“銀”の英雄 

空松蓮司

0‐⓪ 探し人は“銀”

「だーかーらー! アンタはなんで将棋盤こんなもので遊んでるのよ!」


 砂漠のど真ん中。軽トラックの荷台の上に二人の男女はいた。


 一人は青髪の高校生ほどの少女。三つ編みの髪をハチマキのように頭に巻き付けた大きな胸が特徴的な少女だ。


 一人は金髪碧眼、中学低学年ほどの少年。整った顔立ちだが身長は小さく140センチほどしかないだろう。だがどこか大人びた雰囲気を纏っている。


「な~にをそんな苛立っておるのじゃ? 言ったじゃろ、まだ動く時ではないと」


 金髪の少年はジジイ口調で話しながら将棋の駒を動かす。青髪の少女は少年の態度にさらに苛立ち、将棋盤をゴンッ‼ と蹴飛ばした。


「あーあー…」


 跳ねた駒は宙を舞い、砂漠の砂の上や荷台に散らばった。


「私はね、ジッとしてるの大嫌いなの! 早く戦争がしたいのよ!」


「この戦争中毒が! 焦って戦いを起こしても、たった二人でなにができると言うのじゃ?」


「私が一人で全員蹴散らす!」


「落ち着け。時間がないのはわかる、しかし、どうしても必要な駒がまだ手に入っておらん」


 金髪の少年は将棋盤を立て直す。

 青髪の少女は苛立ちながら荷台にあぐらをかいて座った。


「…必要な駒ってなによ? 人数が足りないならその辺の奴を引っ張り込めばいいでしょ。適当に弱みでも握って。アンタならそれぐらいの策、いくらでも立てられるじゃない」


 金髪の少年は散らばった駒の内、“歩兵”を拾い、握りしめ、手を開いて地に落とす。


「“歩”はまだいらん」


「じゃあ何が欲しいの? “飛車”? “角”? 」


「いいや」


 金髪の少年は散らばった駒の中から目当ての一つの駒を見つけ、右手に握りしめた。


「“飛車”も“角”も“歩”も、まだいらない…」


 そしてその駒を人差し指よ中指で挟む。


「今欲しいのは王を守り、王を攻めることのできるもの…」


 金髪の少年は駒の乗っていないまっさらな将棋盤、その中央に“ある駒”をパチッ…と打ち込み、微笑む。




「“銀”じゃ」



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