1-13
まぁまぁ。と二人を止めていると、店の奥から店主が現れた。
「お戻りですか、教諭」
「はい。お待たせしてすみません」
相変わらず毛づやの良い犬耳をピンと立てて落ち着いた声で話すシグマに、俺はビアフランカから預かった財布を彼に見せる。
「なんだかスーのこと、逆に面倒をみて頂いてしまったみたいで」
「いえいえ。私の見立てが当たったようで、こちらこそ良かったです」
しかし、シグマは俺から金を受け取らず、自身の後ろポケットからハンカチを取り出して中にくるまっていた物を俺に見せた。
そこには彼の大きな手の平に乗り切らないほど大量に、ハンカチが無ければこぼれ落ちてしまいそうな小さな色とりどりの宝石があった。
見立てが、とは服のことを言っているのかと思ったが、なるほど。
スーはこれほどの大口の客をこの短時間で獲得したというのか。
「それ、二万と……」
「それ以上ですよ。時価もありますが四万は越えてます。よろしければ、もう少し何かお飲みになって行きませんか?」
「い、いえ……結構です。お店の為に使ってください」
まさか法外なことをさせたのではあるまいな。別れる前に獣の目で笑ったような気がしたのはこれを見込んでだったのか。
スーのほうを見ると、こちらのやり取りに気付いたらしく顔を赤くした。
どうやら後でしっかり取り調べをする必要がありそうだ。
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