第3話 緑子 ヒーローと戦いに出る
今にも振り出しそうな空の下で、今日も懲りずに汎用戦闘人形が人々を襲っている。
「いやーーーっ」
「だ、誰かぁぁぁ」
「おかあさーーーん どこー?」
襲われた人々の叫び声がこだまする広場へ急行した
「オネーサンは避難誘導を、おれは人形を倒す!」
まだ少しガラガラしてる声で、
「分かりました、皆さんコチラへ!」
と、赤いジャージの緑子は戦闘が行われている方の逆側へと非難を促していく、特務課の戦闘班が威嚇のために遠距離から銃を撃っているので、さすがにこちらまでは人形共は来ないようだ。
「りゅう君! りゅう君どこなのーー」
「どうしました?」
誘導されてきた女性へと緑子は尋ねる。
「息子がっ! 息子が見えなくなってしまって……あぁ……りゅう君どこなの……」
泣き崩れる女性へ緑子が問いかける。
「りゅう君……息子さんはどんな背格好をされてますか?」
「今日は……黄色いシャツに紺色の半ズボンをはいてました、身長は私の腰位の子供です」
「分かりました! 私が探してきますから絶対一人で行動しないでくださいね!」
そう言い残してあらかた避難がおわった広場の方へ駆け出していくと、戦闘中の
「オネーサンなんで戻ってきたんだよ! 邪魔になる前にむこうで待機しててくれよ!」
そういいながら人形を殴りつける。
「子供が一名行方不明なのよ! アンタみかけなかった?」
そう言いながら襲い掛かってきた人形の振り降ろした警棒を首を傾けただけで避け、同時に膝蹴りを叩き込み人形を沈める緑子。
「あ……あぁ、こっちでは見てないな」
緑子の戦闘能力に引き気味の
「そう、なら私あっち見てくるわね」
何でもないように、襲い来る人形を次々と沈めながらスタスタと去っていく緑子に
「すげぇ……」
と、尊敬のまなざしをむける
しばらく辺りを探していると広場を離れ人気のない方へと小さい人影を抱えた、人型のようではあったが異形のものが走っていくのが見えた。
「待ちなさい!」
追いかけていくと路地裏で、異形の者は待ち構えていた。
「ノコノコと良く一人で追いかけてきたものよ……良いのか? メタルバンとやらを呼ばんでも?」
「お前……何者なの?」
「私は襲来者『魅惑将軍エロイーナ』様が配下のザコーイ! エロイーナ様への献上品にお前も加えてやろう!」
と雑魚……ではなくザコーイが緑子に襲い掛かってきた。
ザコーイは、形こそ人型ではあるが体は粘性の泥のようなものに覆われており、見るからに打撃は効きにくそうである、少し離れて座り込んで震えている少年は話に聞いていた服の色からしてりゅう君であろう。
緑子はラリアットのように粘性の腕を振り回すザコーイから、バックステップで距離をとり考える。
「助けを呼ぶにも距離が離れすぎたわ……あまり長引かせても人質にされている、りゅう君に危険が及ぶ可能性が高い……ここは一気にやったほうがいいか……」
そう覚悟を決めると、首に下げていたペンダントへ口づけた。
ペンダントトップがみるみるうちに、顔をピッタリと覆い隠しまるで皮膚のように変わっていく、その色に合わせて緑子の皮膚の色も濃い緑色に変わっていき体格も大きく逞しくなってゆく。
その姿を見てギョッとしたように驚き後ずさるザコーイ。
「お……お前その姿は……何なのだ!」
「もうすぐ死ぬお前に話すことなんて何もないわ……さぁ…蹂躙される覚悟はいいかしら?」
低く野太い声でザコーイを挑発しながらニヤリと1歩づつザコーイへと近づいていく緑子。
「貴様……舐めるなぁぁぁ」
相手の気迫に飲まれまいとザコーイは叫びながら再びラリアットを緑子に向けてはなってきた、だが緑子は微動だにせずその腕を片手で掴みボキボキと音を立てて骨を砕く。
「うぎゃあああああああ」
凄まじい痛みに悲鳴を上げるザコーイに続けて緑子は
「げぇぇぇ」
ひどい声といっしょに、描写するのをはばかられるものを吐き出しあたりを汚していく。
