男子校に入ったら彼女も彼女らも皆彼でした
白木九柊
第一節 幼馴染は女性に限らず
試験に合格して、晴れて高校生!
桜が舞い、新学期、新生活の始まり!
なんて、嬉しくてわくわくした気持ちには全然なれなかった。
「はぁ……」
なぜだって?
そりゃそうだろう。
いろいろ受けてみたが、合格したのは一つだけ。
しかも、最も合格したくない、男子校だ!
もういやだよ……これから毎日男性ホルモンの漂う空気の中で生きていくなんて。
ごめんなさい、お母さん、俺、三年を経ってホモになっちゃったりしたら、許してください。
マッチョマンに襲われたりしたらどうしよう。ああ、どうしたら……。
「大丈夫ですよ。
元気付けのつもりか。
ため息をつく俺に、隣にいる女子は明るい声を掛けてきた。
「そりゃそうだろうけど、ほら、気分的に? こう、女性ホルモンがほしいじゃないか。届けなくてもせめて視界にあらんことを……ああ、自分が何言ってるかわからなくなったよ。くそっ、なぜ男子校なんだよぉぉぉ」
「翔は女子と縁がないですからね」
「わかってるけどそうはっきり言われるのはやめてくんない? 傷つくから」
そう。
俺、
今年十六歳。
他人と何か違うところがあったら、それはきっと、モテない程度だろう。
小さいころから、女性は苦手だ。
いや、女性は俺が苦手と言うべきか。
仲良くしようとしても、すぐ嫌われる。
キモいなんてもううんざりするほど言われていた。
パンツが見えるよって注意したら変態扱いされるし、夏でブラが透けて見えるよって言ったら変態扱いされる。隣の女の子が消しゴムを落として拾ってやったら変態扱いされれば、走って転がってちょうど女子の隣に倒れたらやはり変態扱いされる。
もうお前ら女子の目に雄全員が変態じゃねぇかと思うぐらい変態扱いされてきた。
そのせいで、一時期は、「あれ? もしかして俺って、本当の名前は変態かキモいなんじゃね?」ってさえ思った。
あのときよく鏡の前に、変態くん、キモイくん、なんか変わったなぁってぶつぶつ言ってたぞ。
最後はお母さんに聞いて、誤解は解いたけど。
とにかくだ。
俺は女子にモテない。
それどころか、敬遠されている。
せっかく青春の代名詞である高校に入り、今度こそと思ったのに。
なんと、男子校に入ってしまった。
神の悪戯ってやつか?
一応難関校だから、親は嬉しそうにしているけどさ。
ないだろう。こんなの。
「うんー、でも、悪いことばかりじゃないと思うよ」
そこで、隣にいる女子が指を唇に当てて呟いた。
黒い長髪に黒い瞳。
整った顔立ちに、細い体つき。
美人で、俺を変態扱いしない、唯一の女の子。
大事な友人だ。
今も、俺を慰めようと、
「だってほら、男子校に入れば、モテないってバレないじゃないですか」
――そっちだったかい!
やめて! もう傷口に塩を塗るのやめて!
なんで学校初日でこんな辛い思いをしなきゃならないのか……。
うん?
待てよ。そういや、伊織は俺と同い年だよね。
つまり彼女も、今日は新学校に行く。
制服着てるし。
でも、それじゃ俺について来ていいのか?
