4-7


(いた……!)


三人いるうち連れの若い二人に指示を促している年配者がセファで間違いなさそうだ。

道すがら聞いていた通り、頭のてっぺんで右側を白、左側を水色と真っ二つにわけた奇抜な髪色で、天使のような真っ白な翼が背中に生えている壮年男性だ。特徴が一致する。


「あの! セファ先生」


連れの二人が離れて一人になった瞬間。すかさず彼を呼び止める。


「……どちら様だろうか。私は君と何か約束をしていたかね?」


セファは全く似合わない、女性が掛けるような可愛らしいピンク色縁のメガネの奥の物厳しい目で俺を見た。



「セファ先生。貴方にお話ししたいことと頼みたいことがあるんです」


「……取材ならば受付を通してくれ給(たま)え」


提げ看板は通過出来たが、セファの二言目はまるで門前払いな言い様だった。

先程入れ違いに去った気さくそうな医師、コランバインも同じように俺のことを部外者扱いしていたが治癒団(リント)にはそれだけしょっちゅう取材が来るということなのだろうか。

常人には習得できない治癒(リペア)魔法を扱う者が複数人所属し、この世界での病院の役割と病理研究の大半を請け負っている大きな組織ともなれば需要はあきらか……と、考えてもいい。

港街の診療所が今のように押しくらまんじゅうになっているのもわかるし、見ず知らずの俺がポンとやってきたところで当然の扱いをされているのだろう。


「私は今から回診なのでな」


言い放ってセファが去ろうとする。


「俺別にインタビュアーとかじゃないんです。機械都市へ行くためにお聞きしたいことがあって……」


ポップなヘアカラーと天使のような外見(みてくれ)×(かける)辛辣な眼差しがちぐはぐな彼の、毅然とした佇まいにも引き下がるわけにはいかない。

患者でも記者でもない俺の図々しい申し出を、不愉快だと言わんばかりに怪しんでセファが眉間に皺を寄せた。


「機械都市だと? 君に構っている時間はない。すまないが患者を待たせている」


俺を見るセファの目は予想していたよりも遥かに冷たく、最初からこの人が相手にしてくれないことを俺は悟っていた。

それだけの威圧があり、医院の代表責任者たる威風もある。

患者のことしか頭にない。と、はっきり言い、態度にも表す。

真面目で厳格で融通のきかない、竹を割る以前にがちがちに硬くて割れない竹そのもののような性格なのだろう。


診る事と看る事がこの人の本質で行動原理で全てなのだろう。

取りつく島もないとは今の俺を表現するための言葉だった。

けれども俺は機械都市へ向かう為の手がかりを、この人物が持つ切符を諦めてのこのこ帰るわけにはいかないのだ。


「行き方を教えて欲しいんです。機械都市へ行くには往来できる人の推薦がいるとうかがいました」


「だとしても初対面の君を私が推薦する理由はない。帰りなさい」


「でも」


「……警備! 彼を送り出して差し上げろ」


セファの苛立った語気を聞き付け、金髪ロン毛の大柄な男が俺の前に現れた。

鎧に金色の鷹のメダルが嵌められている。おそらくジンガ達と同じ王国騎士団の別の部隊の人間なのだろう。

思い返してみれば診療所の看板脇にも同じ鷹の部隊証をつけた人物が何人か立っていた。

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