第7話
最終科目の英語を終え、軽い神崎先生からの終礼も済ませ、僕は逃げるようにして教室を出ようとした。
「そ、空くん!」
ここで振り返らず、そのまま無視して帰ったのなら僕は今自宅のベッドでごろごろと悠々自適な時間を過ごせていただろう。
声の主がエミィなら聞こえないふりでもしていたろう、しかしこの声はこころさんだ。
僕は振り返った。
「なんですか?」
やはりそこには自分よりも背が低くて、綺麗に撫で付けられたショートカットの女の子が居た。
照れ臭そうに彼女は言った。
「えへへ、この後暇ですか?」
さすがにこれは自惚れてもいいんじゃないだろうか。
いや、彼女がただ男に慣れていないだけで、男と対峙する時はいつもこうなのかもしれない。
落ち着け僕。期待してもどうせろくなことは無いんだ。今までもそうだっただろう。
「は、はい!暇です!!」
が、僕も女子に慣れてないのは同然で、今さら気を落ち着かせるのは無理だった。
「やったぁ!…じゃ、じゃあファミリーレストランでお疲れ会でもしませんか!」
こころさんは小さくガッツポーズをしてきらきらと目を輝かせている。
なんて癒されるのか。
今日は一日中背後からの視線にビクビクしながら過ごしていて、生きてる心地がしなかったのだ。
まるでこころさんが天使のように映った。今日は人外がよく視界に映る。
「はい、喜んで!」
僕の声も弾んでいた。世の中期待しても良いこともあるじゃないか!
僕は受験から解放された喜びと異性との交流も相まって、エミィの事なんか忘れてしまっていた。
そう、僕は忘れてしまっていたのだ。
目の前でぴょこぴょこ跳ねんばかりに喜んでいた少女の目から輝きが少しずつ奪われていく。
異性を食事に誘うのは初めてだったのだろうか、照れた様子で赤らめていた頬は粘土のように色が失われている。
辺りに流れていたほんわかした雰囲気が一転張り詰めた物へと変わった。
背後に刺さる視線が、今日嫌というほど味わった物と同じだった。
"それ"が声を発っさずとも"それ"が何かわかる。
「もちろん行くわ!私、ファミリーレストラン初めて!」
ほら、現実なんてろくなことがない。
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