「うわ、きったない」
と、近づくのをためらい腹をおさえて、えずいているザコーイの頭部へ踵おとしを決める。
顔面から地面にめり込んだザコーイはピクピクと痙攣していたがやがて動かなくなった。
「やっぱり雑魚いのね……」
哀れな襲撃者を放置して緑子はりゅう君のもとへ歩いていく、りゅう君は緑子を見てビクリとしながら泣きそうになっている。
「あぁ……この姿じゃ怖いわよね……ごめんね、私さっきのおねぇちゃんよ、わかるかしら?」
緑子は近寄るのをやめてりゅう君へと声をかける
「緑のおねぇちゃん……さっきのおねぇちゃんと同じ服だ……」
「うん、おねえちゃんりゅう君のこと助けに来たの、何かひどいことされなかった?」
「……だいじょうぶ、でもお母さんがいなくなっちゃった……」
「お母さんならむこうで避難してるわ、おねえちゃんはりゅう君のこと助けてほしいってお母さんに頼まれてきたの」
「ほんと?」
「うん、でもおねえちゃん戦うときこの怖い姿になっちゃうから近寄ったらイヤだよね……ごめんね」
しょんぼりと俯く緑子にりゅう君は
「ちょっと怖い……けど、助けてくれてありがとうおねえちゃん」
と涙をためながらお礼をいう。
「りゅう君……もうすぐほかの人が助けに来てくれるからそれまでこれ以上近寄らないから一緒にいさせてくれる?」
「うん!僕ここで待ってればいいの?」
「ええ、あとね……1つお願いがあるの」
「お願い?」
「おねえちゃんが緑色になる事、二人だけの秘密にしてくれるかな?」
「おねえちゃんが緑のおねえちゃんになるの言っちゃダメ?」
「うん、お願い!」
「わかった! 僕ちゃんと約束守るよ!」
ニッコリ笑顔になるりゅう君に癒される緑子、そんな中
「また現れやがったのか雌オーク!」
と
「アンタ……いい加減その呼び名やめてもらえないかしら」
「うるせぇ! 今度はいたいけな少年に何をしようとしてたんだよ!」
「何をって……あんた最っ低ね……」
「ねぇ、そんなことよりこの少年を早く親御さんのところへ送ってあげなさいよ」
それを聞いたりゅう君が
「お兄ちゃん、お母さんどこにいるの?」
と空気を読んで加勢に入る。
「あぁ、今つれていってやるからな。……おい雌オーク、今日の所は少年に免じて見逃してやるが次はないと思えよ!」
と
「それはこっちのセリフだっていうのよ……」
と言いながらアスファルトにひびが入る勢いで蹴りつけ路地裏から消えて行った。
◆◇◆
「りゅう君……良かった……みなさんありがとうございます」
泣きながらりゅう君を抱きしめて母親がお礼を言っているところへ戻ってきた緑子。
「オネーサンどこいってたんだよ」
と問いかけてくる
「他にさらわれた人がいないか確認してたんですよー! ホホホ」
と答える。
「そうだったのか、まぁオネーサンなら心配なかったな……なぁオネ……緑子さん」
急に名前を呼ばれ緑子は驚いた
「な、なにかしら?」
「お、俺に戦い方を教えてください!」
とお辞儀しているではないか
「き、急にどうしたの?」
「俺もっと強くなりたいんだ……昨日会ったあの襲来者の王に手も足もでなかった……俺……このままじゃダメだって思ったんだ、だから緑子さんお願いします!俺に戦い方を教えてください!」
緑子は
「分かったわ……私でよければアドバイスくらいなら……」
「やったぁ! これからよろしく!」
おっしゃーと叫びながら、ウキウキと移動車両へを駆けていく
「アイツ、あれだけ敵視してる私に教えを乞うたって知ったらどんな顔するのかしらね?」
とポツリと呟くのだった。
◆◇◆
……戦闘の後処理が終わった路地裏で、一人佇む襲来者の王。
「私のメスォーク……また逃げられてしまった……必ず見つけて見せる……」
そう言い残して亀裂へと姿を消すのだった。
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