子龍現界記

ほがり 仰夜

子龍現界記

白の世界樹

「竹さん、世界樹の葉っぱを貰いました」

 リウセイは白くてそれはそれは大きい、天狗の大団扇ほどもある葉っぱを持ち帰りました。二枚持てば空も飛べます。子龍のリウセイならば一枚でもやすやすと空に舞い上がれます。八十竹は毎度のことながらひっくり返って強面から目玉をポロリと落とします。

「ええっ。誰から」

「旅人さんから」

「どの旅人だよ。この街は旅人が多いんだよ」

「もう行ってしまわれたよ……」

 リウセイの拾い物、貰い物はいつも奇天烈です。同じ道を歩いていたってこの世のものならぬ物を拾うので、八十竹は気を落ち着ける暇がありません。

「知らないひとから知らない物を貰ってはいけません! どんな呪詛がかかっているかわからないでしょう」

「うん、ほら、こうして三箇所に穴を開けるとお面になるのさ!」

「ああっ。本物であれば超貴重な世界樹の葉っぱに豪快な穴が」

「大丈夫だよ、呪詛は祓ったから」

「分かっているならよろしいのですけれども、やっぱり危ない物は受け取ってはいけないよ」

 八十竹が忠告を繰り返すと、リウセイがアレッと声を上げました。

「ほらいわんこっちゃない」

「世界が透明で粒々に見えるよ」

 世界樹のお面越しに覗いた世界は、原初の輝きに溢れていました。全てはみなまっさらで、砂粒のようにさらさらと流れ、形作られてはまた崩れ、ゆるやかな崩落の音はこだまする鳥の囀りとなります。

 世界樹は、世界を支える大きな木で、世界のおしまいを見守る役目を持ちます。円かなる時代から続く、淵源の眷族に含まれます。幻よりも遥かに遠く触れ難い時代の聖物が、無垢なる子龍の手によってお面にされています。

 リウセイが手を伸ばして八十竹にも見せてやると、しみじみと見入って大人しくなりました。

「おや懐かしい宇宙が広がっているねえ」

 呟いてからフムフムと頷いて、

「返して来なさい」

と、いつもの強面を作りました。

「食べちゃった」

「ええ」

 お腹こわしても知らないよと言いたかった八十竹ですが、リウセイが腹痛を訴えたことなど数えるほどしか無かったため、ならば仕方ない、と言う他にありませんでした。

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