Killer classA

@strider

act.1 油断

 敵の銃弾が正面の壁に当たって、コンクリートがはじけた。


 俺は金属製のテーブルの影に隠れながら、呼吸を整える。

 銃声は途切れることなく続き、ときどき甲高い金属音とともに背中に衝撃が伝わってきた。


 こんなことなら、銃も持ってくるんだったかな。

 スローイングナイフを握りながら、俺は舌打ちをする。

 磨き上げた切っ先は、美しく輝いている。指先でなぞると、薄皮がそぎ落とされた。


 ダン、ダン、ダンッ。タタッ。

 銃声に混じって足音がする。


 近づいてきたな。もう少しだ。

 俺は息を殺して耐える。あいつがナイフが届く距離まで来れば、こっちのものだ。

 ダン、ダン。トトトッ。

 来たっ。そろそろ俺が死んだとでも思って油断したらしい。

 テーブルの影から顔を出し、相手の位置を確認し、ナイフを投げる。

 シュッ。風を切る音がした次の瞬間には、ナイフが男の右足首を切り取った。

 走っていた男はつんのめって倒れ、したたかに頭を打ち、それから馬鹿でかい悲鳴を上げた。


「ナイフが相手だから油断したね?」

 俺はテーブルの影から這い出して、男の手前に立ち、地面でのた打ち回る男の腹を蹴飛ばした。うぐぅ、と男は声を詰まらせ、呼吸が戻るとまた悲鳴を上げる。

「貴様、よくも……」

 男が俺に銃を向けた。

「おっ、意外と根性あるね。でも、ゼロ距離なら、お前なんか敵じゃないって」

 男の腕にナイフを落とし、手首ごと銃を取り上げる。

 男はよだれを垂らし、甲高い悲鳴を上げる。


「あー、もう、うるさいな」

 男の首を蹴る。

 喉が潰れて男の声が出なくなる。

「楽にして欲しかったら、自走式防犯シェルターパニック・カーの制御キーを言いな」

 男は口をパクパクさせた。


「大丈夫だよ。俺は唇を読めるから。ん……、サンクチュアリ、合ってる? 気取った名前だね。に“”だなんてさ」

 殺してくれ、と男が言う。


「はいはい、約束だもんね」


 俺は男の首筋を切り裂いて、トドメを刺してやった。

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