その3 それでも僕には隠れた能力が

「それでは闇のゲームのペナルティ、有り金没収!」


 彼はそう宣告した。

 勿論何も起こらない。


「何か起こったのか?」


「おかしい。もう一度宣告だ。闇のゲームのペナルティ、有り金没収!」


 俺のポケット内の財布は動かないままだ。


「財布は動かないようだぞ」


「おかしい、そんな筈は無い」


 そう言われても困る。


「その女神の話、単なる夢に過ぎなかったんじゃ無いか?」


「僕を愚弄するのか」


「君では無い。君が見た女神をだ。それって単なる夢の産物なんじゃ無いか?」


 この台詞で乗ってくれるだろうか。


「おのれ、神聖なる女神を愚弄するか」


 あっさり乗ってくれた。

 単純な奴で良かった。


「この罪は重いぞ。でも今謝るなら許してやる」


「謝る必要は無い。実際何も起こっていないからな」


「いいのか。僕には女神から与えられた『罪の宣告』があるぞ」


「どうせ使えないだろ。偽の女神じゃ」


「おのれ!」


 中二病は激高した模様だ。


「この者に対し『罪の宣告』を下す。我が偉大なる女神を侮辱した罪でこの者に死刑を宣告する!」


 当然何も起こらない。

 まあこの辺、実はちょっとしたからくりがある。

 勿論、彼には秘密だが。


「どうした、罪の宣告も効かないようじゃないか」


「ぐぬぬ……貴様、汚い魔法を使っただろう!」


 ぎくっ、とはしない。

 何せ俺ももうすぐアラフォー。

 こんな餓鬼にバレるような面の皮の厚さじゃ無い。

 以前に入国管理局で鍛えてもいるしさ。


「もし僕が魔法を使ったにしてもだ。たかが公務員魔法使いに魔法を使われた程度で使えなくなる能力なんて、所詮大したものじゃない。

 君に能力を与えたのは仮にも偉大なる女神なんだろう。そんな悲しい程度の能力しか与えないなんて事はおかしいんじゃないか?」


「そんな馬鹿な。罪の宣告! 死刑!」


 焦って何度もやっている。

 面倒なので落ち着くまでやらせておこう。


 そんな訳で5鐸10分経過。

 はあはあ息をしている彼に俺は告げる。


「そろそろ結論を出そう。君の能力は役に立たない。

 これでわかっただろう。学校に帰って真面目に勉強をするんだな。今の成績じゃ悪いが碌な仕事に就けないぞ」


「そんなつまらない勉強じゃ無く、もっと僕の能力を」


「じゃあ君の能力って何だ?」


 そろそろ現実を見て貰う時間だろう。


「学校の成績は中の下。何かスポーツや特技で表象された事も無い。今やった限りではゲームも弱い感じだな。つまらない勉強より遙かに役に立つ君の能力って、それじゃあ何なんだ?」


「女神に……」


「その能力は役に立たないとここで実証したばかりだろう」


 彼はうなだれかけ、そして抵抗するようにまた口を開く。


「でもそれ以外にもきっと僕にも何か能力が」


「ああ、あるかもしれないさ」


 そこは頷いてやる。


「でもその能力って一体何なんだ。自信を持って言えるのか?

 その能力は他の人よりそんなに秀でた能力なのか?

 そんなに役に立ったりする能力なのか?

 その能力の発揮の為に君はどんな努力をしているんだ?


 これら質問の答えて欲しい。僕を納得させたら、色々口を利いてやってもいい」

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