第7話 緑子 買い物に行く 

「緑子さん明日休暇の申請したんだって?」


 トレーニングルームでひたすら鍛錬に打ち込んで一週間、敵の襲撃も小規模なものであり出動要請もない為、ずっと篭っている毎日であった。


「ちょっと欲しいものがあってね」


「ふーん、何買いに行くんだ?」


「新しい服が欲しいのよねー!普段は特務課で支給してもらったスーツや制服でいいんだけど、テストの時に来てたジャージなんかがみんなダメになっちゃったから」


その言葉で爆覇ばくはは思い出したように


「あー なんか血と泥まみれでボロボロになってたよな、何やったらあんなになるんだ?」


「ば、爆覇ばくは君を追いかけて路地裏にいって敵の死体の上で転んだのよ……」


と、苦しい言い訳をする緑子。


「緑子さん意外とドジっこなんだな!」


と、爽やかに笑う爆覇ばくは、それを見て単純で助かった……と胸をなでおろす緑子であった。


「緑子さん一人で行くのか?」


「ううん、丁度特務課で働いてる同僚の子がお休み取ってたから一緒にいく約束してるのよ」


「そうなのかぁ、じゃあお土産期待してるからな!」


とちゃっかり緑子に催促してきた。


「そういえば爆覇ばくは君は休みなんてあるの?」


「俺は契約で、いつでも出動できるようにさえしてれば後は普段なにしてても自由ってことにはなってるんだ。 だけど遠出とか旅行には行けないし、ほとんど毎日ここに缶詰めみたいなもんだけど平和の為だから仕方ないさ」


と肩をすくめて見せる。


「そんな自由のない生活してて辛くない……?」


「スーツの性能も日々あがってるし、適正のあるやつが補充で入ってくれたらもう少し自由もきくようになるからそれまでのガマンさ」


「ねぇ、前から聞いてみたかったんだけど、爆覇ばくは君はなんで特務対策課と契約しようと思ったの?」


とちょっと不思議そうに緑子は尋ねた、考えてみればこんな真っ黒な契約条件で働くのは相当な覚悟が必要なのではないかと。


「あぁ……それなんだけど、俺の弟が難病にかかっててさ……その治療のための施設とか費用を対策課で肩代わりしてもらってるんだ。 あ、心配すんなよ? 弟もうすぐ退院できそうなんだ!」


と、とても嬉しそうに話してくれる爆覇ばくはに緑子は


「そうだったの……弟さん元気になって良かったわね」


とホロリときそうなのをガマンしながら、涙声で爆覇ばくはに答えた。


「ああ、これからは心置きなく平和のために襲来者と戦えるぜ!」


と燃えているようだ。


 彼はやはり心から人々を守るために戦っているのだろう、そんな爆覇ばくはを少し眩しく感じる緑子であった。



◆◇◆


 日付は変わり緑子は休暇を楽しんでいた。

友人の白鳥美海しらとりみみと連れ立ってウィンドシティで一番大きなショッピングモールを、あれやこれやと話しながらブラブラと歩いている。


「あと、何か見るものはある?」


と、美海が緑子に尋ねれば、両手いっぱいの紙袋をもった緑子は


「うーん……あとは同僚にお土産をリクエストされたから何か買っていこうかなって」


それを聞いた美海は


「お土産かぁ、別に遠出したわけでもないのに変なのー」


とクスクスと笑う、確かにそこだけを聞けば可笑しく思うのも無理はないがいくら特務課所属とはいえ、一般オペレーターの美海にトップシークレットの爆覇ばくはについて詳しく教えるわけにもいかず


「最近、休日返上で頑張ってるらしいのよー」


とぼかして答えた。


「あぁ、それなら分かるわー。 開発部門なんかも今連日泊まり込みで、すんごい怖い空気で近寄りにくいって他の子も言ってたし」


と美海は納得したように頷く。


「そう言えば緑子の配属されたとこってどこなのー?」


と、思い出したように聞いてくる美海。


「え? あ、ああ! 社長直属の私設警護部隊の補佐よ!」


と前もって教えてもらっていた肩書を思い出して教える緑子。


「なんか難しい部署名だねー?」


「社長のボディーガードの人の助手みたいな感じかしら?」


「へーなんか凄そうなとこに配属されたんだねー」


美海はイマイチよくイメージができないようだ。


「同僚ってどんな人なのー?」


「ああ、私より年は下だわね。 19歳って言ってたかしら?」


「えー若いねー」


「美海だって変わらないじゃない」


と、緑子はちょっと可笑しくなった。


「私はもう二十歳になりましたよーだ!」


と、プクっと頬を膨らませるしぐさが大変あざと可愛らしい。


「はいはい。 で、おねーさんはそろそろお昼ご飯が食べたくなりませんか?」


と緑子はおどけて見せると、それに美海は応えて


「今日のおねーさんはカレーが食べたいのです!」


と小柄な体で目いっぱいささやかな胸を張る。


「じゃあお店を探しますか!」


 と緑子はスマホを取り出そうとしたが


「せっかくの休みなんだしゆっくり歩いてお店さがそー?」


と美海がストップをかける。


「じゃあ良さそうなお店を探しに行きましょ!」


と歩き出そうとした時、ガシャーーーーーン!と大きな音と共に外側のガラス窓が粉々に砕け散り、ショッピングモールの中へととても大きな生き物が入ってくるのが見えた。


「ええー! ここ5階なのにどうやってはいってきたのー!」


と微妙にノンキな事を言いながらビックリしている美海。


「あれは……! 美海!襲来者よ、通報と非難誘導お願い!」


と生き物へむかって走り出そうとする緑子。


「緑子!!危ないからそっちいかないでー!」


と涙目で叫ぶ美海、だが緑子は


「私たちは特務課の者なのよ! 人々を守るのが仕事でしょ!私は私にできることをするから美海も頼むわよ!」


と美海を振り返る事もなく駆けて行った。





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