異世界東亰

@hiro1969

第1話

「次元タワーに行きたいんだが、ドライバーを探している」

「あいつがそうじゃないか」

 傷だらけの顔の男が答える。


 南町奉行所に勤めている俺だが、この店は初めてだ。


 酒場にいる化け物じみた連中の中からドライバーと思しき人物を見つけ声を掛ける。

「おい、次元タワーへ行きたんだが」

「……」

「これがあれば行けると聞いているが」

 俺がチケットを見せると、ドライバーは無言でうなずき、千鳥足でオンボロの車へと案内する。

「おい、大丈夫なのか? これから行くのはあの次元タワーだぞ」

「人も車も見た目で判断するんじゃねぇ。俺は一度も失敗したことはねぇんだ」

「わかった。頼む」


 移動中、俺は緊張の糸を緩めることなく、前後左右、全てに意識を集中した。


 しばらく走ると、次元タワーの威圧的な形が姿を表した。20年前まで、東京都庁と呼ばれていた建物が……。


 今から20年前、東京に一人の知事が誕生した。

「私が当選したあかつきには、腐りきった東京をぶち壊し、魔都として再生します」

 自らを安倍晴明の子孫と名乗るその男は、最初は、ただの泡沫候補だった。しかし、既存の政治家に飽きた都民が面白半分に投票した結果当選した。

 

 都民が後悔した時は、すでに遅かった。


 こいつは悪魔の手先だったのだ。




 となった。






 東京オリンピック後の大不況で、膨大な財政赤字を抱えた東京都を再生するため、地名や建築物等、ありとあらゆるものをネーミングライツとして売り出したのだ。

 ライトノベルで出版不況を乗り越えた出版社と、ゲームメーカーが主要な買主となり、恥ずかしげもなく、自社の作品に出てくる名称で、多くの歴史ある名称を置き換えた。


 また、赤字の都バスは廃止し、配車サービスを大規模に規制緩和した。ただし、完全自動運転車は、国の規制により必ず人間のドライバーを乗せる必要があったため、東京都は、自動運転専用の免許(自分の名前だけ書ければ誰でも取得できる)を新設することで対応した。


 俺は、南町奉行所(旧中央区役所)から、次元タワー(旧東京都庁)に行くため、スマホで配車サービスを予約した。ドライバーは、★が3つ付いていたが、ハロウィーンで浮かれ、ぐでんぐでんに酔っ払っていた。自動運転車は、頭では安全だとわかっているのだが、何度乗っても緊張する。


 ネーミングライツの期限は来年切れる。今度はアラブ諸国が落札するとの噂があり、地名が読めなくなるのではとの不安が都民の間で広がっている。

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