自分会議

@KTakahiro

二度寝から目を覚ますと

大学に行く前に、もうちょっとだけ、と取った二度寝。目を覚ますと、2階くらいの高さに知らない天井があった。驚いて声をあげると、声が女性のものになっていた。

広さが高校の教室くらいの真っ白の部屋には自分以外、後頭部だけに幾らかの白毛の残った老人と真顔の赤ちゃんと黒い毛並みがチャーミングな猫ちゃんと10インチくらいの液晶ディスプレイと入れ歯と単三電池につながった豆電球があった。ディスプレイの反射で確認しても、私は女性になっていた。


とりあえず老人に会釈すると、フガフガとしか喋らない。試しに入れ歯を渡してみると落ち窪んだ目でしばらくそれを眺めた後、口にはめて、質問をした。


「ここがどこか分かりますか?」

老人は少ししゃくれながら、部屋を見渡した。

「私も今起きたばっかりでよく分かりませんが、調べても出口はなさそうです」

「脱出ゲームって知ってます?密室の中から少しずつ手がかりを探していって、逃げるっているゲームなんですけど」

お年の割に現代なこともご存知で。

「知ってます知ってます。私も先週友達と」

「本当ですか!私も先週友達と、あぁ、こんな老人みたいな姿してますが、目を覚ます前は普通の大学生だったんですよ」

「なるほど!私も、目を覚ます前は男性だったんですけど、朝起きたらこんな姿に……」

そう考えるとこの赤ちゃんも……

「そう考えるとこの赤ちゃんももともとは別の年齢かもしれませんね」

驚いたことに、その言葉を発したのは私ではなく、老人だった。

「ちょうど同じことを考えてました。脱出ゲームといい、気が合いますね」

「そうですね。心強いです」

「そうそう、名前お聞きしてもいいですか?私はーー」

そう言いつつ私が名乗ると老人は、ブェギェァと汚い音を鳴らしながら入れ歯を飛ばした。


「大丈夫ですか?」

入れ歯を拾おうと後ろを振り返ると、赤ちゃんと猫ちゃんがこちらを凝視していた。豆電球は瞬いていて、ディスプレイはカラーバーを表示していた。


「そんな変な名前ですか?珍しいとは思いますが」

そう言いながら入れ歯を手渡すと、老人はカポッとはめた。

「変な名前じゃない、と思います。ところで、どこの大学生ですか?」

老人はそういって私にいくつかの質問を始めた。大学・学部・誕生日・好きな本……。老人の名前を聞こうとしてもうまくはぐらかされ、質問は続いた。

「初恋の相手は誰ですか?」

この意味不明な状況にそこそこイライラしていた私は

「メール登録の秘密の質問じゃあるまいし、なんで初対面のあなたにそんなプライベートな事まで教えなくちゃいけないんですか?」

さすがにキレた。しかし老人はボソッと私の初恋の相手の名前を呟いた。そして続けた。

「中二の頃、同じクラスの女子で黒髪のショートカット。身長は160cm弱。6月7日生まれ。違う?」

「あ……え、なんで……」

「私はーー」

そうして彼が名乗った名前は私と同じ名前だった。


ああ、なるほどな……

「「あなたは私だ」」

タイミングは気持ち悪いほど揃っていた。

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