chapter.95 ニューヒロイン、ニューゲーム

 多階層世界。


 それは可能性により数多の数に分岐するパラレルワールドではない。


 一つの世界をループさせることにより、そこで得た経験や知識を次に創造される世界に情報を引き継いで、周回させることにより高度な世界を作り上げるシステムだ。

 生命体は過去の周回の記憶を持ち合わせてはいないが潜在能力、無意識の中で過去階層の能力を発揮させる。


 そして、その現象を可能にする次階層への扉を開くことが出来るマシンこそが《ソウルダウト》なのだ。



 ◆◇◆◇◆


 突如、現れた《黒き機械竜》は灼熱の黒炎を《ゴッドグレイツ》に向かって吐き出し攻撃する。


「どうしてなんですっ!? マコトちゃんのお父様じゃないんですか?」

 トウコは困惑した声を上げる。

 とっさに避ける《ゴッドグレイツ》だったが、宇宙に吹き荒ぶ重力嵐で飛んできた残骸がマコトたちを襲う。


「……トウコちゃん、ゴッドグレイツから父さんの気配が消えた」

 降ってくる残骸を蹴散らしながらマコトは《黒き機械竜》の隣で佇むヤマダの《ゼノン》を睨んだ。

 いつもコクピットから感じる父の温もり。

 声や姿は見えないが《ゴッドグレイツ》に融け出した父の魂が全く感じられなくなっていた。


「何をしたの、ヤマダ・アラシ!!」

 マコトの怒りで《ゴッドグレイツ》が激しく燃え盛るする。

 爆発的な加速力で火の玉状態になった《ゴッドグレイツ》は《ゼノン》へ特攻した。


「感動の父親との再会だァ! もっと喜んでくれよなァ?」

「ふっざけんなッ!!」

 突き出した《ゴッドグレイツ》の拳が《ゼノン》を貫く。

 上下に分断されて《ゼノン》は炎上する。


「やめろよゴッドグレイツ! 礼奈がいるんだぞ!?」

「だったらさっさと助けに行けよ!! でかい図体が伊達か?!」

「言われなくなってやってやるんだよ! そっちがでしゃばるんじゃねえ!」

 口喧嘩を始める歩駆とマコト。

 その様子を見て燃え上がっている《ゼノン》の頭部でヤマダは笑っていた。


「クックックッ、仲間割れとは滑稽だなァ?!」

 ヤマダの《ゼノン》は背中のベールで下半身を引き寄せる全身に巻き付かせると一瞬だけ白く光った。

 すると分断された身体は元戻りになり火の付いた全身も綺麗に元通りになった。


「……ヤマダさん、貴方は神様にでもなったおつもりですか?」

 トウコは静かに怒りながら質問する。


「命を弄んで、貴方のせいでどれだけの人間が犠牲になったと思ってるんですか?」

「はァ……言っておくが神様なんてものはこれっぽっちも信じちゃァいないぞ。もちろん、自分自身を神だなんて思ったこともないさァ。ただ、世界が理想通りに事が運べるよう布石を置くだけ」