初日遅刻させたら申し訳ないのだが。
「あの、伊織」
「はい、なんでしょうか」
「お前も今日から学校だよね」
「はい、翔と同じですよ」
ふむふむ。
気付いてよかった。
たぶんあれだな。
幼稚園時代から、小学、中学までは一緒に登校する習慣なので、今日も一緒に行こうと思ってるんだろう。
いけないね、今日から俺は男子校に入って、人生の暗黒時代が始まるけど、伊織はどこの高校で人生の
幼馴染だからこそ、それを邪魔してはいかないのだ。
初日遅刻なんてさせてはいかん。
「伊織、早く学校に行かないと遅刻するぞ」
「大丈夫ですよ。方向は一緒ですから」
「あ。あー……。そっか」
方向が一緒か。
ならいっか。
この方向の先には男子校しかない気がするが。
うんー。
そういや、伊織の制服。
なーんか見覚えがあるような……
「あの、伊織」
「はい、なんでしょうか」
「いや、特にないけどさ、お前の制服、俺のと似てね?」
「はい、これも一種のご縁ですよね。嬉しいです」
「いやいやいや、そうじゃない気がするけど」
でも、そっか。
制服が一緒か。
さすが幼馴染ってとこか。
よくよく見ると、校章も同じなんだが。
伊織はスカートを履いてるから、大丈夫と思いたいが。
それより、周囲を見ろ!
この男の人込み!
俺はこの中で三年過ごさなければならないとは。
今からでも体を鍛えて、マッチョマンに襲われても逃げられるように頑張ろっか。
給食のおばはんさえ可愛く見えちゃったりしたらどうすればいいか……。
あれ、そういや、もう校門に着いたぞ。
「あの、伊織」
「はい、なんでしょうか」
「もう校門に着いたぞ」
「そうですね。……肛門に突きました、ね」
「か、顔を赤くしながら言うな! 俺が変なことを言ったように見えるじゃねぇか!」
「ご、ごめんなさい……」
「あー、いや、そんなにしょんぼりしなくても……こちらこそ、大声出して、ごめん」
「いいえ、大丈夫です。翔もこれから始まる新生活に不安を感じているでしょうから」
そう思ってくれたのか。
やっぱり優しいなぁ。伊織は。
あ、いやいや、それより。
「この先は学校だから。伊織も自分の学校に行っていいよ。俺は頑張って生きて帰ってくるから」
「別れみたいなことを言わないでくださいよ」
「そう言ったって。この先、俺の学校だぞ?」
「大丈夫ですよ。方向は一緒ですから」
「いや……だから、一緒だと言っても、もう着いたぞ」
「……突いた。……やん♡」
「やん♡、じゃねぇよ! これから「やん♂」ちゃいそうだから、冗談に付き合う気分じゃねぇんだ。はぁ、それよりだ。早く学校行けよ」
「? もう学校に着きましたけど?」
言われて、伊織は小首を傾げてきた。
かわいい……いやそうじゃなくて!
「着きました?」
「はい、着きました」
あ、あれ?
今なんつった?
着きましたって?
「隣に……学校があるとか……」
「いいえ、こちらの学校です」
こちらの学校ですって!?
いや……だって、ここ、俺の学校だぞ?
男子校だぞ?
もしかして、俺はとんでもないことを見逃したじゃないだろうk……いやいやいやないないない。
もー、そんなわけないじゃないですかー。
俺ってば、すぐ変なことを考えちゃうよねー。
ほら、ちゃんと確認すれば、
「は、ははは~、やだなぁー、それじゃ伊織もこの学校に入ったように聞こえちゃうじゃないですかー。冗談きついぜ」
「冗談じゃありません。難関校とはいえ、翔と一緒にいるように頑張ってきましたから」
ちゃんと確認……すれば……わか……る。
――わかってしまったァァー!
この子、今、とんでもないこと言ってない?
頬を膨らませてかわいい顔をして、何かとんでもないこと言ってない?
いいいや、そそそんなまさか。
きっと男子校にしか合格していないショックから回復しきれないから、聞き間違えただろう。
ほら、ちゃんと確認すれば、
「やだな。それじゃ伊織は男に聞こえちゃうじゃないですか。冗談きついぜ」
「男ですよ? 一応」
………。
うんー。
………。
うん。
そっか、男か。
俺の中から、何かが砕け散った音がしますけど。
それ、心じゃね?
いやー。
友達歴十数年、唯一の女子友達にして大事な幼馴染だった伊織が。
なんということでしょう。
「あれ? もしかして、ずっと知りませんでしたか? 私は男ってこと」
――上の二つがなく、下の一本を持っている男に。
最悪のビフォーアンドアフター。
もう、俺は何も信じない。
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