chapter.5 戦闘開始
「防衛システム起動、出せるSVは全部出してっ! これ以上はスフィアに傷をつけさせないでくださいよ!」
外部から突然の攻撃に揺れるジャイロスフィア。統連軍の襲撃に内部は騒然となっていた。
民間人を急いで避難シェルターへと移動させるTTインダストリアルの社員と、ジャイロスフィア防衛隊パイロットは戦闘に向けて準備をする。
ジャイロスフィアの管制室ではアンヌが指示を出しオペレータが各部署に連絡を行っていた。
「向こうからの声明は無いし、こっちからの通信も拒絶。何なのよ全く……!」
「支社長、月からの援軍は?」
敵艦隊を撮す衛星カメラの各映像を忙しそうにチェックするアンヌに秘書が後ろから耳打ちをする。
「姉さ……本社がそんなの寄越すわけないでしょう」
「では“親衛隊”に援護を要請してみるってのはどうなんですか?」
「あんな集団に手を借りるなんて絶対に嫌よ。私たちだけでやるしかない」
戦力的にはジャイロスフィア側の方が圧倒的に上だ、とアンヌは思っていたが、一方的な統連軍の攻撃に防戦を強いられている。
「あの《Dアルター》とか言うSV。話には聞いていたけど、あんなのが量産されているなんて……」
数で勝っているはずなのにジャイロスフィア防衛隊の《アユチ》の軍団は《Dアルター》一体に苦戦する様子を映し出す。足止めに多少は成功していたが撃破までは至らずジリジリと進軍を許している。
苦虫を噛むアンヌはポケットに入っていた物を取り出し見つめた。赤い宝石が持ち手に埋め込まれた黄金色のキーだ。
「最悪の自体になったなら私も《錦》で……」
「支社長、アレを見てください!?」
驚く秘書が端の監視モニターを指さす。戦場の真ん中で奇妙な装備を背負ったSVが両腕を広げて飛行していた。
「……あの、馬鹿ナルシストっ!! 何するつもりなのよ?!」
◇◆◇◆◇
五分前。
「へくちっ! ……ふふふ、やれやれ誰かが噂とは人気者は辛いな。装備の換装を急いでくれ!」
格納庫でイザは上機嫌に鼻を啜る。
目の前では《尾張Ⅹ式》が背中に大きなコンテナを装着中。二つのブレードアンテナがウイングの様に左右に伸びている。
装着が完了するとイザは直ぐさま搭乗して機体を起動させ、カタパルトデッキに移動した。
「さぁて、それじゃあ張りきって出撃しますか。イザ・エヒト、尾張Ⅹ式“パペッティア”……行きます!」
合図と共に《尾張Ⅹ式》は勢いよく射出され戦場となった宇宙へ飛び込んだ。
前方に《アユチ》四機が《Dアルター》を相手に格闘しているのをイザは無視して通り過ぎる。
敵SVの数、十二機に対して味方の残存数はイザも合わせて三十一機。
何機か撃墜されているが、未だに倍以上も残っているにも関わらず戦況をひっくり返せないのは《Dアルター》が戦力差すら上回る性能を持っている怪物だからだ。
イザは自分を侮辱し蔑んだTTインダストリアルの人間らのことは嫌いではあるが、だからと言って見捨てるほど性格の悪い人間じゃない。
助けるつもりであるが、しかし正攻法で《Dアルター》と直接対決などをやるわけではない。
そのために今回用意した“パペッティア装備”なのである。
「あの《Dアルター》がパイロットの脳波により操作をする思考制御型コントロールシステムなら、こいつは効くはずなんだ」
腕を広げる《尾張Ⅹ式》は背中の大型コンテナのハッチを全て開放する。その中にはミサイルの弾頭のような物が敷き詰められていた。
「負荷がしんどいですけど、まぁやってみるさ」
照準を周囲の《Dアルター》に合わせてロックオン。イザは操縦桿のトリガーを引くと《尾張Ⅹ式》を中心にコンテナの誘導ミサイルが広範囲にばらまかれる。
飛行途中で打ち落とされなかったその半数が《Dアルター》に着弾したが爆発はせず装甲に張り付き、花が咲くように鋼鉄の傘が開いた。
「アンテナビット。八基中、当たったのがたった四基だけか。ではアイ・ハブ・コントロール……ぐぅぅぅッ!」
それはミサイルなどではなく機体の操縦システムを乗っ取ることが出来るアンテナだ。四機分のSVから送り込まれる多大な情報が、イザの身体に重くのし掛かり激しい痛みが走る。
「脳への負担を背中の電子頭脳がカバーしてくれているとはいえ、流石は統連軍のスーパーロボット……だがこれで、君達は僕のマリオネットさ」
常人には一機を操るだけでも特殊な訓練が必要であるのに二機以上など脳が確実にパンクしてしまう。
実用化されている複数を同時に脳波コントロールで操作する兵器は小型サイズで単純な飛行と射撃だけで半分はコンピュータによるアシストもあってだ。
それを人型であるSVを、それも四機──成功していれば八機──を操るなど人間技ではない。
「ポンコツのアイデアも満更じゃないな」