「訳のわからないことを!」

 再びマコトが食って掛かると《黒き機械竜》が《ゴッドグレイツ》の前に立ちはだかる。


「お父さん!」

 マコトは呼ぶも《黒き機械竜》の返事は黒炎のブレスを吐き出して《ゴッドグレイツ》を焼く。


「ま、そこの少女にも訳のわかるように言うとだな……そうだなァ、神を信じていないからこそかもしれない。そうだろ真道歩駆?」

「うるさい、俺に聞くな!」

 ヤマダの言葉を一蹴する歩駆。

 向かい合う《ゴーアルター》と《ゼノン》が同時に駆け出す。

 全力のパンチを繰り出した《ゴーアルター》をベールで受け止める。

 すると《ゴーアルター》の腕に絡み付いて《ゼノン》はそのまま思いきり振り回して浮遊するビルの残骸に叩き付けた。


「ぐぅっ!?」

「……やはり君は今まで見てしたどの真道歩駆よりも弱い。あの頃を自分を見ているようで腹が立つ」

「知るかよ! お前が俺のゼロだとかどうとか、目的がどうとか、そんなもんどうだっていい! 俺はお前をぶっ殺して礼奈を取り戻す! それだけだ!」

 絡み付くベールを引っ張り《ゴーアルター》は《ゼノン》を側に引き寄せる。


「礼奈かァ……それすらも仕組まれた事だとしたらどうする?」

「なにが言いたい!?」

「ゼノンを動かしているのは誰だと思う? ってことさァ」

 頭部の冠に身を乗り出してヤマダは《ゼノン》の額を覗いた。


「元々、幼馴染みなんて存在しなかったのさァ。だが、いくつか周回を重ねる内にそういう役割(ロール)を持つ存在も出来たってわけ」

「だから何を……はっ?!」

 歩駆は《ゼノン》の額にあるクリスタルの中に浮かぶ渚礼奈と目があった。

 礼奈は手を前にかざすと《ゼノン》の掌から光の刃が飛び出し《ゴーアルター》へ斬りかかった。


「な、何故だよ礼奈……どうして?!」

「責任感の強い娘ってのはいいなァ? 安心しろよ、彼女は強い女性だァ。きっと役割(ロール)を全うしてくれる。次の真道歩駆とも仲良くやってくれるだろう……フフフ、ハァーッハッハァッ!」

 高笑いのヤマダ。

 失意の歩駆と《ゴーアルター》は地球の重力に引かれて堕ちていく。


「この力で新たな歴史を築いていく! 次こそは……奴等を滅ぼして栄光を掴む、このヤマダ・アラシが……来い、ジーオッドD!」

 ヤマダの呼び掛けに《黒き機械竜》は接近する《ゴッドグレイツ》をはね除けて《ゼノン》の元へ集う。


「見せてやろう、これが次の主人公機!」

 声高らかにヤマダが叫ぶと《ゼノン》は《黒き機械竜》の背部に降り立ち、下半身を埋めるようにして合体した。


「言わば《ドラグゼノン》とでも名付けたりするかァ。次の世界こそ奴等を滅ぼして見せるそれでは諸君、さらばだァーッ!!」

 半人半竜の巨大マシン《ドラグゼノン》は重力嵐を起こす原因である宇宙の裂け目に向かって飛翔する。


「待ちなさいよ! 行かせるかっての!」

 追い掛けるマコトの《ゴッドグレイツ》だったが《ドラグゼノン》に接近するほど強くなる重力嵐の衝撃と裂け目から湧き出る《擬神》の大群が行く手を阻んだ。


「マコトちゃん……ここは一旦、退きましょう」

「でもここでアイツを逃がしたら」

 トウコはマコトの額にそっと手を当てる。

 冷たいトウコの掌から湯気が上がり、火傷するぐらいの熱が伝わった。


「オーバーヒートです。これ以上はマコトちゃんが死にますよ……それに」

 トウコは《ドラグゼノン》が入っていった宇宙の裂け目を見詰める。


「まだ時間はある……そんな気がするんですよ。そうですよね、ガイさん?」

 マコトたちに捕まってから沈黙を続ける《ゴッドグレイツ》の背中に接着された《ブラックX》のガイに呼び掛けるトウコ。


「……、…………」

 ガイは答えない。

 するとトウコの形相が変わる。


「……小僧ッ! いつまで不貞腐れているつもりだッ!!」

「うおっ!?」「わあっ?!」

 いつものトウコとは思えない怒号が響き渡り、マコトとガイは目を丸くして飛び上がった。


「え? えぇー? と、トウコちゃん?」

「…………オボロか、お前?」

 ガイが口を開く。


「あぁゴッドグレイツの中で融けていた魂が引き出されたらしい。この身体はトウコにくれてやったというのにな」

 ハキハキとした口調でトウコ──オボロ──は言う。

 オボロ。

 ガイの育ての親であり不老不死(イミテイター)の巫女少女だ。


「……そうか、父さんとあの黒いジーオッドが現れたときに?」

「今は少し借りさせてもらっている……全く、情けない男どもだよ」

 真下の地球を眺めるオボロ。


「説教してやる、まずはゴーアルターを拾うぞ」

 

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