chapter.27 邂逅
まるでマコトが来ることを予想していたかのように、《ゴッドグレイツ》と赤い肩の装甲が目立つガイの《Gアーク・ストライク》は既に高速輸送艦への搬入が終わっていた。
「準備が良いだろう? あの副社長の手下が勝手にゴッドグレイツを盗もうとするから、逆にこっちが奴等の船を頂いちまったというわけさァ!」
「……ねぇガイ」
「なんだァマコトよ、緊張しているのかァ? 今回は俺様も出撃する、心配するなよなァ!」
「その気持ち悪い喋り方を止めてよね。なんか、あのヤマダ・シアラを思い出す」
輸送艦に搭乗しながら、ふざけた足取りのガイを睨むマコト。
ヤマダ・シアラとはマコトにとって妹のように思い接していた少女だったが、その正体は《ゴッドグレイツ》に乗ることを仕組み、戦いへと引き込んだ人工島の実質的な支配者ガラン・ドウマの使いの一人だ。
最後の戦いでシアラは一人、地球への逃亡を図り、その後は消息は不明だとマコトは聞いている。
「……あァ…………うん、これでいいか?」
妙なニヤケ面から真剣な表情をしてみせるガイだったが、マコトの疑いの目はそのままで晴れることはなかった。
「なんなの本当。私に隠してること全て話して、今ここで」
「お前は俺の心は読めるか?」
ガイはマコトの鼻先が触れそうになるぐらい顔を近付ける。だがマコトは動揺する素振りもなくガイを睨み返してみせた。
「俺はお前の心が読める。だが、俺は俺の心が読めない……そういうことよ」
「はぁ? 意味不明だし」
「渚礼奈を救うことはお前を救うことにも繋がる」
「私を……なんで?」
「つまりだ、俺に何かあったら遠慮なく俺を撃て。お前がやらなきゃいけない……躊躇するんじゃねぇぞ」
ガイはマコトの肩を叩くと機体格納ブロックへの階段を降りていった。怪訝な顔をするマコトも後に続く。
二人は出撃までしばらくそれぞれのSVの中で待機した。
◇◆◇◆◇
目的地であるジャイロスフィア・ミナヅキまでの到着するまで、マコトとガイの会話は無かった。
この数時間、二人ともSVの中で通信を使っていつでも会話することは可能なのだが終始無言が続く。
マコト自身もまだガイに言い足りないことは沢山ある。
一人孤独にコクピットの中でぶつぶつとガイの悪口を呟くマコトであったが、突然マコトの脳裏に衝撃が走る。
「…………っ!? 何、見ているの……?!」
レーダーに反応など無い。だが、確実にその視線はマコトと《ゴッドグレイツ》を観察している。
全身に浴びせられる不思議な感覚に体が硬直する。
異様なプレッシャーにマコトの意識は宇宙へと飛んだ。
◆◇◆◇◆
「白い、exSV……GA01か」
星が煌めく銀河の幻想空間で、マコトの目の前に出現したの渚礼奈の夢に出てきたGA01と呼ばれる《白き機神》だった。
夢で見たときよりも巨大で純白のボディから虹色のオーラを放った光の翼をはためかせている。
その姿、デザインの細部に違いはあるものの、マコトはそれが夢のSVと同一の存在なのだと感覚的に理解した。
「私をこんなところへ連れてきてどうするつもり? 貴方が渚礼奈を苦しめている元凶の?!」
マコトの問いに《白き機神》は表情一つ変えず、ただ静かに真っ直ぐとマコトを見詰めるだけ。その瞳の奥に映るもの見てをマコトは振り向く。
「……なっ、何なの、コイツらは……!?」
それは《白き機神》よりも遥かに巨大な黄金の神仏像。
宇宙空間を360度、全てを覆いつくすほどの数がひしめき合い、マコトと《白き機神》の周りは宇宙の星々が見えなくなるほど神仏像の軍団に取り囲まれていた。
その神々しさに何故かマコトの体は拝むように頭を下げそうになる。
一斉に手で印を組む神仏像から降り注ぐ光は、マコトと《白き機神》を滅しようとする破滅の光だった。
マコトの目の前が暗黒に染まる。
自分すら認識できなくなり全てを無にして飲み込む一面の黒、黒、黒。
だが、そこに一点の白。
暗黒の中の純白は瞬いていた。
宇宙の大きさからすればちっぽけな存在の《白き機神》は怒りの咆哮を上げた。
力強く放った虹色の閃光を纏う巨腕が闇を切り裂き、暗黒を破壊する。
崩れ去った空間から再び出現した黄金の神仏像は、阿修羅の如き形相で待ち構えてきた。
◆◇◆◇◆
『……さん……サナ…………サナナギさん!』
「…………うぅん……えっ?! 寝てないよ!?」
