第4話「野良PT3砦攻略戦」

 Mobが支配している砦の初めての攻略戦は分からないことばかりで、おたおたしている間に終わってしまった。しかし、そこでの経験と知識は後々大きく役立つことになった。一番の問題は、真の戦いはその直後に訪れたことね。


 ナギさんの提案で、マーマンの支配する砦の攻略、そして今は廃村となっているティベリア村を復興させることになった。

「実は私、砦や廃村のシステムについてよく知らないんだけど、どうすれば廃村を復興できるんですか?」

実際攻略が始まってからでは手遅れな気がしたので、私は意を決して正直に聞くことにした。知ったかしても恥をかくのは目に見えていたし。

「まー簡単に言うと、廃村の銀行やら酒場やらの施設の建造物は生産系スキルの修復とか工兵の応急処置で治せるんよ。でも、事前に近くの砦を落としておかないと、そこからMobが出てきて折角直してもすぐまた壊されるんよ」

みずぽんさんはなかなか詳しいようだ。

「砦と言うのは、柵・堀・城壁という防御施設に囲まれた建物のことで、Mobの支配拠点のことです。これら防御施設を破壊して砦内に侵入し、コマンダーを倒すことで陥落させることができます」

ティルミットさんの説明は、まるで情報サイトの概要のような正確さだ。

「つーかこっちのPTには攻城職いないんだから、向こうだけで勝手にやればいいのに」

「攻城職?」

ファリスさんの言う、攻城職と言うのは何らかのテンプレ形スキル構成だろうか。

「砦を囲う防御施設の内、柵には伐採スキル、堀には収穫スキル、壁には採掘スキルによる破壊がそれぞれ有効なんで、半生産半戦闘のスキル構成を通称攻城職って言うんよ」

なるほど、砦と言うのは北方も含めて沢山あるので、その攻略に特化したスキル構成もあるようだ。

「ありがとうみずぽんさん。皆さんもありがとう」

概ね砦と廃村システムについては分かった気がする。

「説明を聞いてて一つ思ったんだけど」

彼も砦について何か知っているのか。

「色んなシステムあるんだなあと思いました」

と思ったら、出てきたのは小学生並みの感想であった。少し期待した私がアホだった。


 その後、攻略目標の砦を前に、ナギさん率いる第1PTの人から、アイテムの置き盾と梯子を貰った。私の持っている工兵スキルの技に必要なアイテムであるが、何でも、砦の攻略には攻城職だけでなく工兵スキルも重要になってくるそうだ。いつかPTを組んだ時にと思って上げていたこのスキルが、ついにたき火以外の火を噴く時が来るのか。


 攻略目標であるマーマン砦に到着したが、成る程、周囲に防御施設を巡らせており、確かに砦だ。外周には剣やら槍を持ったマーマンガードが、壁の上にはマーマンのアーチャーが配置されており、簡単にはいかなそうな感じだ。にしても、マーマン……半魚人とは言うが見た目に人要素は少なく、手足の生えた魚、サハギンという印象だが、弓矢なんて使うほど知能が高いのか。魚の癖に。


 みずぽんさんとティルミットさんにbuffを貰い、早速攻撃を開始した。彼やファリスさんと第1PTの近接職が外周のMobと戦う間、私は柵前まで行き、そこに工兵スキルで置き盾を設置、その裏に隠れつつ壁の上の敵を狙う。そうしてタゲを集めてる間に第1PT所属の攻城職が防御施設に取り付き、破壊していくのが大まかな流れのようだ。


 その後攻城職のみんながなんとか一つ目の防御施設である柵の一部を破壊、次は堀の破壊に取り掛かったが、遠隔職が私しかいないため、中々城壁上の敵が減らない。攻城職にタゲがいかないよう、それぞれの敵に満遍なく攻撃しなくてはならないので、攻撃が分散しがちなのだ。


 と、壁上の敵ばかりに気を取られていたら、背後からマーマンガードに攻撃された。距離を離して弓で反撃しようにも、置き盾から離れたら、今度は壁上の敵に集中攻撃を受けてしまう。なんとか罠スキルの技・火炎罠を踏ませて追い払おうとするが、燃えながらもなお攻撃してくる魚野郎。

