マシュマロと事実

青山えむ

第1話 マシュマロの光

 高校に入学してから二度目の冬休みになった。明日はクリスマスだ。クリスマスといっても特に予定はないので家にいる。

 今日の夕食はビーフシチューだった。いつも通りだ。我が家では行事を特別視しない。


 食卓に父はいない、仕事だと云っていた。僕は父が何の仕事をしているのか知らない。物心ついた時からこんな感じだった。

 僕は将来、家族を作りたいとは思っていない。クラスの女子たちは、将来設計をキャッキャと話している。男子たちは、その前に彼女が欲しいと目をギラつかせている。僕は、何も思わない。


 兄は「明日は恋人とディナーをするので家にいない」と云っていた。

 母がケーキを切り始めた。行事はやらないが、食べ物は合わせるようだ。それが行事の大半なのではないだろうか。

 苺が乗った白いケーキを食べて、僕は自分の部屋に向かった。


 夕食後、ココアとお菓子を食べながらマックを使うのが僕の至福の時間だ。今日のお菓子はビスケットだ。満月のようなビジュアルをしている。

 兄から貰ったマックで、大好きなアイドルの動画を見る。日課だ。

 クリスマス時期という事で、特別メッセージが配信されている。

 指定のURLにアクセルすると、アイドル達が映った。七人程映っている。

 正式メンバーが四十名程いる中で、人気のあるメンバーだけが映っている。


「貴方のクリスマスの思い出は、何?」とアイドルが笑顔で喋っている。


 僕の推しメンがコメントしたので、僕はクリスマスの思い出を探した。……そういえば、クリスマスの記憶が無い。

 今までクリスマスに彼女がいなかった事もあるが、そういう事ではない。


 僕は子どもの頃、クリスマスプレゼントを貰った記憶が無い。けれど兄は確かにクリスマスプレゼントを貰っていた。

 あれは僕が年長さん位の時だろうか。兄は、ラジコンを持っていた。寒い日だったので、家の中で遊んでいたのを覚えている。その前後に、サンタという単語が出ていた気がする。

 それが羨ましくて、僕は父にプレゼントをねだった。

 その時、父にサンタの話をしたら「サンタはいない」と云われた。

 夢が砕かれた辛さと、プレゼントを貰えないんだという絶望感を覚えている。


 そんな事を思い出していたら、ココアから白い光る玉が出てきた。

 マシュマロ? 今日のココア、マシュマロ入れたっけ?

 違う。第一、マシュマロだとしてもいきなり浮遊してこないだろう。何これ。

 サンタ? クリスマスイブだから。メリークリスマスと云ってみるも無反応かと思いきや、浮いている白い玉がさらに光った。


【少年、現在の記憶を持ったまま、過去に行ける妖術を君に使う】


 頭の中で声がした。妖術って何だ。その前に、色々な事がいきなりすぎる。疑問だらけのままだ。

「じゃあ、過去に行っている間、現在の僕の時間はどうなるんですか? 高校二年の僕の現在は」

 混乱している割に、冷静な質問をしたと思う。


【その間、現在の時間は止まっている事になる、というか一晩の夢で済む。使ってみる?】


 ますます混乱してきたし意味が解らない。

「どうやって、やるんですか」僕の質問もマヌケだが、おあいこだろう。

 方法は眠る事、らしい。一晩で済むと云っているし、害は無さそうだからやってみる事にした。どうせ冬休みだし。


 とりあえず気になるので、今夜は早めにベッドに入る事にする。


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