第5話「野良PT4ガリラヤ洞窟」
どんな作戦にも共通することが一つある。それは、失敗すれば目も当てられない無残な結果になるということ。ましてや、その作戦内容が無謀なものであれば尚更。でも何かの縁で救いの手が差し伸べられるなんてこともあったりするから、諦められない所ね。
マーマン砦の陥落後、廃村に到着した私達は攻城職の働きのお陰で、何とか銀行の復興作業を完了することができた。私も工兵スキルの技、応急措置で、生産スキルの修復には及ばない回復量ながらも復興の手伝いをしたが、敵を倒すだけとは違った、何かを自ら作るという生産職としての楽しみが何となく分かった気がした。
その後、たき火を囲みながらマーマンからルートしたアイテムを各メンバーに均等に分ける途中清算を行い、銀行からの補給も完了したところでナギさんからの号令がかかった。
「それでは皆さん((o(^∇^)o))本日のメインイベント・ガリラヤ洞窟に行きまーす٩( 'ω' )و」
ティルミットさんが抜け総勢9人となってしまい、PT内の空気もなんだかどよんとしてるが、当初の目標のために引き返すことも出来ない私は、とにかく先に進むことにした。
ガリラヤ洞窟の内部は、右か左だけでなく高低差もある立体的な構造であり、どの道が正解なのか全く見当も付かない感じだ。おまけに池というか水溜りや苔にキノコがあちこちにあり、画面越しにもジメジメ感が伝わってくるダンジョンだ。とは言え、上層エリアのマーマンはそれほど強くなく、また9人いることもあって、前の人に付いていくことで苦もなく最深部エリア前のポイントまで来ることができた。
一旦ここでPTごとにたき火を囲んでの休憩となった。ファリスさんとみずぽんさんは何かtell、つまり個別チャンネルで話しているのか、一言も発言しない。私は初めてのダンジョンに緊張してたので、ホッと一息付いていると、突然声を掛けられた。
「オレらもたき火入っていい?」
吹き出しの方に画面を動かすと、そこには頭上にそれぞれ「Maximilliam」、「Unison」、「まる」と名前が付いたキャラ3人が立っていた。
「どうぞどうぞー」
答える彼。いや、このたき火設置したの私なんだぞ。別にいいけど。
「さんきゅー」
輪に加わる3人。こういうのも、このゲームの醍醐味だ。
「皆さんもボス狙いですか?」
例えそうであってもこのゲーム、一定以上のダメージを与えた全員にそれぞれルート権が発生するので、共闘はあっても取り合いになる事はほぼ無い。
「いや、3人しかいないのでボクの採掘兼金策狩です。最深部は最高品質や高品質の鉱石が出るんですよ」
「(*・ω・)ノ」
両手に華状態のまるさんはさっき学んだ攻城職のようだ。
「オレらはまったり狩してるところ〜」
「\( 'ω')/」
オレっ娘のMaximilliamさん……マキシさんは、ローブに杖という見た目からして魔法職だろうか。先程からUnisonさん……ユニゾンさんからは顔文字しか出ないが喋らない系キャラなのだろうか。
「ウニさんは無口系キャラ?」
彼と考えがシンクロしてしまったが、ウニって呼び名はどうかと思う。
「( ♯`ω´)」
あっ怒った。ウニ……ユニゾンさんは表情豊かだな。
そんな雑談をしていた所、専用チャンネルでナギさんからそろそろ出発する旨の指示があった。
「私達はそろそろ先行くけど、たき火残しておくんでご自由にお使いください」
たき火を囲んだひと時の交流も終わり。
「何かお礼しますよ」
マルさんはそう言うが、たき火設置しただけで代金を貰う気は流石にしなかった。
「あっじゃあ、武器の修理ってできます?」
と思ってたらまた彼か。設置したの私なんだぞ2。
「と言うかゴッドフリー、予備武器持って来てないの?」
武器の消耗は防具や装飾品よりも早いため、大抵予備は持って来るものだ。
「いやぁ、さっきつい投げちゃって。残りこの一本しか無いのよ」
あの時か……
「まるさん代金は私が払うから修理できませんか?」
流石に私のせいで彼を手ぶらにさせる訳にはいかない。
「お礼だからタダでやったげるよー」
修理後私達は3人組と別れ、ついにボスのいる最深部に向かうことになった。
最深部というだけあって、私達の他にプレイヤーキャラはほとんど見当たらなかった。そのためか、ナギさんから驚きの提案があった。