装備の発想の根元は織田竜華のお付き、ウサミ・ココロの記憶データからだ。
かつてココロが人間であった頃に、遠隔操作型の小型マシンを操るSVに乗っていたことからヒントを得たのが“パペッティア装備”だ。
「アレにやれて僕に出来ないことはなどない」
動作は若干のズレがあるものの《Dアルター》とのリンクは問題はない。
問題は視覚からの情報で、イザの目には映る世界は重なって見える。テレビのチャンネルを切り替えるイメージで優先して動かす機体を発進させる。
「よし、慣れた。さぁてらこれで楽しい人形劇の開幕だ!」
一機ずつ、二機ずつ、三機ずつ、そして同時に四機ずつ。
敵の《Dアルター》に向かってイザの《Dアルター》は攻撃を始める。
鮮やかに、華麗に、的確に、大胆に、宇宙を舞う《Dアルター》をイザは自分の手足の如く自由に操り敵を撃墜して見せた。
途中、ダメージの蓄積が酷くなれば機体を敵戦艦にぶつけて轟沈させたり、隙の出来た別の《Dアルター》を奪い補充した。
「はぁ愉快、痛快、爽快だね」
『イザ!』
コクピットの映像スクリーン画面一杯に通信してきたアンヌの怒り顔が大きく映り込む。
『イザ・エヒト、貴方どうしているの!? クビにしたはずなのに、いつの間にそんな装備を?!』
「こんなこともあろうかと、と言う奴ですよ。それよりもどうですか? こんな逸材をクビにしても良いのですか? 僕を失うと言うのは人類規模の大損失ですよ?」
『……処分は貴方が帰ってきてからです。覚悟しておきなさい!』
一方的に割り込まれ、また一方的に通信は切られてしまった。
「つまり絶対に死なないでね、そうヒロインらしい台詞と受け取ることにしましょうか……?」
そうこうしている内に、戦況はいつしか逆転。イザ一人による一転攻勢で勢いがついてジャイロスフィア防衛隊も敵部隊へ一気に攻め入る。
これで戦いは終結するかに思えた。
が、しかし、それも長くは続かなかった。
「何だ、軽くって……しまったな」
イザの身体にかかっていた負荷が突然、消える。同時に操っていた《Dアルター》の操作がイザの元から切り離されて自由になっていた。
どうやら手動でマニュアル操縦に切り替えられたらしい。
「あのDアルター……敵の指揮官機か?」
敵艦隊の奥から赤いカラーのSVが発進する。猛烈な加速で真っ直ぐイザの《尾張Ⅹ式》の元まで飛翔するその赤い《Dアルター》には他の《Dアルター》には無い二本の角が生えていた。
両手が発光、プラズマレーザーを発射しようとする赤い《Dアルター》を前にイザはまだ《尾張Ⅹ式》と繋がっている《Dアルター》を盾にするため電磁フィールドを発生させながら投げ飛ばした。
閃光と爆発。また負荷が軽くなっていたが、敵の勢いは止まることを知らなかった。
「味方を攻撃しますか!?」
イザが盾にした《Dアルター》は一瞬にして蒸発。爆煙を吹き飛ばし、赤い《Dアルター》はなおも迫る。
『そこの旧式! 覚悟は出来ているんだろうな?!』
パイロット、女の声だ。
『この《Dアルター・エース》は、そこらの量産型な《Dアルター》とは馬力が違うんだ! 簡単に操られるものか!』
腰に下げた鞘から抜刀する。白銀に煌めく大振りの刃が《尾張Ⅹ式》に牙を剥く。
後退して右肩のサブアームからシールドを展開し防御する《尾張Ⅹ式》だったが《Dアルター・エース》の対艦刀マサムネブレードは《尾張Ⅹ式》のシールドごと右腕を両断した。
「お嬢さん、もしかしてお侍さんなんです? 2100年に何と時代遅れな……」
『ホムラ・ミナミノ少尉だっ! 冥土の土産に、この名を覚えるがいい!』
巨腕から振り下ろされる《Dアルター・エース》の大太刀が閃く。
「そんな簡単に死ぬ気はないですよ」
今度は防ぐのではなく即座に避ける《尾張Ⅹ式》は残ったアンテナビットを全て射出して《Dアルター・エース》を狙った。
『小細工が通用するとでも思ったか!』
出力を全開で発生させる《Dアルター・エース》の電磁フィールドが広がると、触れたアンテナビットが小爆発を起こして機能停止する。
戦う武装は元より未搭載、そもそもスペック差で直接戦ったとしても敵う相手ではなく、為す術をなくした《尾張Ⅹ式》にイザは奇跡が起きぬかと天を仰いだ。
『これで終わりだ!』
ジリジリ後ろに下がると背後に衝撃。巨大隕石に退路を絶た追い詰められるイザ。
祈りが届いたのか突如、漆黒の宇宙空間に大きな亀裂が入ってガラスのようにひび割れた。
「あぁ……機神、帰ってこられたのですね」
異次元空間から白き豪腕が伸びる。
それを見たイザの記憶の扉が一つ開いた気がした。
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