通信用のスピーカーから自分を呼ぶ声でマコトの意識は《ゴッドグレイツ》のコクピットのへと戻った。
一瞬だけ眠りに落ちてしまったかのような、首をガクンと落としかけて意味不明なことを言っている。頭がぼんやりとして直前まで何をしていたか思い出せない。
『あのー、ガイ教官は先に出ましたよ』
輸送艦のオペレーターが申し訳なさそうに言う。
「はっ? そんな、いつの間発進したの?」
『五分前です』
「何で起こしてくれなかったのよ、あのバカ……ゴッドグレイツすぐ出るよ!」
高速輸送艦の後部、格納スペースのハッチが解放される。寝そべるように収納されていた《ゴッドグレイツ》が上体を起こした。
「Gアークが三機と、所属不明機が交戦している……あっちか」
レーダーの反応を辿って《ゴッドグレイツ》は輸送艦から飛び立つ。
急いで向かった目的地であるジャイロスフィア“ミナヅキ”は目と鼻の先である。
そこでは既にガイと巡回中であった月騎士団の《Gアーク・ストライク》が敵機と交戦中だった。
白いボディに重装甲の人型、噂に聞く地球統合連合軍のスーパーロボット型SVの《Dアルター》が一機、駆けつけた《ゴッドグレイツ》に気付くとターゲットをこちらに変えて向かってくる。
『邪魔をするなぁぁぁぁぁーッ!!』
量産機とは思えないスピードで、あっという間に接近すると多量にエネルギーを溜め込んだ拳を《ゴッドグレイツ》に向ける。
まるで先程、夢で見せられた《白き機神》と似た鬼気迫る勢いをマコトは感じた。
ただ違うのは《Dアルター》から感じる意思は明確な殺意であった。
「生半可じゃやられるかも……なら!」
凄まじい殺気を放つ《Dアルター》を、マコトはただ者ではないと一瞬で判断した。
マコトは回避するでもなく《ゴッドグレイツ》で《Dアルター》の攻撃を炎の壁を作り出して受け止める。
「くっ、力負けする……うぅぅぅ、はああぁぁぁぁーッ!!」
量産機と聞いたはずなのに《ゴッドグレイツ》は《Dアルター》に押されてしまう。
閃光と爆発が辺りを包み込み、周囲の漂う岩石やSVの残骸は塵となって消えさった。
爆煙が消え、残された《ゴッドグレイツ》は無傷。そして《Dアルター》は白いボディを黒く焦がし、装甲がボロボロと崩れていく。
すると《Dアルター》の頭部、コクピットからパイロットが飛び出してきた。
宇宙空間だと言うのにパイロットスーツも着ず、生身で現れたパイロットは少年だった。
焼け焦げた学生服に身を包んだ少年は、口をパクパクと何かを呟きながら絶望した顔で頭部を伝って歩く。
ふと顔を上げて《ゴッドグレイツ》を見た途端、少年の表情が一変する。
それは怒りか、悲しみか。命乞いをしているのか、まだ足掻き続けようと訴えているのか、マコトには理解できなかった。
『やれマコト!!』
ガイからの通信。
『そいつが全ての元凶、GA01のパイロットだ! 機体を呼ばれる前に、ここで終わらせろ!』
「……………………わかった」
マコトはゆっくりと《ゴッドグレイツ》の大きな掌で歩駆ごと《Dアルター》の頭部を掴む。
いとも簡単に《Dアルター》の頭は蕩けて燃え尽きたる。
呆気ない幕切れであった。
「ターゲットの消滅を確認。これで渚礼奈さんは救われるんだよね、ガイ?」
後味の悪さを感じながら《ゴッドグレイツ》のマコトはガイに言った。
『あぁ、彼女にかけられた不死の呪いはヤツが原因。でも、まだ機体が残っている。安心するのはまだ早いぞ』
ガイは頭部を失ったボロボロの《Dアルター》を見詰める。機体に生体反応はなく、完全に機能停止していた。
「だね。私達がやらなきゃだもんね? ここが未来の世界だからってやることは変わらないよ」
『頑張れよマコト。戦いを止められるのはゴッドグレイツだけだからよ』
マコトはレーダーからジャイロスフィア“ミナヅキ”から別の《Dアルター》の増援がやって来ることを確認した。
「そうだね……それじゃ他の皆、撤収するよ!」
月騎士団の《Gアーク・ストライク》たちに号令をかけて《ゴッドグレイツ》は月に向けて帰還する。
(何だろう、この胸騒ぎがする感じ。あの男の子が本当に……)
機体越しに伝わった嫌な感触が手に残る。
それなのに何処か手応えのない違和感がマコトの心をモヤモヤさせた。
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