第2章 1-1 作刀開始
「けど、イェフカ……結果を出さないことには……どうしようもない。零零参型には、お金がかかりすぎている……結果次第では、魔力炉を交換することになるよ」
バタン。ドアが閉まった。桜葉は全身の力が抜け、ずるずると壁ぞいに尻餅をついた。何度も深呼吸をする。
そして、ふと、窓から夜空を見上げた。
大小の月が、並んで光っている。
「……結果……ねえ……」
どこの世界でも、結果が求められる。
あたりまえの話だった。
第二章
1
バストーラの工房は、さっそくストックしてある鉄材を調べるところから始めた。桜葉も選定に呼ばれたが、さすがにそこまでの専門家ではない。それでも、
(見学会で見た、
と、思った。しかし、やはり詳しくは分からなかったので、そこは素直に分からないと云った。製鉄までは、見せてもらえなかった、ということにして。
「さもありなん、だ。鉄ってのは、いまでこそ、そこそこ大量に生産できているが、本来は国家の秘伝……厳重に管理されてたんだ」
「へえ……」
桜葉は異世界の収斂進化に感心した。
バストーラは自分でこれぞと思った鉄を集め、いったん溶かして板状にし、桜葉の説明通りに硬度の異なる四種類の鉄を作り出した。それを細かく砕いて四角く形成し、また真っ赤に熱して叩いては伸ばし、伸ばしては折り畳み、また叩いて伸ばす。それで不純物を徹底的に除き、鍛えて鉄を鋼とする。その工作、いわゆるトンテンカンを延々とやり始めたものだから、異様な光景と音に競技場中から工房に見学者が訪れた。
(この世界って、鍛造が存在しないのかよ)
桜葉はその光景のほうに驚いた。が、よくよく話を聞くと、
「昔はよくやってたんだが、手間がかかるってんで最近はとんと見なくなっちまった。バストーラも死んだ祖父さんから技を引き継いでたんだが、最近は腕を振るう注文も無くて、くさくさしていたようだ。あんたがこの話を持ちこんでくれたおかげで、やつも喜んでる」
「へえ……」
この競技場で何の仕事をしているのかもわからない老爺からそう云われ、桜葉は改めてバストーラとその弟子たちを見つめた。かなり真剣に取り組んでいるのが、その表情からもわかる。
期待できそうだった。まったく同じものができる必要はないし、できるはずもない。使えればそれでいいのだ。
(あと、問題は焼き入れだろうな……)
この作業で完成した四種類の硬度の異なる鋼を重ね合わせて熱し、真っ赤になったところを叩きに叩いて伸ばし、刀身を形成したのち、熱した刀を適温の湯へ一気に入れることで硬度を増し、かつ複数に組み合わされた素材の伸縮率のわずかな差や、刀身へ塗った泥の厚さによる温度差で自然と刀は反る。これを発見し、技術として固定した日本の刀鍛冶は、偏執狂的なレベルでのオタクだと桜葉は思っていた。
(刃紋なんかも必要ないし……紛いものだろうとなんだろうと、こっちの世界ではそれが本物だぜ)
桜葉はワクワクしてきた。今まで味わったことのない期待感と充実感だった。
(ま、お楽しみは後にとっといて……っと)
刀も
ところで、あの夜をきっかけにランツーマとは少し話せるようになった桜葉は、
「夜って……みなさん、何をしてるんですか」
こっそり聴いてみた。
「何って……寝てるよ」
「えっ! ……どうやって?」
「どうって……ああ、零零参型には、もしかして休眠形態が設定されていないのかな」
「休眠形態」
「博士に聴いてみたら?」
また博士か。あのわけの分からない名前の。クロタルへ相談すると、なんとクロタルが知っていた。
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