1-⑦ 紅蓮の決闘
ツミキを中心として青色の量産機は展開された。ツミキが目を瞑り、開くとそこはすでにコックピットの中、モニターの先には憎き緑色のチェイスがいる。両者は燃え上がる炎に囲まれており、その炎に囲まれた空間はさながら闘技場のスタジアムのような雰囲気を
『あれは我が軍の兵器“アズゥ”……確か報告では先日のトリゴ使い来襲の際に一機鹵獲されたと言っていたな』
ツミキはコックピットの中を見渡し、アズゥの手を閉じたり開いたりして「よし」と操縦桿を握る。
「整備ロボットと使い方はほとんど同じだ。これなら―—」
ツミキは操作方法を確認すると、すぐさま顔つきを変え、緑色のチェイスに突撃する。
「許さない……! アナタだけは!」
『ふん。つまらん』
ぐるん。とモニターが激しく動く。三秒かけてツミキはアズゥが目の前のチェイスに殴られたことに気づいた。
『たかが下民が、頭が高いぞ』
「……。」
イメージと違う。
怒りのまま、敵を圧倒する。そうイメージしていたツミキにとって、この現実は予想外だった。
『この“アーノルド・ミラージ”が一つ教授してやろう。――怒りで人は強くなりはしない』
「そんな、こんなはずじゃ……!」
目に見える敵の武装は丈の長い剣一つとバズーカ一丁。問題なのは剣の方、明らかに量産機が持つような代物じゃない。実体剣に赤黒いエネルギーが走っている。現に敵パイロット“アーノルド”はすでにバズーカを捨て、剣一本で戦う気だ。
『我がチェイス“ウィリディス”は
ツミキは思うようにアズゥを動かせない。そんなツミキの状態などお構いなしにアーノルド操る
『下民が! 騎士に逆らおうなど百世紀早いわ!!』
後退するアズゥ。しかしアズゥの機動力では到底発展型には敵わず、その右腕を紅蓮の剣に断ち切られてしまった。
(くそッ! 運動性能が段違いだッ!)
『
ツミキが応戦しようとアズゥが背負っていた刃先が振動する剣“
『はぁ~い。まだ生きてる? ツミキ・クライム』
その声は先ほどツミキに“アズゥ”の起動ツールを渡した少女の声だった。
「あなたはさっきの!? ――戦闘中ですよ、話しかけないでくださいッ!」
ツミキは逃げようと
「駄目だ! 武器の切れ味も負けているッ!!」
――(死ぬのか? 僕は……)
『馬鹿ね、アンタ』
「え?」
『積み上げた経験も、戦術も、操縦スキルも機体性能もあっちの方が上だ。でも一つだけ、アンタには誰にも負けない武器がある』
「武器?」
『自分の“心”に聞いてみな』
ツミキは“心”と言われて思い出した。
――心能“
『じゃ、こっちも取り込み中だから切るわよ。――ゴラァッ、かかってこい雑兵ども――』
ブチッと通信が切れた。
ツミキは振動剣を捨て、急バックすることでなんとかウィリディスの凶刃から逃れ、深呼吸する。
(そうだ、落ち着け……僕には“危険信号”があるんだ。まずは回避に専念する。……落ち着け。一旦忘れるんだ、怒りを鎮めよう。自分の
ツミキは手ぶらでアズゥを待機させる。
『終わりだ!』
ひゅ。
『なに?』
乾いた音を聞き、アーノルドは戸惑った。
空振り。運動性能の高いウィリディスが量産型のチェイスに攻撃を躱された。それはアーノルドの中ではありえないことだった。もし、現実だとしたら、それはチェイスのせいではなくパイロットの技量によるものだからだ。
(ッフ。手元が狂ったか)
アーノルドは操作ミスと決めつけ、改めて紅蓮の剣を振りかぶる。
ウィリディスの紅蓮の剣による連撃が速度を増しアズゥを襲う。
―—その少し前にツミキの瞳には
(アズゥの右肩、1.3秒後……!)
