まさか?
姶良守兎
まさか?
私は、果てしない旅路の末、ある星にたどり着いた。その星は、清浄な大気をまとい、豊かな液体の水をたたえた、青い惑星を従えていた。
「おお、ついに見つけたぞ。この惑星なら、生命を育むことができるかも知れない。しかし、とても長い旅だった……肉体を持っていたら、ここまで辿り着けなかったことだろう」
かつては、我々の種族も肉体を持っていたのだ。だが究極の進化を遂げた結果、肉体を持たぬエネルギー生命体となり、完全な自由と永遠の命を手に入れたのだ。
我々はもはや、老いることも、病に倒れることもない。また重力や大気を気にすることもなく、自由にどこへでも行けるのだ。
そんなある日、私は、我々以外の知的生命体を探すため、仲間の元を離れ、有り余る時間を活かして自由気ままな旅に出ることにした。
ところで我々は、広大な宇宙を旅するのに乗り物を必要としない。
何も存在していないように見える宇宙空間にも、実は、エネルギーが満ちており、私はそれを取り出して利用することで生きている。また、それを運動エネルギーに変換し、凄まじいスピードで移動することもできるのだ。
だがしかし、宇宙はとてつもなく広い。これまでの道のりは、私でさえ気が遠くなるほど、長い旅だった。ときおり、旅を始めた目的すら、忘れそうになるほどだった……。
私は思い出にふけるのをやめ、その惑星に近づいてみた。
すると夜の側には、自然に出来たとは思えない無数の明かりが灯っていた。どうやらこの惑星には、知的生命体が暮らしているとみて間違いないだろう。
「やった! 見つけたぞ!」
私は小躍りしたかったが……できなかった。この時初めて、肉体を持たないことを、ほんの少しだけ、悔やんだ。
そして気を取り直し、大陸の隣に並ぶ、ひときわ輝く島の一つに狙いを定め、地表近くまで降りてみた。
予想通り、何らかの知能が作り上げたとしか思えない、街があった。
私はその街をしばらく観察してみた。
夜の街は静まり返っていたが、幾らかは、活動している住人もいた。乗り物に乗って移動する者や、手に持った道具を忙しそうに操作する者もいた。どうやら彼らが、この街を作り出した種族なのだろう。
私はその住人たちに呼びかけてみた。
「皆さん、こんにちは。初めまして!」
しかし、誰も気づかないようだ。なかば予測していたことではあったが、同時に、少し寂しい気持ちになった。
「どうやら彼らは、コミュニケーションを図るのに視覚や聴覚だけを用いているらしい。直接心を通わせるほどには、まだ、進化していないようだ」
やがて朝が来た。惑星が自転を進めるうちに、さきほどまで夜の側だった地域を、主星の強い光が照らし始めたのだ。
するとそれまで休息していた知的生命体たちも、次々と目を覚ましたらしく、活動を始めた。
「やあ、こんにちは」
私は突然、ある知的生命体から、歓迎のメッセージを受け取った。それは、その知的生命体― ― とりあえず「彼」と呼ぶことにする― ―の心から、直接発せられたものだった。
「これは驚いた……どうもはじめまして」いい意味で予想を裏切られた私は、友好のメッセージを返した。
彼はまた、好奇心旺盛で、私が何者でどこから来たのかをしきりに知りたがった。そこで私はこれまでのいきさつを、ごく簡単に説明した。
「ところで、あなたの隣にいる方々はどなたです?」私は彼のそばにいる二体の知的生命体のことを尋ねてみた。
その二体は、彼と同じ種族のようだったが、私の存在には気づかないらしく、さっきから気になっていたのだ。
なんせ、初めての惑星で、分からないことだらけなのだ。知りたいことは山ほどあるが、とりあえず身近な疑問から順に解決していくしかない。
「ああ、オレの身の回りの世話をしてくれる人たちだよ」彼はそう説明してくれた。
たぶん、彼の属する社会には階級制度のようなものがあり、彼のような能力の高い個体を、そうでない者たちが支えているのだろう……私はそう推測した。
能力が低いとみられる二体は、音波を用いてコミュニケーションを図っていた。音波自体の意味するところは、理解できなかったが、彼の通訳によると、このような内容だったらしい。
「太郎くん、今日は随分とご機嫌だなあ。キャッキャと、はしゃいでいるぞ」
「そうね、まるで目に見えない妖精さんと遊んでるみたいね……きっと赤ちゃんにしか見えないのよ」
「えっ……まさか?」
まさか? 姶良守兎 @cozy-plasoto
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