読み聞かせ童話二題 「オトギリソウ」「ホトトギス」

@SyakujiiOusin

第1話

          読み聞かせ童話「弟切草(オトギリソウ)」


                               百神井応身


 皆さんは、鮮やかな黄色い花を咲かせるオトギリソウというのをご存知でしょうか?

 花屋さんなどでは、ヒペリカムという名で売られていますから、こちらの方が知られている名前かもしれません。ですから日本では、これを西洋オトギリソウと呼ぶこともあります。

 オトギリソウは、漢字では「弟切草」と書きます。弟を切るなんて、なにか恐い名前ですよね。


 その名前が付いた由来というのが伝わっているのです。

 昔々、鷹匠の兄弟がいました。

 鷹匠というのは、強い鳥であるタカの仲間のイヌワシやオオタカやハヤブサを訓練して、鳥や獣を捕らえる猟をする技を持っている人たちのことを指してそう呼びました。

 鷹は獲物を捕まえる戦いをするわけですから、よく怪我もします。

 兄弟は、鷹が傷ついたときの治療薬として、先祖から代々教えられてきた方法で、弟切草から作る薬を用いていましたが、それは秘密であって誰にも教えてはならないことになっていました。

 ところが、あるとき弟はうっかり他の鷹匠にその薬の秘密を話してしまったのです。

 秘密を洩らしたら死ぬしかないというのが家訓だったのです。知っていながら掟を破ってしまった弟に怒った兄は、仲が良かった弟であっても許すことができずに斬り殺してしまいました。このエピソードから、「弟切草」という名前が付いたのだといわれています。

 葉っぱにある黒い斑点は、弟の血しぶきが飛んで残ったものだとされています。


 植物の中には薬草といって、病気や怪我によく効く成分を持っているものがいろいろあります。

 漢方薬と言われるものは、それらの薬効を備えているものから作られます。

 オトギリソウは、果実が成熟する頃に刈り取って乾燥させたものが利用されます。

 また、茎や葉っぱの絞り汁は傷口や打撲症の患部に塗ると、痛みを鎮める効果があるとされています。



        読み聞かせ童話「泣いて血を吐くほととぎす」


                               百神井応身


 幼い頃、兄弟喧嘩をすると、そのたびに母が何度でも話してくれたことです。

 ホトトギスが鳴く声を聞くと、それを思い出します。「あれは、オトウト・キタカ(弟、来たか)と鳴いているのだ」と言うのです。


 むかしむかし、あるところに貧しい兄弟が住んでいました。

 兄は体が弱くて働くことができなかったので、いつも寝ているよりありませんでした。弟は必死になって食べ物を集め、自分は食べられなくても兄のもとに食べ物を運んで養っていました。

 ある日、兄は自分がこんなに美味しいものを食べているのだから、弟はどんなに美味しいものを食べているのだろう?と疑いを持ってしまったのでした。弟を殺して腹を裂いてみたのですが、お腹の中には、何も入っていませんでした。弟は、自分が何も食べなくても、兄の為にせっせと働いていてくれたことがわかったのです。

 兄は、自分が愚かであったと心から悔んだ挙句に、死んで鳥になった。それがホトトギスとなったのであるというのです。

 だから、鳴くときに「オトトキタカ・・・弟・来たか」というようになった。


 親は子供のためであれば、自分は食べられなくとも尽くそうとするし、子は親の恩義に報いようとする。人とは、互いを思いやる優しい心がなくてはならない。

 母は、人としての心のありようを正しく持つことを折に触れて教えてくれた。ましてや兄弟であるなら尚更それを大事にしなさいと教えたかったに違いない。

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