chapter.33 命の代償
「……状況を説明して!」
暗闇の中、叫ぶアンヌ。
強烈な閃光を放つ《ガイザンゴウ》により竜華のジャイロスフィアは大きな衝撃を受けた。管制室の電気が数十秒の間、停電したが直ぐに予備電源へと切り替わる。
「スフィアの擬装に甚大な被害を確認」
「第十一ブロックの消失。第七ブロックに火災発生。消化班と医療班を向かわせます」
オペレータたちが報告すると大型モニターに被害箇所を映し出す。
暗礁地域に紛れるため小惑星に擬態したスフィアの一部が《ガイザンゴウ》のレーザーで大きく抉れていた。
「掠めただけでこれほどの威力を……ユーリ、貴方って人は」
アンヌは怒りで拳を震わせる。姉ユーリがここまで本気になって、あのようなSVを作り出したのだとしたら妹としては殺ししてでも絶対に止めなければいけない。
「正面モニター、回復します」
電波障害が治りレーダーと戦場を映し出す監視衛星のカメラが再び状況を映しだした。
マナミの《ガイザンゴウ》とイザの《尾張Ⅹ式》は健在だった。
問題はこちらの《アユチ》と敵である《Gアーク・ストライク》が先程の攻撃で敵味方共々、全機撃墜されているということだ。
「仲間ごと……撃ったというのですか?」
アンヌの隣で車椅子の竜華が絶句する。
「他のSV隊も発進を急がせなさい!」
「ダメです副社長。さっきのレーザーのせいでSV発射口に何か障害がある模様でして開きません」
「なら手動で何とかこじ開けなさい!」
苦しい状況に苛立つアンヌが無茶な指示をする。
慌ただしい管制室でヒトリ、竜華は静かに祈っていた。
未だ目覚めぬ少年、真道歩駆が覚醒するその時を。
◇◆◇◆◇
マナミの《ダイザンゴウ》による一斉レーザーは暗礁宙域を流れを断つようにスペースデブリを一掃した。
直撃を受けたイザの《尾張Ⅹ式》だったが、本体に纏う新装備のシールドマントによるバリアフィールドで辛うじて生存することができた。
しかし、大火力のレーザーを防ぐために消費したエネルギーは膨大で、まともに攻撃することはおろか逃げるだけのエネルギーも僅かしか残っていなかった。
「この装備の真価はコレで終わったわけじゃない。と言いたいところですけど…これではね」
砲撃を終えてクールダウン中は《ガイザンゴウ》は《尾張Ⅹ式》を全身の目から睨む。ゆっくりとその大きな左手が《尾張Ⅹ式》へと伸びていった。
「ふふふ……あとは、魔神に任せましょうか」
火の玉の雨が《尾張Ⅹ式》を掴もうとする《ガイザンゴウ》の左腕に降り注ぎ、表面を焼き焦がす。
「マミさん!!」
彼方から激しく燃え盛る火球となって突っ込んでくるのはマコトの《ゴッドグレイツ》だ。
『exSV……サナナギ、マコト』
マナミの注目が《ゴッドグレイツ》に向けられた隙に、イザは《ガイザンゴウ》から死角になる岩山の影に《尾張Ⅹ式》を素早く移動させる。
「最低だよ、味方ごと撃つなんて。マミさんってそんな非道なやり方をする人だとは思わなかった」
『これは私たちを月の正義を通すために必要な犠牲なの!』
突撃する《ゴッドグレイツ》を《ガイザンゴウ》は軽い身のこなしで回避する。大きな姿の割りに動きは通常のSV並の運動性能を持っていた。
「仲間を殺して成り立つ正義なんてない!」
『私たちには私たちのやり方がある……それに《ソウルダウト》があれば全て元に戻る……!』
右腕を掲げた《ガイザンゴウ》は短い間隔のレーザーを《ゴッドグレイツ》に向けて高速連射する。レーザーの隙間を掻い潜り《ゴッドグレイツ》は更に迫る。
『私はexSVを持つ貴方が羨ましかった。なのに、そんな力を持っているのにジェシーを守れなかった貴方が許せない!』
「確かに私が側にいながらジェシーを死なせた。でも私を恨むのは違う! 私たちの敵はあのアイドルのはずだ!」
炎を纏う《ゴッドグレイツ》の拳と《ガイザンゴウ》の巨腕がぶつかり合う。
一回り二回りもの体格差があると言うのに互い一歩も譲らない。
(ただデカイだけのSVじゃない。何か別の……人がいる)
押されまいと必死に力を込めるマコトは《ガイザンゴウ》から来る不可解な感覚を味わう。マコトにとってそれはよく知る人物であった。
『織田竜華はジャイロスフィア・ミナヅキ側と繋がってた疑いがある。今回の事件だってニジウラ・セイルが逃亡のどさくさ紛れにSV生産工場を狙ったのも月の戦力を落とすために計画されたことに違いない!』
拳同士のにじり合いから《ガイザンゴウ》は不意をついて顔面からのレーザーで《ゴッドグレイツ》を吹き飛ばす。照射される続けるレーザーの勢いは増し、はジワジワと《ゴッドグレイツ》の装甲を炙っていく。