「時間短縮のため、ボスまでの敵をトレインしてくるんで範囲攻撃で一気に倒しちゃいましょう(*≧∀≦*)」
マジか。トレイン……すなわち大勢の敵を一箇所に集めて、範囲攻撃で一気にダメージを与える狩の方法であるが、敵も中々強いのだが大丈夫なのだろうか……
「ここは無理せず順々に倒していきませんか?」
珍しく彼が反対した。彼のプレイスタイルとは相容れないから当然だろう。
「9人いるんで大丈夫ですよ(*≧∀≦*)」
結局、初参加の私と彼が野良PT主に楯突くことができるはずもなく、トレイン作戦は実行された。
「ファリスとも話したんだけど、この野良PT主は行き当たりばったりタイプだから何言っても無駄」
PTチャットに流れるみずぽんさんの言葉が刺さる。
初めは上手くいっていた。9人の内全員が範囲攻撃を持っている訳ではなかったが、それでも中々の火力であり、道中のマーマンは次々と倒されていった。第1PTの近接職はMob集めにかなりバラけていたが、その時は気にもならなかった。そして、数回目のトレインがされた時だった。
「次連れてきましたよー(*≧∀≦*)」
むむ?なんだかナギさんの後ろに付いてきているマーマンの集団の中に、一際大きいマーマンがいるのに気がついた。
「マーマン近衛兵だ!攻撃当てないで!」
みずぽんさんがシャウトしたがすでに遅く、誰かの放った範囲魔法がマーマン近衛兵をかすった。
「あいつはボスの取り巻きだから、攻撃当てるとボスのマーマンキングまで連鎖反応するんよ!」
そのシャウトを全て読みきる前に、奥からさらに大きい……いや、巨大と言うべきマーマンが結構な数の取り巻きを連れて出てきた。こいつがこのガリラヤ洞窟のボス、マーマンキングか!
既に私達は多数のマーマンを抱えており、そこに更にボスとその取り巻きが追加された形となり、ついに殲滅力が追いつかなくなった。
「離れないで!固まって!」
PTチャットに響きわたる彼の悲痛な叫び。もはや魔法職は範囲魔法を撃つ余裕なんてなくなり、回復に手一杯となっている。
そうこうしている内に、ばらけていた第1PTが一人また一人と倒れていき、残った魔法職も離脱に失敗、回復魔法の詠唱中に血祭りに上げられてしまった。
「お前らが真っ先に死んでどうする!」
ファリスさんのシャウトが悲しくこだまする。
当然の如く流れてきたマーマンの大軍おかわり状態の私達四人。逃げようにも、最深部から地上まで逃げ切るなんて無理な話。ボスを目の前にして、こんな形で死ぬことになるとは……
その時、メッセージが流れた。
「うはっすごい量じゃんw」
この吹き出しは……マキシさんの!
「どさくさに紛れてボス共闘しようと思ったら半壊してるっ!?」
マルさんに、
「∑(゜Д゜)」
ウニゾンさんも!
「同じたき火を囲んだ仲だ、いっちょやったるか」
それを合図に3人はマーマンの集団への攻撃を始めた。タゲされてないため、新手の3人は自由にマーマンを攻撃することができる状態であったのだ。ウニゾンさんが剣と斧の二刀で次々と頭数を減らしていき、マルさんは魔法職のタゲを剥がし、そしてマキシさんが範囲魔法で大軍全体にダメージを与えてくれたお陰でなんとか体制を建て直すことができた。まさに天の助けで、私は思わず涙ぐんでしまった。そして最後には私達4人PTとマキシさん達の3人PTで無事、マーマンキングを倒すことができた。ほんっとぉぉに危なかった。
マーマンキングの死体を漁ったところ、無事所持枠拡張クエストのキーアイテム、水の大結晶が手に入った。みずぽんさんの欲しがっていた水魔法と土魔法の合成術、「底なし沼」の術書も出たらしい。
「危ない所ほんっとうにありがとうございました!」
土下座モーションを何度もする私と彼。
「オレたちもお陰でマーマンキングをルートできたから気にしなーい」
「\(^ω^)/」
マキシさん達にみずぽんさんとファリスさんとはその後、みんなでお互いをフレンド登録しあった。
初めての野良PTは、色んな事が山ほどあって大変疲れた。しかしクエストキーアイテム以上に大事なものが得られたという確信があった。
その後、地上に戻っての精算後に、死に戻りした第1PTのナギさんから再チャレンジのお誘いが来たが流石に疲れていたので断ってしまった。まあ、あの無謀さの後じゃ仕方の無い事だと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます