犬耳ちゃんと首輪と駄犬お姫 1

「わんこ拾ったー 飼おー」


お姫の出勤は早い。日の出前には必ずギルドに来る。早く来て、勝手に暖炉に火を入れて、お湯を沸かして、自分の分と私の分のココアを入れて、そのあとは私と雑談したり、掃除とかの開店準備を手伝ってくれたり、大体朝のルーチンワークはそんな感じである。ギルドの扉のカギは私が開け閉めしていたが、一度お姫がギルド前でずっと前で待っていたことがあったため、今はお姫に鍵を渡している。なので、毎朝ギルドの扉を開けるのはお姫の仕事になし崩しでなってしまった。

なので私が起きて、部屋から出てくると、そこにお姫がいることはなにも不思議ではないのだが……


お姫はいつもの定位置である、暖炉前ソファではなく、受付前の椅子に座っていた。その膝の上には薄汚れた段ボールがあり、段ボールからは金色の獣耳が飛び出ている。なるほどなるほど


「元の場所戻してきなさい」

「ひどい!?」


思わずお母さんが小さな子供に言うようなことを言ってしまった。


「うちでは犬は飼わないことにしてるからダメ」

「そんな、私が世話するから!!」

「それ、絶対最後に私が世話する羽目になるパターンだよね」


典型的なやり取りをしながら考える。お姫はまじめで律儀な部分もあるが、基本的に移り気だ。冒険者としての長期外出の可能性も今後あるし、ペットを飼うとなったらいつもギルドにいる私の仕事になりかねない。

私自身、犬が嫌いかどうかといわれれば、実は大好きである。大きな犬に抱き着いてモフモフなでなでしながらくつろげたらどれだけ楽しいだろうと思ったことは一度や二度ではない。ただ、私自身は犬に嫌われる。すごく嫌われる。近づくとなでられる前にまずすごく吠えられる。ちょっと引くぐらい吠えられる。おとなしいと評判の近所のゴン(雑種の金色モフモフわんこだ)にもすごい吠えられた。飼い主にゴンの鳴き声初めて聞いたといわれた。すごく泣いた。

ちなみに猫も大好きだ。世の中には犬派、猫派というものがあるらしいが、私に言わせればそのような対立項を持ち出す時点で愛が足りていないとおもう。わんこもにゃんこもかわいい。これこそ世界の真理なのである。でも、わたしはわんこにもにゃんこにも嫌われる。解せぬ。


きっとギルドで飼い始めたら、世話は私がするがすごく吠えられて、お姫あたりが甘やかしておいしいところを持っていくに違いない。理不尽だ。これほどの理不尽はない。なのでペットは絶対にノーである。


「ということで返してきなさい」

「ルーは返されたら行くとこないのです、寒いのです」

「そうだよかわいそうだよ」

「ダメです、あと腹話術までできるとかお姫、本当に多芸ね」

「腹話術じゃないのですよ、ルーは喋れるのですよ」

「いやそういう細かい芸いいか、ら?」


段ボールを覗くと、金髪犬耳の少女が座っていた。

え、ナニコレ、どういうことなの。


「えっと、ひとまずこれで……」

「なんで手錠出したの受付ちゃん!? そういうプレイなの!?」

「いや、誘拐犯を捕まえなきゃなって。安心して、証言台にはちゃんと立ってあげるから」

「ボクは無実ですー!!!」

「犯人はいつもそういうわね」


くーん、くーんと謎の鳴き声をあげる駄犬お姫。でも誘拐は許しません。ガチャっという金属音が響き、手錠が駄犬の腕につけられた。


「それで、あなた、どうしたの段ボールに入って?」

「ルーはルーなのです!!!」

「ルーちゃんっていうのね。ココアのむ?」

「飲むのです!!」


元気に両手をあげてアピールするわんこルーちゃん。かわいい。ひとまず甘さマシマシのココアを入れてあげようと席を立つと、駄犬が声をかけた


「あ、コボルド族はココアダメだよ。たしか」

「え、そうなの? というかこの子、コボルドなの?」

「そうだよ、ねー、ルーちゃん」

「そうなのです」


どや顔して胸を張るルーちゃんかわいい。なでなでしたい。


「じゃあホットミルクにしようか」

「ルーは大人なのでここあが飲みたいのです!!!」


万歳して、耳をピーンとたてながら謎大人アピールをするルーちゃん。かわいい。思わずココアを出したくなるが、体に悪いという話だし、どうにか話をそらさないと。

話のもっていき方を若干失敗したなぁと思いながら、頑張って話を逸らす。


「ルーちゃん、甘いのと苦いの、どっちが好き?」

「甘いのです!! 苦いのは嫌いなのです!!」

「じゃあ甘いの持ってくるね」

「甘いのなのです!!!」


尻尾をパタパタと嬉しそうに降るルーちゃんを見ながら、私は流しのところへ向かうのだった。

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