4-8


金の鷹マークはカナンに連れられて騎士団の支部に到着した時にも見ている。

ファリーに傷付けられた人々に治癒団(リント)と共に寄り添っていた人々も、スーを路地裏に連れ込んだ卑しい男も確か同じ物をつけていたはずだ。

王国騎士団(バテンカイトス)にも様々な立場の騎士がいるとは聞いていたし実際に見ても来た。警備と呼ばれた通り、この大男はこの診療所やセファら医師の護衛についているのだろう。


「君ねぇー。邪魔したら駄目じゃあないかあ。セファ先生はお忙しいんだよぅ?」


間延びした喋り方の騎士は肉厚な手で俺の肩をぐいと引っ張り、俺とセファとの距離を離す。

だが、それで怯むぐらいならばここには来ていない。

考え無しの俺は意地を張ってその手をどけ、背を向けたセファを強気に追い掛ける。


「セファ先生! 事情を説明させてください!」


「しつこい奴だ。話がしたいのなら相応に段取りをしなさい」


だが、やはりセファは俺の話を聞こうとしない。それどころか、機械都市という単語を口にしてからというもの、どこか焦っているようにすら感じられる。

もう一息だ。無理を押し通すのはジンガ達にだってやってのけたんだ。脳みそを掻き回され、苦痛の連続だった嘘発見器にも耐えた強靭な俺の鼻や精神を見くびるなよ。


「い、っで……っ!」


「あのねお兄さん、聞き分けて貰わないと。先生が困ってんだぁ」


鼻っ柱と精神力に自信はあっても物理では俺(マグ)はてんで駄目だった。

とてもではないが、巨体に覆い被さられ潰される前にギブアップせざるを得ない。先ほどよりも強い力で肩を掴まれ、骨が軋む感覚に俺も押し黙ってしまった。

もう少しで手が届いたはずの大きな手掛かりが目の前から去ってしまう。真実へ向かう道のりと俺の体が暴力に引き裂かれそうになった時、


「お静かに。ここは病院ですよ。ガルラさん、もう結構です。セファ先生、すみません。こちらの方は私がお呼びしたんです」


「何だと? 確かか、テーオバルト」


「ええ、受付で待っているように伝えたのですが私がお待たせし過ぎてしまったのです。失礼致しました。セファ先生は回診がございますでしょう」


黒縁眼鏡に白い蝙蝠羽根。顔の横にはスーと同じ角。

助け舟として登場した白衣の竜人、テーオバルト・H・リントヴルムが俺に話を合わせるよう合図をくれ、危うく大男に捻られて迎える最悪のエンディングは回避できた。


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