chapter.26 呪いを解く方法
マコトが《ゴッドグレイツ》から出てきたのは、幽霊事件のあった翌日のことだった。
本人は帰還の際にちょっとウトウトしてただけだ、と言い訳していたが戦いから六日も経っていた事と、コクピットが食べかけのお菓子の袋だらけになっているのに酷く驚いている。
この間に《ゴッドグレイツ》の中で何が起きていたのか、マコトはまたレーナの夢を見た。
◆◇◆◇◆
三編み眼鏡をしたセーラー服の少女が廃墟の屋上で立ち尽くしている。足に怪我をしており、フラフラとして今にも倒れそうだった。
周りには怪我人が道の隅で横たわり、親とはぐれた子供がぬいぐるみを引きずりながら泣き叫ぶ。
少女の視線の先、白い体躯の大型SVが怪物と戦っている。
劣勢の白いSVは胸部からミサイルを放った。
たった一発のミサイル。
だがその威力は絶大で、少女の住む町を跡形もなく吹き飛ばす。
ここまでは今までも何度も見たことのある。
今回は別の意思がマコトの中に入り込んでいた。
◇◆◇◆◇
この夢は《ソウルダウト》から送り込まれるビジョンである。
曇天の空の下、廃棄物で作られた島の中で巨大な《黒き竜》と《白い機械女神》が対峙する。
その二つのSVらしきマシンにマコトは見覚えがあった。
瓦礫の上で鎮座する《黒き竜》の顔は《ゴッドグレイツ》にそっくりであり《白い機械女神》も《ゴーイデア》に似ていた。
しかし、操縦者はどちらともマコトの知らない人物。
『来るがいい模造品。我がドラゴンヘッドの糧となるがいい』
『このシンドウ・マモリとゴーイデアならやれないことはない、やってみせる』
人相の悪いさん蛇のような雰囲気の男と、十代前半ぐらいの幼い女の子。
マモリ、と名乗った女の子の操る《白い機械女神》は果敢に《黒き竜》へと挑むが、全身から放たれる漆黒の炎に焼かれる。
地に伏してしまった《白い機械女神》を《黒き竜》は踏み潰そうと前に出た。
そこへマモリを救う者が現れる。
突然、どこからともなく現れた巫女服を着た少女が《黒き竜》に触れた瞬間、崩壊を始めた。
それはマコトのよく知る人物であった。
──オボロちゃんっ!?
『マコト、お前が救わなければいけない者はもう一人……鍵を握るのはマモリだ』
──どういうこと? 鍵って?!
『大変だと思うけど頑張ってね、マコトちゃん』
──え、オボ……ちゃんって、もしかしてトウコちゃんなの? 二人が一人に……何なのよ、ねぇ!?
◆◇◆◇◆
そして、マコトは目覚めた。
あの夢は一体なんだったのか《ゴッドグレイツ》はマコトに何をさせたいのか。機体から降りたあとも、ぐるぐると思考を巡らせる。
四六時中、ぶつぶつ呟くマコトを影から心配でずっと見張っていたジェシカに連れられ身体検査をしたが、脳にも体に何も問題はなく健康そのものだった。
◇◆◇◆◇
その後、マコトはガイとユーリに会って話したいことがありTTインダストリアルに出向く。
だが、ユーリは社長業が忙しいため面会はNG、ガイは行方を暗まし誰からも連絡が取れなかった。
どちらにも会えずTTインダストリアルの玄関前の大階段に座り途方に暮れているマコトだったが、そこにやって来たのはマコトと同じ眼鏡の少女であった。
「貴方がサナナギ・マコト?」
青い眼鏡にスーツ姿の少女がTTインダストリアルの入口から出てきてマコトの背後に立つ。
「私はアンヌ・O・ヴァールハイト。TTインダストリアルの副社長よ」
無い胸を張りながら腕を組むアンヌ。パッと見で中学生ぐらいが偉そうにしている感じがあって可愛く感じた。
「社長のユーリは双子の妹なのよ」
自信満々なアンヌにマコトは若干、引いてしまう。
どういう遺伝子をしていたらイケメン男子風の妹とちびっこな姉が出来上がるのか不思議でしかたがない。宇宙に住む人類はそうなってしまうのだろうか、とマコトは口には出さなかった。
「ふーん……」
アンヌはマコトの周りをぐるぐる回って上から下まで観察する。
「な、何です?」
「あなた案外、普通なんだなぁと思って」
「初対面の相手に失礼だね君」
むすっとしてマコトは立ち上がる。
それとなく背を比べてみると、やはり頭一つ分はアンヌが小さい。
「ウチの馬鹿が救世主が現れるぞー! って言うもんだからさ。データや写真では見たことあるけど、一度会っておきたかった」
「姉妹揃って物好きだこと……」
「ここではユーリの目に留まります。場所を変えましょう」
アンヌに連れられてマコトは車に乗る。運転するのはアンヌだ。
