1-5
1組の5限は体育で、つまりお目当ての服は更衣室にあった。誰もいなければ、確認は容易だ。岸蔦を外に待機させ、一香は女子更衣室に侵入。授業開始3分前だから、もうみんな校庭に移動している。チャンスだ。ロッカーをばんばん開けて、中を弄る。私、今、最高に変態です、お母さん。ごめんなさい。でも多分、通常運転です。
シャツに付いてる名札を頼りに、探していると、ようやくお目当てのものが見つかった。
背中に、小さなシミのついたシャツが。
授業に遅れるぞ、俺は遅れたくないんだけどなー、と言いながらも岸蔦は丁寧に一香に説明した。
「時系列順に説明する。まず12:30に授業が終わって、これは推測だが、4個さんは教室を走って飛び出した。そしてどこかで時間をつぶす。俺たちは無事、プレミアムを入手。ここまではどうでもいい」
ゴク、と唾を飲む。一香はなんとなく岸蔦が今から言うことは推測じゃなく、本当の事だろうと思った。授業開始のチャイムが鳴る。先生への言い訳はあとで考えよう。
「一香は、背中にソースのシミがつくことが、あり得ることだと思うか」
「……思わない」
「だよな。普通はつかない。でもパックを後ろに隠し持ってれば、どうだ。つくんじゃないか。それは12:39頃にお前と会った時じゃないかと俺は思ってる」
私も思う。それしか考えられない。
『今日は違うところで食べない?』
あの時の、背中に両手を回して、前傾姿勢、上目遣いのこっこちゃん。可愛さに見惚れてたけど、まさか後ろにパックを隠し持ってたなんて、夢にも思わなかった。でも……どうして?
「その時、プレミアムを隠した理由、岸蔦先輩は分かる?」
岸蔦は、推測でもいいなら、と前置きして、
「まず、その時持っていたのはプレミアムが入っていたパックのみだ」
「え?」
「直接貰ったのか、ゴミ箱を漁ったのかは分からんが、友介は絶対に食べ終わってるはずなんだ。放送、聞いただろ?『今日はプレミアムソース焼きそばを完食してご機嫌の……』ってやつ」
じりじりと胸が焦げる音がする。また窓からやってきた春風が二人をすり抜けていく。誰もいない廊下を吹き抜けていく。
「多分、容器を入手した4個さんは、あらかじめ持ってきてた具材と焼きそばを移し替えようと思ったんじゃないか。それで一香にパックを見られるわけにはいかなかった」
サーっと何かが突き抜けた。鳥肌が立っていくのを足の爪先から感じて、ちょっと震えた。寒いのか? なんて言うところがまさに岸蔦先輩って感じで、少し安心した。それにしても、こんなに頭が切れる人だったなんて、知らなかった。
「まとめよう。4個さんは友介さんのパックを12:30〜12:38?頃に入手。12:39に一香と会って背中にソースが付着。12:40〜45の間に普通の焼きそばと具材を移す。これで幻のプレミアムソース焼きそば4個目の完成だな」
なんで4個さんが幻の焼きそばを作る必要があったのかは、俺には分からない。それから、今までの話は全部推測に過ぎない。……以上だ。
岸蔦の優しい声が、妙に耳に残って消えない。
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