回避。
(コックピットにピンポイント。2.4秒後ッ!)
回避。
(胸部左側面0.5秒後、右足1.7秒後、頭上2.5秒後!!)
回避、回避、回避ッ!!
『なんだとッ!?』
「やれる……! チェイスを通す分反応は遅れるけど、時速300キロのナイフを避けるより何倍も楽だッ!」
慢心を改める
(ありえん……この距離で我が斬撃を躱すなど…し、しかも、量産型の性能でッ! 他の動きは下民相当だが、回避能力だけは貴族に相応しい…)
状況が上手く運び、緊張が取れたツミキ。
(よし。やるべき事は、見えてきた……!)
――両者の集中力は最高レベルまで高まっていた。
(
(このまま回避を続けても
(ならばコレならどうだ…!)
(足元に危険信号……足払いか!)
アズゥの足元を掬おうとするウィリディスの右足。ツミキは“危険信号”によって攻撃を感知し、アズゥを飛び跳ねさせた。しかし、空中では回避の幅が限られてしまう。
『(死角からの攻撃は避けただと!? ――しかし) 空中! 取ったぁッ!!』
「(しまったッ!) ――このおぉッ!」
ツミキは咄嗟にアズゥの推進力を爆発させ左手でウィリディスの顔面を押し飛ばす。
(メインカメラを!?)
カメラを塞がれ怯むアーノルド。
『くそッ!
ウィリディスはすぐさま態勢を立て直す。
性能にモノを言わせた雑な斬り込みが着地したばかりのアズゥに迫る。
常人なら確実に避けられないタイミング。だがツミキには
ウィリディスの直近、間合いの半分……!
(よし。ここまで入り込めれば……!)
(『よし。ここまで入り込めば剣は振れない――』か? 下民レベルの思考だな! 誘われたとも気づかずにッ!)
ウィリディスの武装は剣だけじゃない。
アーノルドの直近の部下ですら知らない、ウィリディス左手の甲に
『これが貴族レベルの思考だ!』
ここまで隠しきった武器、最高のタイミングでの披露だ。上手い、そう誰もが称賛する使い方だろう。普通ならば予期せぬ暗器に対応できない。
――普通ならば……
(なんだ? コックピットに危険信号?)
ツミキは己の感覚を信じ回避行動を取る。その行動と入れ違いになるように、ウィリディスの右手の甲からバルカンが現れた。
「読まれた!? あ、ありえんッ! 技術者と私しか知らない隠し武装だぞ!!」
「ば、バルカンなんて隠し持っていたのか! 姑息な奴ッ!」
誰もいない空間を突っ切る弾丸。しかし、この弾を避けるためにツミキはウィリディスにとってベストの間合いに入ってしまった。
「貰ったッ!」
「――避けれる!」
だが、とツミキは眉間にシワを寄せる。
(どれだけ避けても、このままじゃアズゥの方が早くガタが来る……! チャンスがあれば突っ込むぞ!)
(下民がッ! 私の貴重な時間を奪いよって。次の一手でチェックをかけてやる!!)
(青色の危険信号が見えたら迷わずぶん殴ってやるッ!)
(勝負は二振り、一振り目は普通に斬る……)
アズゥはウィリディスの左から右にゆく斬撃をバックすることで避けた。だが、ここでウィリディスは剣道選手が使うような独特な足運びでベストな間合いにアズゥを置く。
(速い…!)
(二振り目は右から斬ると見せかけ……)
敵パイロットはフェイントを混ぜることでツミキを揺さぶろうと考えた。しかし、危険信号に嘘の殺意は通じない。――逆にフェイントをかける分、本命の攻撃までの時間は長くなっている。
「青色——!」
その隙をツミキは見逃さなかった。
『左からだッ!』
「遅いッ!!」
剣が迫るより速く、アズゥの左拳が最高速でウィリディスに炸裂した。
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