042 最高機密
「最高機密、ですか」
津野崎の言葉に反応したのは光一だった。
「ハイ。本来なら自己紹介と行きたいのですが、その前にお伝えを、と。
それに、皆さん、だいたいお互いの異能はご存知でしょうしネ。
皆さんほぼほぼネームドか、そうでなくとも東雲の中でも有名なオーバードですので」
その言葉に、隊員達はお互い視線を交わす。
真也は誰一人……正しくはレイラ、まひる、伊織以外のメンバーの異能は全く分からなかったが、まひるが伊織の異能を知っていたように、学内で有名なオーバードはお互い把握しているのだろう。
光一はぐるりとメンバーと視線を交わし、津野崎に向き直る。
「まあ、たしかに大体は把握はしていますが…」
「あー、俺は知らん異能のやつおるで?
高等部から来た1年のは知らん。レイラちゃんと間宮くんの奴は。あとは、そこの金髪のショートカット子な」
修斗に、急に指をさされた美咲は「ひっ」と小さく悲鳴を上げ、レイラの後ろに隠れる。
その様子に光一は溜息をつく。
何も言わなかったが、何を言わんとしているのかは全員が察した。
「それは…ほぼ全てのメンバーがそうだろう」
それは、真也たち以外の全員が高等部からの生徒以外の異能を、お互いに把握しているという言葉。
真也の思いの外、この部隊には東雲学園の内部では有名な生徒しかいないようだ。
まるで自分たちを区別するかのようなその言葉に、レイラが反応する。
「逆に、私は、みんなの、知らない」
レイラの主張は最もで、真也もレイラの言葉に頷く。
「まあ、そこは作戦前までには把握しておいてください。このお話の後で自己紹介をしてもらっても構いません。
それに、機密というのも、その一年生に関してのものですよ、ハイ。
まずは、一年生の間宮真也さんについて、ですネ。
先に公表しますと、彼の異能強度はエンハンスドマテリアル、ハイエンドです」
「は、ハイエンドっスかぁ!?」
椅子から立ち上がって驚きの声を上げたのは、中等部の少年。ルイスも驚いた様子で、真也へと声を掛ける。
「そ、そうなのですか、間宮殿!」
「あ、はい。一応そうです」
頭を掻きながらルイスに返事をする真也。
「一応、ってなぁ…ハイエンドって公式には12人しかおらんのやで? いや、これで13人か?」
「なぜ中学から東雲に来ていなかった!?」
修斗は呆れ、光一に至っては訳の分からない叱責をする始末。
「そんな、日本にハイエンドがいたなんて」
「あわわ…そ、そんな……」
ずっと無言だった光一の妹、九重苗も驚きに声を上げ、美咲はいつも通り、いや、いつもより挙動不審になっていた。
伊織に至っては、完全に言葉を失っている。
そんな、ざわつくラウンジで、ひとり自信満々な少女が居た。
「まあ、お兄ちゃんは最強ですからっ!」
その言葉に、一瞬ラウンジの空気が固まる。
良くも悪くも空気がリセットされ、津野崎がこほん、と1つ咳払いをし、注目を集めて言葉を続ける。
「そして彼は……異世界から来ました」
「は…?」
今度の反応は、また別の種類で異様だった。
先ほどまでの盛り上がりが嘘のように静まり返り、修斗の口から溢れた音が、ラウンジに響いた。
「異世界…っスか…?」
またもや最初に口を開き、呟いたのは中等部の少年だった。
「はい、この世界とは、異なる世界です」
「いや、それくらいは分かるっスよ! そうじゃなくって……!」
「まあまあ、友枝さん。他の皆さんも、言いたいことはわかります。順を追って説明しますネ」
その言葉に、友枝と呼ばれた少年は思い出したかのように椅子に腰を下ろし、津野崎の言葉を待つ。他の面々も、興味深げに津野崎に注目した。
津野崎は、真也の、これまでの経緯を大まかに説明する。
説明は、東異研へと向かい、アリの殻獣を倒すまでの話だった。
その後は、検査結果の話が続き、まひるとの一悶着を話されなかった事に、真也は静かに安堵した。
「は、はは…なんやそれ。でかいダンゴムシの奴4匹を一蹴? ハイエンドやとマテリアルでもそんな威力出るんか……だってあれ、主な撃破方法って強度7以上のキネシスオーバード3人で囲む、やぞ……南宿にそんなんおったことすらビビるのに」
津野崎の話が終わると、大きく息を吐き出した修斗が乾いた笑いとともに感想を述べる。
「しかも、砕いた、と言われてもダンゴムシ型の装甲を傷つけるなど…大型爆弾レベルでも無傷なのだぞ?」
盛り上がる先輩陣を差し置き、伊織が真也に問いかける。
「間宮って、そんな経緯でこの世界に?」