「自分が置かれてる状況について貴方はどれくらい把握してる?」
微妙に低いシートに座ってハンドルを巧みに切るアンヌが助手席のマコトに質問する
「月、っていうか君の会社に利用されてる気がする、そんな感じかな」
「それはそうでしょう。何たって現存するexSVで人類が手にしているのは貴方のゴッドグレイツだけなんだから」
「……それと、あのレーナ様とかいう人が気になる。何なんですか、あの人?」
夢の中に何度も現れてはマコトに助けを求め、月では女神と呼ばれている謎の女性。
「渚礼奈、それが彼女の本当の名よ」
「ナギサレイナ?」
「もう一つのexSV、GA01によって不老不死の呪いを掛けられた女性」
「不老不死って……それって私もなのかな?」
「さぁ、検査では何も問題はないのでしょ? だったら、この走ってる車から飛び降りて死なないか確かめてみる?」
恐ろしいことを言うアンヌにマコトは全力で首を振った。
「冗談」
笑うアンヌだったが、すぐ真顔に戻り渚礼奈について語る。
TTインダストリアルは先々代の社長、織田竜華の頃から渚礼奈を守ってきた。
初めは今のような宮殿のような場所を作り、そこに閉じ込めて崇め奉るなどはしなかった。
だが、時が経つにつれて彼女が未来予知や、人類の知らない未知の技術について“呟く”ようになったことから待遇が大きく変わってしまったのだ。
「いつしかレーナ様としてTTインダストリアルの女神となり会社は急成長。地球に独立戦争を仕掛けるようになった」
「アンヌちゃんがそうしたの?」
「ち、ちゃんって……先代、ウチの父よ。でも事故で亡くなった。その意思を引き継いだのが現社長のユーリってわけ」
二人を乗せた車は高速道路に入っていく。向かうのは宇宙港だ。
「それでアンヌちゃんはどうするつもりなの?」
「戦いを止める。そのためには渚礼奈の呪いを解く必要がある……もうなんなのよ今日の混みようは」
途中まではスイスイと進んでいたが、いつの間にか渋滞に巻き込まれてしまい二人は足止めを食らっていた。少し動いては止まり、動いては止まりを何度も繰り返す。
「そのためにはサナナギ・マコト。貴方の力が必要不可欠なんです。どうか力を貸してください!」
アンヌはマコトの手を取り懇願した。
「貴方にはGA01を破壊して欲しいのです」
「でもさっき現存するのはゴッドグレイツだけだって」
「先日、GA01は地球に現れました。そのパイロットは地上に降りたのち、今は宇宙に来ていると情報を得ています。渚礼奈を救うのは今がチャンスなんです」
「私が渚礼奈を……」
突然、二人の会話を遮るようにアラーム音が車内に鳴り響く。
「……はい、私です。どうしましたか?」
アンヌは車のハンドルに備え付けられたスイッチを押す。フロントガラスの下に【TTインダストリアル支社・緊急】と文字が流れて通話を開始した。
『それが、統連軍と思われる戦艦がジャイロスフィア・ミナヅキに着港。定期巡回中のルナティクスがDアルターと交戦中』
「わかりました。例の子を連れてすぐ向かいます」
再びアンヌがスイッチに触れるとフロントガラス一杯に地球圏の星図が映し出される。
指で画面をスライドさせて、地球に六期あるジャイロスフィアの中で月から一番遠く離れたジャイロスフィア・ミナヅキをアンヌは指差す。
「遠いくない?」
「ウチのシャトルならすぐです。急ぎましょう…………ひっ!?」
映像モードを解除すると、そこに男がボンネットの上に座り込んでこちらを見詰めていた。
「よう」
「何ですか貴方?! 非常識な……そこを降りなさいっ!!」
「ガイ……」
恐る恐るマコトが名前を呼ぶ。ガイのトレードマークである左目に傷はやはりない。
「行くぜ。救うんだろ、渚礼奈を?」
「マコトさん」
「心配しないでアンヌちゃん、コイツは……」
「愛を誓いあったパートナーだよなァ?」
馴れ馴れしく肩を抱き締めるガイだったがマコトはすぐに手を振りほどく。
「ふん、ゴッドグレイツが待ってる。早く行こうぜ?」
ガイはマコトにヘルメットを渡し、脇に止めてあるサイドカー付きの大型バイクに乗り込んだ。
「アンヌちゃん、急いだ方が良いんだよね? 私、先に行ってるから」
「待ってください、マコトさん!?」
アンヌの制止も聞かずマコトはガイのバイクに乗り込み走り去ってしまった。
呆然とするアンヌだったが渋滞は尚も動く気配が見られなかった。
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