第12話
ちなみになんだけどさ。カフェからキャンパスまでの帰り道、三人で横に並んで歩いていると暮太が切り出した。
「ちなみにっていうか聞き忘れてただけなんだけど。天乃…、竜也くんのSって何処から持ってきたSなの?」
「あー、そういえば聞いてなかったなそれ。竜也だけ言わないのはずるだぞ。言えよな。」
妙にノリノリな高嶋も混じって、言わずに逃げることは許されない空気が作り出される。
「subliminalのS。」
「さぶりみなるって、サブリミナル効果の?」
暮太が食いついた。
「そう。俺にはできる、俺にはできるって言い聞かせてたら、できそうな気がするじゃん。」
「それってサブリミナル効果じゃなくね?」
高嶋は薄ら笑いを浮かべながら痛いところを突いてきた。俺がなにも言い返さなくても三人共スマートフォンで調べようともしなかったので、助かった。
なんだかんだ俺たちは似てるんじゃなかろうか。キャンパスに入ってすぐのロビーで、それぞれが授業のために三方向に別れた。エレベーターホールでの待ち時間、この数十秒の暇な時間は何をするのにも足りない。こういうときは、悩み事を考えるに尽きる。
劇団USB…。結成したはいいものの、これから具体的にどう動けばいいのか俺には全くわからない。どうするんだろう…。俺は高嶋に聞いてみることにした。スマホをポケットから取り出し、SNSアプリを開いた。
「これからどうするの?」
フリック入力で文字を打ち込んだ。流石に言葉が少なすぎるか。
「劇団USB、これからどうするの?」
よし。これで意味は伝わるだろう。送信ボタンを押した。
エレベーターを降りて、授業のある四階の教室に入りいつもの席に座る。スマホを開いて返信が来ていないか確認すると、
「さっそく劇団の名前気に入ってるね~。とりあえず俺が一つ作品書き終えるまで動けないんじゃねえかな。」
最初の一言がいらっとしたけど、俺の想像したとおりの返信内容ではあった。まだ授業まで十分はあるし、少し話してみるか。
「雅さあ、劇団の話になってから妙にテンション高いけどなんでなん?」
今度はすぐに既読が付いた。高嶋も暇なようだ。
「俺の人生、今まで俺が書いた作品は使われたことがないんだぜ?それがきっかけで書くことから離れてたわけだけど、逆に言えばそのおかげで今書いたら使ってもらえるって確証が嬉しいんだ。」
俺は軽く聞いたつもりだったんだけど、中々真面目な返信が返ってきた。でもまあ、そうなのか。自分が認められることが嫌な人間なんていないはずだ。
「竜也は?本気で嫌がれば前途多難なこと丸わかりの、劇団USBの初期団員にならなくて済んだのかもしれないのに。なんでやることに決めたんだよ。?」
今度は高嶋からのメッセージ。たしかにそれは俺も気になってたことだ。でも、それについて考えるのが少しだけ怖くて、自分でも触れられずにいた。
改めて考えると、やっぱり不思議だ。でも、母は自分にもわからないこの悩みを知っていた。
「やりたいと思ったならやりなさい。」
そう言った。きっと、俺はハナから演技がしたかったんだ。それを過去の鎖が締め付けていただけなんだ。
竜也に返信するのを忘れて少しの間考え込んでしまった。とりあえず返信しておこう。
「多分最初からやりたかったんだよね。」
竜也は忙しくなったのか、もう返信は返ってこなかった。
あ!スマホをしまいかけて、重要なことに気がついた。
「俺、暮太の連絡先知らねえじゃん。次どうやって会えばいいんだ…?」
暮太も高嶋も馬鹿なのに、俺がしっかりしなきゃいよいよ大変だな。俺は教室に入ってきた初老の先生を見ながら悩みのタネをまた一つ増やした。
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