝わらないんですけどー」

「ひにゃあああああ!!!!」

「おお、白おねーちゃんのほっぺ、よく伸びるのです」

「私に言うことあるよね? ね?」

「にょわわああああああ!!!」

「そうね、反省しなさい」

「ゴムまりのようにプルプルしてて面白いのです」


駄犬のほっぺを放す。ルーちゃんが興味深そうに駄犬の頬をつんつんしている。やめられない止まらないプルプル感なので気持ちはわかる。なんにしろ駄犬なのだからしつけが必要不可欠である。


「それで、ルーちゃんはどうしてこんなところに、こんな駄犬につかまっていたの?」

「わんわん」

「待て」

「くーん」

「それで、ルーちゃんどうしてかな?」

「なんというか、二人の関係性がよく見えるのです」


関係性なんて駄犬とその飼い主以上ではないでしょうね。


「駄犬のことは気にしないでおきましょう。で、なんでですかね?」

「語るも涙聞くも涙の深い事情があるのです」

「ふむふむ」

「ルーはコボルドの遊牧民の子だったのです」

「なるほど」


コボルドは犬系の獣人だ。大まかに狩りが得意な部族と、鉱山採掘が得意な部族がいる。ルーちゃんは遊牧民、狩りが得意な部族の子供らしい。この辺りは自然もまだ多いので、そういった狩りの部族も多少いる。バレン=タイン祭の時も、コボルトやケンタウロスといった遊牧民の人たちをちょこちょこ見かけた。


「それで迷子になって気づいたら白おねーちゃんに助けられていたのです」

「すごい短かった」


単なる迷子だった。ただ、遊牧民の子供が迷子になるのは珍しくない。常に移動し続ける彼らは、子供がいなくなってもあまり探さない。迷子になると子供たちは大体街向かう。街にたどり着けば、街の孤児院で保護して、1年ぐらい待てば迎えが来る。大体そんな感じで迷子の対応をしているのだ。なので、この子も教会の孤児院に預ければいいのではないだろうかと思うのだが。


「駄犬。なんでこの子、教会に連れて行かなかったの?」

「神父さん犬アレルギーだからダメなんだよ」

「犬アレルギーってコボルドふくまれるの!?」

「みたいだよ。この前のお祭りの時もコボルド集団に囲まれて辛そうだった」


神父さんの意外な弱点が発覚した。


「んー、でもそれなら大地母神教会の方連れて行ってもいいんじゃないの?」

「えー、やだー、うちで飼うのー」

「いやいや、ペットじゃないんだから」


ルーちゃんは、見た感じ10歳前後なので、赤子と違って1から10まで世話を焼く必要はないが、それでも面倒を見るのは大変だ。ちゃんとしたところに連れて行った方がいいと思うんだけど……


「おねがい、おねーさん」

「う……」


上目づかいであざとくルーちゃんがすり寄ってきた。あざといがかわいい。

あまりお風呂など入っていないのだろう。結構獣臭くて、かわいくてやばい。


「おねがい~」


胸にぐりぐりと顔をうずめてくる。頭をなでるともふもふしていた。耳をなでるとむずむずと耳が手をよけていく。非常にかわいい。でもあまりお風呂とかは言っていないのだろう。きっと洗ったらもっとふわふわになるだろう。もう何がやばいかわからないぐらいやばい。

そのままルーちゃんは私にすり寄ってくる。もふもふして、なんかすごい楽しい。ついでに駄犬もすり寄ってきた。こいつ、無駄にふわふわしてんな。駄犬のくせに。


そんなもふふわに挟まれながらお願いされると、なんかもうすべてがどうでもよくなってきた。


「おねがいにゃ~」

「おねがいわんっ」

「……仕方ないですね。 ちゃんと面倒見るんですよ、駄犬。ギルド内に開いている部屋がありますから、そこを使わせてあげます」

「わーい!!」

「わーい!!」


おもわずOKを出してしまったがこれでいいのだろうかと思いつつ、私はルーちゃんをなでなでしていた。

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