「へるpう!」

慌てていたため誤爆。このままじゃあ……!と思った矢先、マーマンが倒れ、断末魔のグエクエを上げながら力尽きた。

「大丈夫か!」

彼が助けてくれたのだ。少し離れた位置にいた彼だが、装備している槍を投げる技「スピアスロウ」で魚野郎を倒してくれたのだ。

「ありがとう……」

思ったことを咄嗟に発言してしまったことに、ハッとした。

「ちゃんとタゲ取ってyおね!」

なんとか取り繕ったが慌ててたため、また誤爆。

「うひぃごめんよママン!」

マーマンと掛けてるのか?何にしても今は彼の余裕が正直羨ましい。


 見兼ねたティルミットさんが風魔法の範囲攻撃で壁上の敵を倒すのを手伝ってくれるようになった。初めてとは言え、もっと頑張らなくちゃ。


 そんな事を考えていたら、ついに堀も破壊し、残りは壁だけとなった。

「梯子設置するんよ!」

みずぽんさんが叫ぶ。そうか、先に貰ってた梯子アイテムを消費しての技はここで使うのか。置き盾から飛び出した私は壁下に取り付き、夢中で技・梯子掛けを実行した。

「設置しました!」

と言うやいなや、PTメンバーが皆一列で梯子を登り壁上に到達、そこから壁内に飛び降りていった。私も急いでついていこうと、梯子を登ったが、梯子の上にいる時は移動速度が大きく下がり、いい的状態だ。梯子での侵入は、壁を破壊しての侵入に比べて楽そうに見えるが、やっぱりデメリットがあるようだ。


 私が壁上に到達した時には、取り巻きのマーマンの大半は既に地に伏しており、みんなマーマンコマンダーを攻撃しているところであったが、ほどなくして無事討ち取ることができた。それと同時に、「マーマン砦が陥落しました」とのアナウンスがシステム欄に流れた。

「お疲れ様です(о´∀`о)」

「おつー」

「おつ狩さま!」

「お疲れ様でした!」

どうやらこれで砦攻略は完了のようだ。まだまだ道半ばだというのに、なんだかとても疲れた。HPSTを回復するためと言うより、へなへなと力が抜けてく感じで座り込んだ私に、彼が話しかけてきた。

「お疲れ!このマーマンってMob、肉に鱗に骨にエラ、おまけに現金までドロップして、お得だね!」

マジか。苦労した甲斐はあったのかな。

「ルートが終わったら、廃村の銀行を復興させて一休みにしましょう(≧∀≦)」

まだ休めないのか。野良PTは辛いな。

「さっきの戦いなんだけど」

しかし、本当の辛みはファリスさんのPTチャンネルでの発言で始まるのだった。


 「なんで回復しないで攻撃してたのティルミット?」

ヒッとなるのはこの野良PTで通算2回目だ。

「城壁上の敵が中々減らないからですが、何か?」

「いやPTでの魔法職の仕事は攻撃じゃなくて回復と支援でしょ。お陰で結構辛かったんだけど」

「そうですか」

「そうですかじゃなくて、次から攻撃とかしなくていいから回復に専念して」

「はぁ?でしたら次からはもっと早く敵の数減らしてくれませんか?」

「今のは壁上の敵攻撃するための遠隔攻撃スキル持ってないからしょうがないんですが?」

「だから私が攻撃に参加しないとジリ貧だったんじゃないですか」

あわわ……戦いが終わったと思ったら、まさかこんな事になるとは……しかも壁上の敵の殲滅が遅いのが原因のようだが、つまり私にも原因の一端があるってことなんだろうか。

「なんかごめんなさい」

居た堪れず謝る私。

「いや、遠隔1人だったんだからしょうがないんよ」

すかさず入るみずぽんさんのフォローがありがたい。

「まぁまぁみんな、砦は無事に落とせたんだから次行きましょ次」

確かに彼の言うとおりだ。

「いや不愉快なんでもう抜けます。お疲れ様でした」

PTメンバー欄から消えるティルミットさんの名前。なんてこった……


 4人になってしまった我らが野良第2PT。まだまだ道半ばだというのに、この先大丈夫なんだろうか。


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