「ああ。津野崎さんの言った通りだ」
「…じゃあ、間宮妹も異世界の方と入れ替わってるの?」
「いえ、間宮まひるさんは彼を召喚した、この世界に元からいた方の間宮真也さんの妹です、ハイ」
その言葉に光一は溜息をつく。
「だから、遠い親戚だ、と…遠すぎるだろう、それは」
「すいません」
嘘をついたのとほぼ変わらない事実に、真也はバツが悪そうに謝る。
「いや、いい。こんな事、言われても信じられなかったろうし、何より、口にできるものではない」
光一はソファーに身を預けて頭を掻き、自身の妹、苗を無意識に目の端にとらえた。
「本当の兄妹ではないのですね」
光一の目線に気付かず、苗は真也へと話しかける。
「ええ」
「そうですか…なのに、仲がよろしいんですね?」
「え? まあ、はい」
真也は彼女が言いたい事は分かったが、どう説明するべきかと頭を悩ませる。
その様子に、光一はひと言だけ、言葉を発する。
「苗」
「……すみません、プライベートな事をずけずけと…」
光一に名前を呼ばれた苗は、びくりと反応すると真也に頭を下げる。
「い、いえ、気にしないで下さい」
「すまんな、家庭事情に首を突っ込むなどというのは、野暮だった。私からも謝る」
光一までが頭を下げ、真也は逆に申し訳ない気分になってしまった。
不穏な空気が見え隠れしたが、津野崎が話を続ける事で空気を破る。
「……さて、気になる間宮さんの異能内容は、六角形…棺の蓋型の盾の召喚です、ハイ。
間宮さん、良かったら軽く見せて頂けますかネ?」
「は、はい」
真也は異能を発動させ、1つだけ空中に出現させる。
その様子にルイスが驚いたように目を見開く。
「このサイズの異能物質が、この様に一息に発現するのですか…驚愕に値しますね」
真也の盾は正に棺の蓋というサイズであるので、全高は2メートルほど。それを見上げる面々は、もはや驚くことすらなかった。
その盾に、ルイスが一歩近づく。
「少々、触れても?」
「あ、どうぞ」
真也の同意を得たルイスは、手のひらを盾に当てる。そのまま少し力んだかと思うと、スッと手を離した。
「なんと……ビクともしない……軽く押しただけではありますが、動かせるビジョンすら浮かびませんね、これは…
エンハンスド9で動かないとなると、殻獣からの大半の攻撃は無効化されますね……少し、自信喪失しそうですよ……」
どうやら、ルイスのエンハンスド強度は9もあるらしい。
その彼の力でもビクともしないこの盾は、この世界で異能に明るい者にとっては異様な存在だった。
津野崎は何故か自分のことの様に自信げにルイスへと語る。
「そりゃそうですよ。この世界で最も硬い物よりもさらに硬いですし、空中固定の強度も計り知れていません。
もはや、物理的干渉を受けつけないと言ってもいいレベルですネ。
間宮さんの異能は、この盾、13枚がほぼ無制限距離で自律行動し、無意識下での防衛行動も行います。つまり、鉄壁の存在ですネ」
「これが…13枚っ…?」
津野崎の言葉に、ルイスが驚きの声をあげる。真也以外の誰しもが、同じ感想を抱いていた。
「初めてハイエンドを目の当たりにしたが…確かにこれは、規格外だな……」
ぼそりと感想を零したのは、光一だった。
真也は、自分の異能に対してここまでの反応をする人間を初めて見て、ようやく己の異能の異常さに気付くのだった。
「では、次の機密の開示へと進みますネ」
津野崎は、未だ衝撃から立ち直れない一同に、無慈悲にも言葉を発する。
「こんなん見せられたら、次に何が来てももう驚かんわ」
修斗は腕を組み、半分笑いながら津野崎の言葉に応えた。
その修斗に対し、津野崎はニヤニヤとした表情を強め、言葉を続ける。
「では、もう一つの最高機密を話す前に、ある方をお呼びします。どうぞ」
津野崎の言葉とともに、ラウンジの奥の扉から、1人の男性が出てくる。
サイドバックのブロンドヘアー。青い目と、さわやかな笑み。あちこちに金属板のついたボディースーツと、腋に挟まれたヘルメット。
そのさわやかな笑みに違わぬ声で、その男は挨拶をする。
「恐らくは、初めまして、ですかね。東雲学園、アンノウン部隊の皆さん」
それは、誰もが知っているが、誰もが知らない謎に包まれた男。
「うそやろ!? トイボックス・トム!?」
驚かない、と言っていた修斗が、誰よりも大きく声を上げた。
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