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「あ、あの……」

「は、はは、はいいぃっ!! な、何でしょうか?!」


 一々吃らなくては喋られないのだろうか。

 大柄女性は大きな体をきゅっと縮ませて涙を拭いながら俺を見た。


 体を小さく縮ませるという例えは彼女には無理かもしれない。ひたすら縦に身長が高く、胸は脂肪にしては厳つすぎる。上手く内股がつくれていない脚はガタガタと震えていて。腰は引き締まっているが、突きだした臀部からは鞭のようにしなる細くて毛の生えた茶色い尾が揺れている。

 何に怯えているのか知れない下がり眉。黒いコートの上に黄色のストールを巻き、首に家畜用の大きな平たいベルがついていた。


「あっあっ、お連れのお嬢さんですね?! だ、大丈夫です。この子は全然何ともないですよぅ……」


 獣人として最初に出会ったシグマとはまた違い顔は人間のものだが、大きさと鈍臭い雰囲気を持つ動物の獣人だ。

 俺が何もいわなくても、彼女は騎士からスーを取り返していてくれたらしい。


「あ、ありがとう。貴女は……」

「は、はい……! 私、フィーブル・アーディバロンと申します。その、これでも、この街を守る騎士なんですぅ……」


 名乗ったフィーブルは下がり眉をそのまま、スーを俺の体に預けながら優しく笑い小さな会釈をした。


「助かりました。フィーブルさん」


 予期せぬ突然の登場ではあったが、彼女、フィーブルによって難を逃れたことに変わりはない。

 落ち着かない様子で視線を空に逃がしている彼女に、俺は改めて礼を言う。


「い、いえいえ……。私、騎士として当然のことをしただけですからぁ……」


 謙虚にしながら、口をくしゃくしゃにして照れると耳が嬉しそうに動いた。

 自分の尻尾の毛を触りながら、えへへ。と笑っているのを見ると、先ほど男を殴り倒した人物とは思えなくなってきそうだ。

 草食の大型動物は体こそ大きく逞しいが、危険が無い限りはのんびりとしているように、彼女もまた普段は穏やかな人なのだろうと思う。フィーブルは牛や羊を思わせる種族で間違いなさそうだ。


「ところで、その今倒れてる人も騎士だって言ってたんですけど……」

「えっ! えぇ~~?! そうだったんですかぁ~?!」


 スーをさらった自称騎士を指差すと、再びフィーブルが慌て出す。


「はわわゎ、本当だ……! うわぁー、どうしよう……うぅ……!」


 本当に気付いていなかったのだろう。彼女は自ら鉄槌を下した男の前に膝を付く。膝をついてもまだ大きい。

 そんな彼女の広い背中にまた、


「おい、クソ牛」


 見知らぬ人物の片足が乗せられた。

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