『私はガイザンゴウで月を……いえ、世界を守ってみせる。その為に《ソウルダウト》に認められて、元に戻すんだ。それで皆帰ってくる。死んでいった騎士団の仲間も、ジェシーも……だからサナナギ・マコト、今は私に殺されなさい!』
「そんな訳のわからないことで殺されてたまるかッ!!」
激昂するマコトと共に《ゴッドグレイツ》が爆発する。レーザー攻撃に耐えきれなく撃墜されたのではない。
マナミに対するマコトの怒りの感情が《ゴッドグレイツ》を通して噴火したのだ。
「死んだ人間はね、生き返らないんだよ! 一方的に命を奪い、勝手に意思を継いだと思い込んでる人なんかに世界を守る資格なんてない!!」
燃え盛る炎が《ゴッドグレイツ》の周りで渦を巻く。
やがてそれは激しい紅蓮の竜巻となり《ガイザンゴウ》へ向かい、その巨体を飲み込んだ。
『熱っ……が、ガイザンゴウはユーリ社長から貰った月の守護神なんだ。これぐらいの風なんて……うぅぅぉぉぉあぁぁぁぁぁぁっ!!』
装甲を溶かす熱風の嵐の中で《ガイザンゴウ》は全方位レーザーの発射体勢を取る。
機体のリミッターを解除したせいで、マナミの意識が《ガイザンゴウ》と同化するほど高熱が皮膚を溶かすような幻覚を見る。
自分が死ぬのが早いか、レーザーのエネルギーチャージが終わるのが早いか。
その答えはどちらでもなかった。
突如、紅蓮の竜巻が弱くなり止んでしまったのだ。
『…………新手のSV……違う、あれは月の?』
キツいヘルメットの中で汗だくで前が見辛いマナミが目に黒い影が飛び込んだ。
それは月面統括防衛騎士団の専用SVである《Gアーク・ストライク》だった。
が、機体カラーは全身が黒一色に肩だけは赤色。正面から見るとバツの字に見える四つに開かれた大きなウイングに厚い装甲とマナミの知らないカスタム機だ。
「この感覚……ガイ、なの?」
攻撃を止める《ゴッドグレイツ》は突然現れたSVを近付こうと動く。
『来るんじゃねェ』
黒い《Gアーク・ストライク》が右手に持つ大口径ライフルを《ゴッドグレイツ》に向ける。通信を送ってきた声の主はマコトの予想通りガイだ。
『マナミ・アイゼン、データは十分に取れた。もう用はない』
『撤退ですか?』
『いや、お前は用済みってことだ』
ガイはそう言うと《Gアーク・ストライク》が左腕を降り下ろすと《ガイザンゴウ》のボディが激しい閃光を迸り、装甲が寸断された。
『そ、そんな……こんなとこで…………嫌、イヤだあああっ!!』
絶叫し抵抗するマナミ。眼前の《Gアーク・ストライク》を崩れかけの《ガイザンゴウ》は最後の力を振り絞り掴もうと手を伸ばす。
だが、その巨腕が触れたのは《Gアーク・ストライク》の作り出した残像だ。
『無駄だ。この《ブラックX》を捉えることは出来ない』
『くそ、この、ぅぅぅぅうううううぁぁぁっ!!』
マナミはもう一度、二度、三度、何度も《Gアーク・ストライク》改め《ブラックX》を捕まえようと試みるもボロボロの《ガイザンゴウ》は空を掴むばかりで本体を一向に捕獲できない。
「……マミさん、後ろだっ!?」
と、マコトが叫んだ。幻を追い続ける《ガイザンゴウ》の背中にいつの間にか《ブラックX》が立っているのをマナミは気付いていない。
背中の大きく出っ張った部分に《ブラックX》はしゃがむ込むとは《ガイザンゴウ》の首筋に拳を突き入れた。
『ダイザンゴウは私の……私だけのexSVなのに。……こんな、こんなはずじゃ』
ようやく気付いたマナミだったが既に遅い。奥深くまで腕を突っ込んだ《ブラックX》は中から光る何かを手にすると《ガイザンゴウ》の頭部を蹴り飛ばした。
隙間から盛れ出る光に包まれたものを一瞬だけマコトは確認した。
「渚、礼奈さん……どうしてあのSVの中に?」
『こちらガイ、NRの回収に成功した。これより帰投する』
「話を聞け!」
『時間がない。また今度な』
二つに分断された《ガイザンゴウ》の上で《ブラックX》は飛行形態へと変形する。
礼奈を連れて飛び立とうとする《ブラックX》へとマコトの《ゴッドグレイツ》が加速する。
『待ちやがれ、ヤマダ・アラシ!!』
電光石火の勢いで《ブラックX》に接近する機体がジャイロスフィアの方角よりやって来た。
TTインダストリアルの汎用量産型SVである《アユチ》が両腕のライフルを乱射しながら全速力で突撃する。
『真道歩駆か』
『礼奈を返せッ!!』
パイロットの少年、真道歩駆の操る《アユチ》は《ブラックX》が放つ光の斬撃により四散した。
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